最強を継ぐ者

第51話 次の目標

「はーいどーもー! みみみダンジョンチャンネルへようこそ! DTuberの、美空でーす!」


『みみみ』

『みみみ』

『待ってた』

『キチャー!』

『なんか久々?』

『初見です』

『やったー!』

『初めてリアタイできた!』

『おひさ〜』

『みみみ!』


「いやいや、そんな久しぶりじゃないよ。言うて3日ぶりとか……あ、初見さんもいらっしゃ〜い。ゆっくりしていってね」



 向日葵と融合して、初めてのダンジョン攻略。

 今日はいつも通り、配信をしながら中層の攻略だ。



『みみみ、あの子のことで落ち込んでない?』

『精霊ちゃん、警察に処分されちゃったんだよね……』

『可哀想』

『ショックだとは思うけど、元気だして』

『あの精霊可愛かったのに……!』

『俺たちはみみみの味方だから!』

『うおーーーー! みみみ好きだーーーー!!』


「え? …………あ、ああ、そうだね。うん、ウチは大丈夫だよ」



 そう言えば、そうだった。向日葵は世間的には処分されてることになってるのだ。ニュースでも大々的に取り上げられていたし。



「みんな、心配してくれてありがとう。でも大丈夫。本当、大丈夫だからね」

【う?】



 そう。向日葵はずっと、自分の中にいる。会おうと思ったらいつでも会えるし、力を貸してくれる。

 向日葵の姿をみんなに見せられないのは残念だけど、仕方ない。



「それより、今日はタイトルにある通り、重大発表があるよっ」


『なになに?』

『重大発表……?』

『気になる』

『彼氏できた?』

『もしや結婚とか……?』

『泣いた』

『嘘やろ』

『ファン辞めます、ありがとうございました』

『結婚だけはお父さん許しませんよ』

『【投げ銭:10000円】探さないでください』


「いや憶測で落ち込むのやめな?」



 いつもの事だから気にしないけど。リスナーも冗談半分で言っているのは、よくわかっている。

 それに、美空が鬼さんにベタ惚れなのも周知の事実だ。そして、本気にされていないことも。……言ってて悲しくなってきた。


 どうすればこっちを見てもらえるのか……なんて、今気にしても仕方ない。

 美空は頭を振り、雑念を消した。



「彼氏とか結婚とか、そんなの今のウチには必要ない。みみみは、みーんなのみみみだからね♡」


『あ、はい』

『そすか』

『へえ』

『ありがとう』

『はいはい嬉しい嬉しい』

『ガチ恋ムーブ似合わないな』

『でも助かる』

『俺は好きだよ、こんなみみみも』

『慣れないことはしなくていいから。ね?』


「こんのッ……ウチの貴重なファンサを無下にするんじゃないよ、ゴミ共め」


『【投げ銭:5300円】うおーーーー!!』

『【投げ銭:5300円】ゴミ呼びキター!』

『【投げ銭:5300円】助かる』

『綺麗な回収だ』

『【投げ銭:5300円】ナイゴミ』

『ありがとう、ありがとう』

『【投げ銭:5300円】この為に生きてた』

『【投げ銭:5300円】ノルマ達成』

『【投げ銭:5300円】俺も愛してるぞー!!』



 ゴミと呼ばれたいがために、素っ気ないコメントを流す……申し訳ないが、ドン引きだった。それでいいのか、うちのリスナーは。



「あーもう。それじゃ、早速重大発表しちゃいまーす。はい、拍手!」


『拍手』

『わー!』

『拍手』

『88888888』

『88888』

『楽しみ!』

『なんやろ』

『カップ数上がった?』

『もしかして太った?』


「まあ確かに最近きつく……って何言わせんじゃい!」


『助かる』

『助かる』

『ありがとう』

『助かる』

『【投げ銭:1000円】もっとでかくなるのか』

『ありがとう』

『草』

『まだ成長期だもんな』


「あーもう! そうじゃなくて!」



 半分セクハラ発言で埋まるコメント欄から視線を外し、深くため息を着く。こんな脂肪の塊の何がいいのやら……重いし肩こるし視線は辛いし、いいことなんてない。

 ……なんて発言したら、それはそれで炎上するんだろうなぁ……スルー一択だ。



「と、言うわけで、重大発表! わたくし、みみみダンジョンチャンネルは……1ヶ月以内に下層ダンジョンへたどり着きます! よっ、拍手〜!」



 ぱちぱちぱちー、という虚しい拍手がダンジョンにこだまする。

 一瞬、コメント欄が止まる。

 次の瞬間、急激にコメントが流れ始めた。



『現実見なよ』

『やっぱり精霊を失ったショックで……』

『さす下層は無理やろ』

『中層でさえ攻略者歴10年の中堅層が狩り場にしてる場所なのに、下層もか不可能すぎる』

『みみみ、早死にしそう』

『無理はあかん』

『モチャやレビウス並のバケモンじゃないとなぁ』

『みみみも強いけど、あれと比べちゃな』


「うむうむ、みんなそう言うと思ったよ。さすがに、前のウチじゃあ絶対下層なんて行けない。でも、ちょっと事情があってね……ウチ、強くなったんだ」



 美空はレーヴァテインを抜くと、意識を内側に集中する。

 燃え盛る灼熱のパワーが渦を巻き、徐々に体全体へと馴染んでいく。



(ひまちゃん、行くよ)

【うい! ひま、がんばう!】



 目を閉じて、集中。詠唱は向日葵が代わりにしてくれる。

 そして……。



「《精霊武装・向日葵スピリット・オブ・ソレイユ》」



 美空の姿が変貌し、薄暗いダンジョンを照らす太陽のようになった。

 炎のように揺らぐ髪。黄金色に輝く瞳。同じく黄金色のガントレット。それに加え、背中に光輪のようなものも現れた。



「へへん。実はこんなことができるようになったりして」


『え』

『すご』

『え』

『何これ』

『セイクレッド系とは違うの?』

『初めて見た』

『かっけー』

『どういう魔法?』

『確かに強そう』

『すげーな』



 コメントの反応も上々だ。



「ちょっと諸事情で、新しい魔法覚えたんだよね。と言っても、まだ使いこなせてなくて……これからしばらくの間は、この姿で中層を攻略していくよ。んで、力を使いこなせるようになったら……中層ボスに挑む」



 現状でも、中層ボスくらいなら行けそうな感じはする。

 けど、下層の魔物は今までの階層じゃ比じゃないくらい強いらしい。下層に行く前に、まずは力をつけないと。



「てなわけで、しばらくは戦闘だけの単調な配信になると思うけど、みんなよろしくね。チャンネル登録、コメント、高評価もよろしく!」


『わかった!』

『高評価押した』

『【投げ銭:5000円】応援するしかねぇ!』

『がんばれー!』

『俺も高評価2回押した!』


「解除されとるやんけ」


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