第70話 直感的

 キメラは、相手がレビウス格上ではなく美空格下だとわかったからか、嘲笑うかのように牙を剥く。

 確かにレビウスと比べたら、美空は弱い。雑魚と言われてもいい。

 だけどそれは、レビウス化け物と比べたらの話だ。



「あんまりウチを舐めてると……痛い目見るよ」

「ガルルルルルアアアアアアアアアッッッ!!!!」



 キメラが咆哮を上げ、ドラゴンの翼を大きく広げて跳躍する。

 壁、天井、壁、地面、天井。高速かつ軌道の読めない動きで、こちらへ迫ってくる。

 でも、さっきの馬と比べれば遅い。まだ反応できるスピードだ。



「《日没の光刃ヘリオス・フィロ》!」



 陽炎ようえんの斬撃を放つと、蛇の尻尾がうねり、弾くようにして炎をかき消した。あの馬でさえ避けた攻撃を弾くなんて、蛇の尻尾はかなり硬質みたいだ。

 けどおかげで、キメラの動きが緩んだ。

 両脚に魔力を集中し──発火。

 炎の破壊力と、それによって生み出された推進力を元に、キメラへ肉薄。

 同時にレーヴァテインへ魔力を流し、黄金の炎を纏う。



「フッ──!」

「ッ……!」



 突進するように炎剣を振り下ろすも、寸前で避けられてしまった。

 ほぼ全力のスピードだったのに、まさか避けられるとは思っていなかった。

 キメラと位置が入れ替わるように対峙すると、レビウスが首を横に振った。



「遅い」

「レビウスさんの次元と比べないでください!」

「違う、スピードの問題ではない。判断だ」



 レビウスの言葉に、美空は眉間に皺を寄せた。

 言っている意味がわからない。なぜ今判断の話が出てくるのか。



「そも、一撃で仕留めようとするから、避けられたときに追撃できんのだ、愚か者。一撃で終わらせるな。仕留めるまで攻撃の手を休めるな。避けられたら即座に判断し、行動しろ。思考するな、動け、莫迦者」

「一々貶さないと気が済まんのかアンタは……!」

「俺に噛み付く余裕があるか? 来るぞ」

「ッ!?」



 いつの間にか、巨大なドラゴンの爪が目の前に迫っていた。

 なんとか身をひるがえして避けるも、今度は蛇の尻尾が追い打ちをかけるようにうねる。

 ギリギリのところで身を屈めて回避する。目標を見失った尻尾は、硬質なダンジョンの壁を深く抉った。

 たかが尻尾の無造作な一撃が、中層の魔物が繰り出す攻撃を上回っている。

 強い。ものすごく、強い。



「このッ!」



 バランスを崩しながらも、レーヴァテインを振るう。

 追い払う目的で雑に振った炎剣はキメラに当たらず、簡単に躱されてしまった。

 それなら、遠距離攻撃だ。



「《ファイアー・ボール》!」



 精霊武装で強化された炎の球を放つ。1つや2つではなく、弾幕を張るように無数に。

 だがキメラのスピードには敵わず、余裕を持って躱された。



「もっと自由に動け。反射で行動しろ。思考は邪念だ。相手をよく見て、殺す最善の動きを魅せてみろ。全世界のリスナー、数十万人が観ているぞ」

「ッ……あーもう! こいつ倒したら次はアンタをぶん殴る!」

「やってみろ、小娘」



 レビウスへのイラつきとムカつきが、徐々に思考を奪っていく。

 直後──全身に、異様な力が漲ってきた。恐らく魔力が爆発的に上がっている。

 なぜいきなり? とか、どうして今? とか、そんなことどうでもいい。

 今はこの力で、キメラを倒す。それしか考えられない。



「カロロロロロ……!」

「フシューーーーッ……!」

【みしょら、こわい】

(ごめんひまちゃん、今それどころじゃない)

【うい】



 向日葵には申し訳ないが、キメラが先だ。

 互いに睨み合い、数秒後。どちらともなく、同時に地面を蹴った。

 キメラは壁をジグザグにジャンプして、爪撃そうげきを繰り出す。

 美空はレーヴァテインでそれを受けると、地面に深い亀裂ができる。

 次いで、もう片方の爪撃が迫るも、今度は太陽の力で強化したガントレットで受けた。

 また、地面が深く陥没する。折れそうな心と膝を、気合いで乗り切った



「グロロロロロロロロロロロロロッッッ!!!!」



 一際大きな咆哮。

 キメラは大きな口を開き牙をギラつかせると、思い切り噛み付いてきた。

 目の端に、ムーランが息を飲むのが見える。

 今までの自分だったら、この攻撃で間違いなく死ぬと悟り、硬直していただろう。

 だが──今の美空は、違う。

 思考を捨て、もっと自由に、反射的に生き延びる術を……こいつを殺す最前の動きを……!



「ッ────!!」



 考えるより先に、美空の脚が超高速で瞬く。

 繰り出された右脚は、まるでI字バランスをするかのように、キメラの顎下を捉える。

 思い出されるのは、初めてキメラを見たあの日のこと。

 鬼さんがキメラを倒すために放った、必殺の蹴り。

 見様見真似で、直感的に、あれを──再現する。



「ガッ……!?」

「おおおおぉぉぉぉっっっ……りゃッ……!!」



 衝突と同時にかかとから炎を噴射。

 爆発的な推進力を得ながらキメラの顎を貫き……同時に、つま先からも炎を噴射。

 貫かれた頭部が急激に膨張すると、黄金の炎を撒き散らしながら爆散した。

 推進力で破壊力を上げ、どんな魔物を相手にしてもとどめの一撃を忘れない。


 警備術一式、蹴撃しゅうげき穿抜うがちぬき……改。


 陽神の炎穿ちデウス・デザストリア



 ────────────────────


 ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

 ブクマやコメント、評価(星)、レビューをくださるともっと頑張れますっ!

 よろしくお願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る