第24話 奥に待つもの

   ◆◆◆



「ほむほむ。ここが2人の見つけた、隠し通路のある場所かね?」



 後日。モチャを連れて、2人はもう一度同じ場所にやって来た。

 先日傷つけた場所は、元通りに修復されている。破壊されたり傷付いた場所は、時間が経てば元通りになる。ダンジョン内ではよくある光景だ。



「はい。地図にも書いてあります」

「ほーん……?」



 モチャはダンジョンの壁に手を添えて、何ヶ所か丁寧にノックしている。

 美空にはわからないが、何かないか調べているみたいだ。



「ふむふむ。ほうほう。へぇ。なるほど、なるほど……こ、これは!?」

「な、何かわかりましたかっ?」

「いやまったく」


『草』

『草』

『草』

『わかんないのかよw』

『なんだったんだ今の時間はw』

『時間泥棒すぎる』



 コメントの言う通りだ。何を納得していたのだろうか、この人は。



「あっはー。先輩攻略者っぽく、知ってる感出そうと思ったけど、知らんもんは知らんかったねぃ。ま、これならぶっ壊せると思うから、2人は離れてちょ」

「あ、はい。美空、こっち」

「モチャさん、お願いします」



 2人で少し離れ、モチャを見守る。

 モチャはトールハンマーを構え、何回か振って打つべき場所を見定める。



「んじゃ、行くよー。せーのッ……オルルルルルルルルルルルルルルァ!!」



 ──ズゴシャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!


 衝突と同時に超轟音を響かせ、衝撃波が2人の体を叩く。

 もうこの程度で狼狽えることもなくなった。モチャのパワーにいちいち驚いていたら、キリがない。

 モチャがもう一度トールハンマーを振ると、土煙が一瞬で掻き消え、視界が良くなった。

 打った場所には大きな穴が空き、奥へ続く通路が出てきた。



『ゴリラ』

『これはゴリラ』

『草』

『ゴリモチャ』

『えっぐ』

『昨日2人でやっても開かなかったのにな』

『やはりゴリラか』


「へぇ……本当に通路でてきたよ。こりゃ大発見だよ」

「モチャさん、行きます?」

「もちもち。新しい場所を見つけて行かないなんて、攻略者の風上にも置けないにゃ〜」



 モチャを先頭に、美空、八百音の順番で通路に入る。

 と、次の瞬間。



「ん? あっ。ふ、2人とも……!」



 八百音の声に振り向くと、砕かれた岩が白く光り、ひとりでに宙に浮かぶ。

 それらがパズルのように組み合わさり、数秒もしないうちに入口が完全に塞がってしまった。



『あ』

『まずい』

『閉じ込められた?』

『まさかの』

『ダンジョンにこんなギミックがあるなんて知らなかった』

『これ、何かあっても助けに行ける人いないんじゃ?』

『大丈夫かこれ』


「も、モチャさん……」

「まあ、何かあったらモチャが開けるし、大丈夫大丈夫。むしろ他の人に、手柄を横取りされる心配がなくてラッキー程度に考えなよ」



 そう言われると確かにそうだが、心配なことには変わりない。

 だけどモチャには戻るという選択肢がないのか、どんどん奥に進んでいく。

 美空たちも顔を見合せ、モチャについて行くことにした。


 炎で辺りを照らしながら、奥へ奥へと進む。

 不思議なことに、ずっと一直線だ。どこかで曲がったりもせず、ただ真っ直ぐ進んでいるだけ。

 こんな場所地図には載っていないのだが、理由はモチャが答えてくれた。



「ダンジョンの各階層は、平面じゃなくて立体になってるからねぃ。上層は平面のところが多いから知らないのも無理はないけど、下の層に行くにつれて立体になるかや、マップ上には映らない場所も多いんだよ」

