第74話 適材適所
1分か、2分か。それとも数秒か。
時間感覚がなくなるほどの衝撃が体を叩き、すべての感覚が鈍る。
今は、岩さんの防御を頼って堪えるしかない。
神に祈るようにして身構えること、しばし。
ようやく奴の魔法の威力が徐々に収まっていき……消えた。
「ぅぅ……」
「ミソラ様、大丈夫ですか?」
「は、はい。ウチはなんとか……それより防御は……?」
辺りを見渡すが、防御は突破されていない。岩さんの魔法が、防ぎ切ってくれたみたいだ。
が、岩さんは眉間に皺を寄せて、渋い顔をしている。
「マズイなァ、こいつは。今の一撃で、防御の半分を持ってかれた。防げて、あと一撃だぜ」
「えっ……!?」
「い、イワ様。ならもう一度防御魔法を……!」
「そいつァ無理だ。攻略者を護るために壁を作ってる上に、詠唱魔法は魔力や精神力を膨大に使う。奴を仕留めるためには攻撃にも注力しなきゃならんしな」
岩さんの言う通りだ。奴にダメージを与えられたのも、岩さんの魔法攻撃があってこそ。
特大の防御魔法2つを維持しながら、2人の援護と、
やはり、この人も化け物だ。
「だがあれだけの威力の魔法を、そう何度も使えるとは思えない。恐らくタメがある上に、今は俺の楔で動きも止めている。まあ触手はまだ俺の防御を攻撃しているがな」
「な、なら回復薬を飲めば……! 岩さんも持っていますよね!?」
「残念だが、すでに飲み切った。奴の前にも、何体か近付いてくる魔物がいたのでな。対応しているうちに、この有様だ」
「じゃあ、ウチらが持ってるやつを。3本あります。岩さん、これを全部使えば、アイツを倒すまではみんなを護り切れるはずです」
ポーチから3つの回復薬を取り出し、岩さんに渡す。
鬼さんやレビウス、モチャがいない今、この3人でみんなを護るには、これしかない。
岩さんは回復薬に一瞬だけ目を落とすと、首を横に振った。
「いや、俺は1本でいい。みみみとムーランも、1本ずつ持っておけ」
「で、でも……」
「今俺は、援護にしか回れん。奴を仕留めるのはお前ら2人に任せる。重要な場面で魔力切れなんて起こされたら敵わんからな」
岩さんから回復薬を渡され、美空とムーランは顔を見合わせる。
美空は一瞬弱気な思考に陥りそうになったが、首を振って大きく息を吐いた。
ムーランも、覚悟を決めた目で小さく頷く。
「わかりました。ウチらがやります」
「イワ様。皆様のことは任せましたわ」
「誰にものを言ってやがる。俺ァ、鉄壁のダンジョン警備員だ。……護るモンのため、業務を執行する」
ニカッと豪胆に笑う岩さんを見て、2人も釣られて口角を上げた。
この人が後ろに入れば大丈夫。そう思わせてくれる力強さが、岩さんにはあった。
「俺の合図で、2人が通れる分の穴を開ける。もう一度言うが、奴は楔によってさっきのように大きくは動けない。だから注意するべきは、触手と魔法攻撃だ。奴の剛腕は可動域的に脅威ではない」
「「はい!」」
美空は精霊武装へ魔力を集中し、ムーランも身体強化魔法を再度使用する。
岩さんは目を閉じ、楔を通じて、
待つこと数秒。目を見開くと、手を組んで2人の前に穴を開けた。
「今だ!」
「「────ッ!」」
合図と同時に、防御魔法の外に飛び出す。
2人が飛び出すと、気配を感じたのか
相変わらず凄まじい連撃。だが、さっき美空が1本を斬ったから、残りの触手は5本。たった1本斬っただけで、ここまで避けるのが楽になるとは思わなかった。
(さっきより楽だ。これならっ……!)
【みしょら!】
「ッ!?」
暴れ狂う触手。それが運悪く、どうしても回避できない方向から、挟まれる形で振り下ろされた。
このままじゃ直撃──
「妖姫流──弾き牡丹!」
──する前に、間に割って入ったムーランが、拳で触手を弾き飛ばした。
軌道を変えられた触手は、2人に触れることなく地面を抉る。
「ありがとうございます!」
「お礼は後ですわ! わたくしが道を作りますから、ミソラ様は触手を斬ることだけを考えてくださいませ!」
「わかりました!」
確かにそれが最適だ。
こいつの肌はブヨブヨしていて、打撃を通さない。ムーランの攻撃は基本打撃。それより、斬撃が主軸の美空が斬った方がいい。
適材適所。ムーランと岩さんの援護の元で、触手をすべて斬る……!
前をムーランが走り、後ろをついて行くように駆け抜ける。
触手の動きにはだいぶ慣れてきた。不規則な中でも、規則的なリズムがある。美空が感じられるほど僅かなものだが、戦闘センスの塊であるムーランからしたら、見切るのはイージーだろう。
「フッ……!!」
主にムーランが、迫ってくる触手を弾く。間に合わず背後から来る触手は、美空が対処する。
後ろから岩さんの魔法が本体を攻撃し、意識を逸らしていた。
これなら、行ける。
美空はレーヴァテインに黄金の炎を纏わせ、狙いを定めた。
「とっっっせい!!」
ムーランも今が好機と察知したらしく、2本の触手を脇に挟み、瓦礫を足場にその場に踏みとどまる。
人外の馬鹿力によって、触手はたわまず一直線に張り詰める。
これじゃあ、本当にゴリラみたいだ。
なんてことは言葉にせず、触手を辿って一瞬で本体に詰め寄る。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!! ────ッ!?!?」
咆哮と共に剛腕を振り下ろしてきたが、岩さんから放たれた鋼鉄の槍がそれを弾く。
次に、小さい鉄球(と言っても、直径1メートルほどの)が目くらましのように、顔面や腹部に叩き込まれた。
(ここ──!)
美空は攻撃に全集中するように呼吸を止めて、一気に触手の上を駆け抜けた。
さっき、触手を斬った感触からわかる。この触手は、先端に行けば行くほど柔軟なため、剣でも斬れない。
だが根元は触手の主軸。その分、他の部位より硬い。
硬ければ、弾力がなければ……斬れる。
「
上から下へ。下から上へ。円を描くように放たれた刃によって、2つの触手は根本から絶たれた。
あと、3本。このまま……!
「ミソラ様ァ!!」
「──ぇ……?」
ムーランの叫び声に、気付いた。
残り3本の触手。その先端と、牙がわななく巨大な口が……紫色に光っていることに。
口だけじゃない。まさか触手からも魔法を使ってくるとは思わなかった。
炎の推進力を利用すれば避け切れるか?
(だめっ、間に合わな……!)
紫の閃光が、一段と大きく輝く。
美空は死を覚悟し、目を瞑り……。
「よかった、まだ死んでいませんね」
「目を開けろ、莫迦者」
「にゃははー! まーにあったぁ!!」
「────ッ?」
ハッ、と目を開けると……美空を囲うように、3人の人影が見えた。
恐らく……いや、間違いなく。現代日本で、最強に数えられる3人。
レビウス。モチャ。そして……鬼さんだった。
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