第68話 助っ人

(速いッ──!)



 当たる寸前に横っ飛びで回避。

 が、2体目が避ける方向を察知していたのか、先回りして突進してきた。

 速すぎる。その上、この突進──



【《陽日の炎盾そる・えすくど》!】



 その時、咄嗟に向日葵が防御魔法を展開した。

 当たるのはまずいと感じ取ったらしく、馬は寸前で方向を変え、美空を通り過ぎていった。



「ありがとう、ひまちゃん」

【ぶい】



 本当、助かった。あそこで向日葵が魔法を使ってなかったら、串刺し……いや、体が爆散していたに違いない。

 馬の魔物は、方向転換してまたこっちへ向かってくる。

 ひたいの角が淡い緑色に光っている。恐らく……いや、間違いない。


 この魔物、魔法を使っている。


 本来魔物は、魔法を使うことはない。否、使えない。

 だけど稀に、魔法を使える魔物……特異体というのが存在する。ボスがそのいい例だ。

 でもこいつは、下層の一般魔物。そんな奴が魔法を使えるなんて、聞いたことがなかった。



(最近忙しかったから、別のDTuberの配信を見れてなかった。情報収集を怠った……!)



 後悔は後。今はなんとかして倒すことを考える。

 レーヴァテインの火力を上げ、脇に構える。



「《日没の光刃ヘリオス・フィロ》!」



 もう1度、炎の斬撃を飛ばす。縦ではなく、横に凪ぐようにして。

 馬は突進しながらもジャンプして空中に回避した。



(ここ……!)



 空中なら身動きも取れない。ここを狙う。

 レーヴァテインを地面に突き刺し、両手を魔物に向けた。

 身体強化の影響で上がった動体視力と反応速度で、空中にいる魔物を捉える。

 絶対に避けられないであろうタイミング──ここ。



「《神の烈炎ミスラ・ソル》!」



 放たれた黄金の炎が、光線となって魔物に向かっていき……飲み込んだ。

 間違いなく、避けられていない。完璧に捉えた。

 ……はずだった。



「「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッッッ!!!!」」

「ッ!?」



 炎に飲み込まれたはずの魔物は、炎の中を突き進んでくる。まるで、美空の攻撃を意に介していないように。

 だが魔法のおかげで、さっきのような勢いはない。

 レーヴァテインを手に取り、再び超高速で接近。とにかく1体に集中し、攻撃を繰り出す。



「フッ……!!」



 生物の弱点である頭。これは魔物であろうと変わらない。大きく振りかぶり、脳天に向かって炎剣を振り下ろした……が、しかし。角に魔力が一点集中すると、甲高い音がダンジョン内に反響する。


 これは──まずい。


 攻撃をやめ、防御魔法を展開しつつ本能的に回避する。

 直後。瞬く閃光とともに、緑色の超圧縮された魔力が射出された。

 空間を切り裂くつんざくような音が響き渡り、防御魔法を貫く。

 とんでもない威力だ。まさか防御魔法すら貫通するなんて思わなかった。


 緑色の光線はダンジョンの壁を穿ち、溶かす。

 頑丈なことで有名なダンジョンの壁が溶けるほどの高温。恐らく、今の美空の魔法よりも超高温なのだろう。

 スピード、突進力、それに加えて身体強化魔法と、超スピードの魔法攻撃。

 まさに、下層の魔物に相応しい能力値だ。



「モチャさん、普段からこんなのと戦ってるとか、マジで化け物すぎでしょ……!」



 しかもモチャは、魔法も身体強化も使わずに素の身体能力だけで戦っている。

 いったいどれだけ訓練すれば、そんなことが可能なのか。



「ミソラ様、ご無事ですか!?」



 2体の魔物を相手に苦戦を強いられていると、炎の壁の向こうからムーランの声が聞こえてきた。



「なんとか! ムーランさんは!?」

「あともう少しで倒せますわ! わたくしが向かうまで、なんとか凌いでくださいませ!」

「わかりました!」



 と言っても、凌ぐだけで精一杯……いや、ぶっちゃけ体力的にはかなりしんどい。

 たった2体を相手にしてるだけなのに、まるで数十、数百の魔物と相対している気分になる。


 魔物が一定の距離を取ると、口であろう場所に上下左右に切れ込みが走り、十字に口が開いた。

 グロすぎる見た目だが、引いている余裕はない。

 口の中に緑色の魔力が光ると──次の瞬間、無数の光弾が放たれた。



「くっ!」



 強化された動体視力とスピードで、なんとか避ける。避けきれないものはレーヴァテインで切り、弾き、なんとか致命傷は避けていた。

 だが、量が多すぎる。1体だけでもとんでもない数なのに、それが2体となると数も倍だ。

 大雨のように放たれる光弾をなんとか防いでいると……魔物の体が、より大きな光に包まれる。

 身を低くし、脚に力を貯め……地面を蹴る。

 光弾の雨の中を、超高速でこちられ向かってきた。



「待っ……!」



 思わぬ追撃に体が固まる。

 光弾の雨。それに超高速の突進。

 避ける場所もない。防御魔法も効かない。反応もできない。

 これは、もう……死──



「月魔法──《朧突き》」

「「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッッッ!?!?!?」」

「……ぇ……?」



 美空の背後から、光弾を軽く上回るほどの白い何かが放たれる。

 何かは光弾を尽く塵に変え、2体の魔物も問答無用で肉塊に変えた。

 何が起こったのかわからない。突然のことすぎて、意味不明だった。



「みみみ、大丈夫か」



 突然呼ばれ、ゆっくり振り返る。

 そこには、二刀の剣を携え、涼しい顔をしている……レビウスの姿があった。


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