第57話 再来・モンスターハウス

 ムーランは嬉しそうに笑い、足速に美空に近づくと、手を取って絡めてきた。



「ミソラ様、こんなところで再会できるとは思いませんでしたわっ。どうして上層のこのような場所に?」

「それウチのセリフなんですけど」



 ムーランが目指しているのは下層。そこにいるであろう、捜し人に会うためだ。上層のこんな辺鄙な場所にいるなんて、どうしたのだろう。



「実はわたくし、もんすたーはうす?という所にいたのですわ。そこなら戦闘の感を研ぎ澄ませるには持ってこいと、お母様に教えられていたので」

「えっ、モンスターハウスにいたのっ?」



 しかも見た感じ、服が昨日のままだ。大した汚れも傷もないが、服が所々解れていたり、裾が破けている。

 まさか、あの後ずっとダンジョンにいたのだろうか。しかも、単身でモンスターハウスに乗り込んで……。



「く、クリアしたの、あれ?」

「はいっ。大変でしたけど、とても充実した場所でしたわ。今は帰宅して、明日もう1度遊びに行こうかと」



 遊び。狂化した魔物の殲滅がクリア条件にも関わらず、それを遊びだと言い切った。

 いったい、どれほどの力を持っているのだろう。

 底が知れない恐怖。こんな感情、初めてだった。


 と、ムーランが隣にいるモチャに気付き、慌てて身なりを整えた。



「もっ、申し訳ありません。はしたなくはしゃいでしまって……!」

「あ、いえ気にしないでください。ムーランさん、こちらウチの師匠兼DTuber仲間の、モチャさんです」

「モチャ様? 初めまして。わたくし、ムーランと申しますわ」



 いつものように、ムーランは膝を折って優雅にお辞儀をする。

 が、モチャはじっとムーランを見つめたまま反応しない。

 さすがにこのままじゃ失礼になる。

 美空は慌てて、モチャにムーランを紹介した。



「も、モチャさん。こちらはムーランさんです。ほら、昨日の夜お話した」

「…………」

「……モチャさん?」



 何やら様子がおかしい。リアクションがなさすがる。

 モチャの顔を覗き込むと、目を見開いてムーランを見つめていた。



「モチャさん、挨拶してくださいっ」

「……ぇ、あ。ご、ごめんごめん。どもども初めまして、モチャでーす。よろしくねぃ、ムーランたん!」

「た、たん……?」



 いつもながら、距離の詰め方がバグっている。

 モチャはムーランの手を取ると、ぶんぶんと力強く握手した。



「きのーのみみみお嬢ちゃんの配信見たよ! 君、めっちゃくちゃ強いね!」

「やっ、やめてくださいませ。わたくしなんてまだまだで……は、恥ずかしいですわ」



 本当に恥ずかしがっているのか、ムーランは顔を真っ赤にし、頬に手を当てる。

 モンスターハウスをほぼ無傷でクリアしていて、まだまだだと……謙遜しているのか、それとも目指すべき高みがあるのか。



「今度さ、モチャとも一緒に攻略しようにゃっ。お嬢ちゃん経由で連絡してくれたら、いつてもウェルカムだからにぇ」

「は、はい、是非! モチャ様もとてもお強そうなので、楽しみにしていますわ」



 強い人が好きなのか、それとも単なる人好きなのかわからないが、ムーランは嬉しそうな顔でモチャと手を絡める。

 なんだかんだ、この2人も仲良くやっていけそうだ。


 ムーランは手を振って自分たちが来た道を戻っていき、姿が見えなくなるまで見送った。



「いやぁ……びっくりしましたね。まさか1人でモンスターハウスを攻略するなんて……」

「…………」

「……モチャさん?」



 さっきからどうしたのだろうか。急に静かになったり。

 モチャは黙って画面を操作すると、音声をミュートにし、『少々お待ちを〜』の待機画面にした。



「ふぅ……あの子、やばいね。近くで見たら、マジで化け物だ」

「え」



 急に真剣な顔になったかと思えば、物騒なことを言い始めた。

 確かに強いとは思うが、モチャが化け物認定するほど強いなんて思いもしなかった。



「ほら、これ」

「え? うわっ……!」



 モチャの手に、くっきりと手跡が残っている。腫れてはいないが、赤く鬱血していた。



「アタシも本気じゃなかったとはいえ、素の状態で力が拮抗したのは初めてかも。もちろんセンパイとかレビウスは別で」

「モチャさんとパワーが拮抗って……」



 それは本当に人間なのだろうか。まさか、精霊なんじゃ……? そう言われた方がしっくりくる。



【みしょら、ちがっ】

(ひまちゃん?)

【むーたん、せーれー、ちがうっ。ひま、わかりゅ】



 向日葵は精霊だから、仲間の気配がわかるらしい。そうじゃなくても、もし精霊だったら既にレビウスが動いているだろうし、この線はないだろう。

 と言うことは、純正の人間で……。



「本当、何者なんでしょうね……」

「わかんない。まあ、繋がりはできたし、ゆっくり探って行くよ」



 モチャは大して気にしていないのか、肩を竦めて配信を元に戻した。



「みんなお待たせー。ちょっと電波が悪かったみたいでさ。もー大丈夫だから、心配しないでちょ」



 いつもの笑顔でカメラに手を振るモチャ。どうやら、ムーランの話には触れないらしい。

 美空もそれを察して、モチャに合わせるのだった。






 そこから歩くこと20分弱。見覚えのある……いや、忘れようとしても忘れられない場所に辿り着いた。

 ただただ、広い空間。そこに、蠢く魔物の群れがいる。

 獣特有の悪臭と、腐臭。唸り声や咆哮が至る所から聞こえ、神経を逆撫でしてくる。



「おーおー。相変わらずすんごい群れだねぃ。お嬢ちゃん、行けそう?」

「は……はい。なんとか」



 まだ体は震えるが……大丈夫。大丈夫だ。自分はあの時とは違う。成長し、強くなっている。だから大丈夫。

 美空だって、この1年でいろんな経験をしているのだ。こんな所で足踏みしているようでは、ダンジョン攻略なんて夢のまた夢だろう。


 レーヴァテインを引き抜き、呼吸して気を鎮める。

 たっぷり10秒数え……。



(行くよ、ひまちゃん……!)

【あい!】

「《精霊武装・向日葵スピリット・オブ・ソレイユ》──!!」



 全身から迸る太陽のエネルギーが、美空の体に力を与える。

 最初から、全力全開。すべてを焼き尽くす──!


 ────────────────────


 ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

 ブクマやコメント、評価(星)、レビューをくださるともっと頑張れますっ!

 よろしくお願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る