第65話 恋バナ

「まぁっ……まぁまぁまぁ……! そんなことがあったのですかっ。なるほどぉ〜」



 今まであったことを掻い摘んで説明すると、ムーランは祈るように手を組み、目を輝かせて前のめりになった。

 話したことと言えば、鬼さんとの思い出話なのだが……まさか、こんなリアクションが返ってくるとは思わなかった。


 因みにモチャも、元執行人ということは隠し、美空たちの知らない鬼さんとの昔話をしてくれた。

 その様子から、モチャも鬼さんに好意を抱いてるのは、ムーランにバレたが。モチャも隠している様子はなく、堂々としていた。



「一目見て強いとは察していましたが、さすがわたくしのパパですわっ。ミソラ様とモチャ様が恋に堕ちるのも納得ですわね……!」

「や、やめて。……ほんと、やめてください……」

「にゃはは〜。さす照れるにゃぁ〜」



 事実なのだが、改めて口にされると恥ずかしい。恥ずか死する。

 顔の熱さをなんとかするため、手で顔を扇いでいると、ムーランは感激した顔で空を見つめた。



「あぁ、これが噂に聞く恋バナ……とても素晴らしい……!」

「ムーランたん。その相手が君のお父上だと忘れてないかい?」

「ええもちろん。相手が誰なんて関係ありませんわっ」



 モチャの指摘にも、ムーランのテンションは下がらない。

 今まで母親と2人で暮らし、人生の大半を修行に費やしてきた結果、ここまで拗らせてしまったらしい。すごいやら、悲しいやら。

 と、今度は八百音が、気まずそうに口を開いた。



「えーっと……モチャさんは別として。普通、年頃のJK年代が自分の父親を好きとか、いろいろ思うところがあるんじゃないの?」

「なぜですか? 恋とは、この世で最も純で清らかな想いではないですか」



 どうやら、本気で応援しているらしい。ありがたいのだが、彼女が想い人の娘(歳上)なのが引っ掛かりすぎる。

 頭から湯気が出る感覚を味わっていると、ムーランは美空とモチャの手を取ってより近付いた。



「ミソラ様、モチャ様! わたくし、お2人の恋を応援しますわ!」

「うぇぃっ!?」

「おぉふ……マジか」



 まさかすぎて変な声が出た。

 八百音とモチャも、目をギョッとさせてムーランを見る。

 唯一正常な判断のできる八百音が、頬を掻いてムーランの方を叩いた。



「ムーランさん。忘れてると思うけど、さっきムーランさんのお母さんを含めて、一緒に暮らそうって言ってなかった?」

「……あ」



 どうやら本気で忘れていたらしい。ようやく事態に気付いたのか、明らかに慌てていた。



「どどどっ、どうしましょうっ……! わたくし、パパとお母様と一緒に暮らしたいのですが……でも初めてのお友達であるミソラ様とモチャ様の恋も応援したい……ヤオネ様、わたくしはいったい、どうしたらいいんですのっ!?」

「私に言われても困るんですの」

「そんなこと言わずにお知恵をお貸し下さいませぇ〜!」

「あぶべっ。ゆゆゆゆゆゆゆらららららららららっ!?」



 ムーランが八百音の肩を掴んで強く揺する。

 中層の魔物を素手で屠れるほどのパワーで揺さぶられて、八百音の首がもげそうになっていた。



「ど、どうどう。ムーランたん、落ち着いて」

「う、ウチらは大丈夫ですから。……自分たちの力で、なんとかします」



 半ば宣戦布告のような形で、モチャを見る。

 モチャも受けて立つと言うように、美空の視線を受け止めた。



「〜〜〜〜……ッ! いい……これが、恋敵と書いてライバルと読む関係なのですね……!」

「あはは……まあ、こんな2人だけどさ、これからも仲良くしてやってよ」

「もちろんですわ、ヤオネ様」



 変に、保護者のような言い方をされた。解せぬ。

 と、恋バナには興味なく、ずっとタブレットでお絵描きをしていた向日葵が、眠そうに大きな欠伸をした。



「ひまちゃん、おねむ?」

【ぅゅ……らぃじょぶ……】

「だいじょばないでしょ。もうおうち帰るから、ウチの中に入っててね」

【ぅぅ……】



 向日葵は眠そうに目を擦ると、美空の腕の中に潜り込み、ムーランに向けて手を伸ばした。

 ムーランは優しく微笑み、向日葵の手を包み込む。



【むーたん……また、あしょぼ……?】

「ええ、もちろんですわ」

【……ぁりがと……ぉゃしゅみ……】



 親指をしゃぶり、向日葵の体が黄金色に発光すると、光の粒子となって美空の中へと戻ってきた。

 誰かに見られたら問題だが、近くに人の気配がないのは確認済みだ。


 向日葵がすべて美空の中に戻ってきたのを確認し、ほっと一息つく。



「それじゃあいい時間ですし、帰りましょうか」

「だね。あー、楽しかったー」

「ひっさびさにリフレッシュできたって感じ。ダンジョンの中だけだと、どーしても気が滅入るからねい。まあ明日からもダンジョン攻略だけど」



 気付けば日も傾いている。風も冷たいし、早く返ってお風呂に入りたい。

 レジャーシートの上に広げていた荷物を片付け始める。すると、ムーランが「あのぉ……」と小さく手を上げた。



「皆様。わたくし、その……あ、明日も皆様とご一緒したいのですが、ダメ……でしょうか?」

「え? それって、ダンジョン攻略をってこと?」

「はいっ。せっかく仲良くなれたのですから、どうせならと……どうでしょう?」



 指をもじもじさせて、提案するムーラン。

 ムーランの強さは底が知れないが、1級品の強さを持っていることだけはわかる。

 それに、ムーランはまだ攻略者になって半月。ダンジョンの中のこともあまり知らないみたいだし、1人で突っ走って危険な目に合う可能性もある。かつての自分のように。

 考えるまでもなかった。



「もちろん。ウチからもお願いします」

「本当ですの!? えへへっ。嬉しいですわっ、嬉しいですわ……!」



 頬を手で包んで、少し気持ち悪い緩み顔を見せる。余程、嬉しいらしい。



「なら私もー……って言いたいけど、私はダンジョンにトラウマがあってさ……今はみみみチャンネルの裏方なんだよね。残念だけど後方で見守ってるよ」

「アタシは下層攻略者だから、厳しいかな。ま、2人が下層に到達したら、パーティーを組んで一緒に頑張ろうにぇ」

「ええ、もちろんですわ! うふふっ。一緒に頑張りましょうね、ミソラ様!」



 美空に抱きつくように、タックルを噛ましてきた。

 さすが鬼さんの娘。ただのタックルなのに、威力が半端じゃない。

 妙な冷や汗を感じながらも、美空は笑顔を作って頷いた。


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