「てことは、私たちは今、下に向かってるってことか」

「そゆこと。あまりにもなだらか過ぎて、気付かないくらいにね……お?」



 モチャが目を瞬かせる。

 視線の先を見ると、通路が開けて大きな空間が広がっているようだ。

 念の為美空も、レーヴァテイン・レプリカを抜いて、顔だけで中を覗く。



「モンスターハウスより広い、かな。でも魔物がいない」

「ここが行き止まりみたいだねぃ。っかしいなぁ。何かあると思ったんだけど」

「モチャさん、なんかあるよ。ほらあそこ」



 八百音が、部屋の中央を指さす。

 確かに、何かある。小さい岩のような、モニュメントのような変なものが。

 3人は顔を見合せて慎重に部屋の中に入ると、周囲を警戒しつつモニュメントに近付いた。



「これは……?」

「石碑かな?」



 腰くらいの高さまである石版に、何か文字が書いてある。日本語でも、外国語でもない。今まで見たことのない文字だ。

 だが、八百音はすぐに何かを察したのか、「あ」と声を漏らした。



「これ、古代ダンジョン文字じゃん」

「古代ダンジョン文字? ヤオ、何それ?」

「この間授業でやった。ダンジョンには、こう言った文字が刻まれたものがよくあるらしいよ。……知らない?」

「さぁ〜……?」



 そもそも美空は、高校に行っていない。知らないのは当たり前だが、モチャも首を傾げていた。



「なんでモチャさんも知らないのよ……」

「にゃはー。モチャ、ダルすぎて高校中退してるしにゃ〜。まあ教育の敗北ってやつ?」


『自分で言うな』

『えぇ……』

『モチャ、俺恥ずかしいよ』

『なんかモチャがすみません』

『で、なんて書いてあるの?』



 そうだ。古代ダンジョン文字があるのはわかったが、読めなければ意味がない。

 八百音を見ると、肩を竦めて首を振った。



「残念だけど、まだ解読の授業まで進んでないんだよ。つーわけで、有識者ニキネキ。解読よろ」



 カメラを掴み、無理やり石版に向ける。

 美空も炎の灯りで、リスナーが見やすいようにした。



『ふむふむ』

『あー完全にわかったわ』

『よよよよよ余裕だし』

『おっぱい飲みたいと書いてますね(-⊡ω⊡)ゞクイッ』

『3人の美女。密室。何も起きないわけがなく』

『とりあえずみみみのおっぱい見たらやる気出るかも』


「おいこらゴミども。きりきりせいや」


『ゴミ助かる』

『ゴミ呼びが気持ちいいー!!』

『ありがてぇ』

『これで生きられる』

『よーしやる気出てきた』

『解読班に任せなさい!』



 美空のチャンネルのコメント欄が一気に沸き立つ。ゴミと呼ばれてやる気が出るなんて異様な光景だが、八百音は慣れてるし、モチャに至ってはリスナー側だ。人知れず恍惚な笑みを浮かべていた。


 と、その時。投げ銭で長文が投稿された。



『【投げ銭:20000円】初めまして、いつも楽しく拝見している、古代ダンジョン文字研究者ネキです。いろいろと回りくどく書いてありますが、どうやらこの石版を、地面に向けて思い切り叩けば道が開けると書いています。入口の閉ざされた壁も、これをクリアするための最低条件のパワーが必要ということらしいですね。どのような道が開かれるかはわからないので、十分注意してください。長文失礼しました』

『ガチの人だ!』

『研究者ネキ助かる』

『つまりモチャのパワーでぶん殴ればいいわけか』

『わくわく』

『どうなるんやろ』


「お、おおっ。研究者ネキさん、ありがとう!」



 これは有益な情報だ。試す価値はあるかもしれない。

 モチャは頷くと、トールハンマーを大きく担いだ。



「おけおけ。2人とも、ちょっち離れてな」

「はいっ」

「モチャさん、よろ」



 美空たちは言われた通り少し離れる。

 今回は横ではなく、縦への衝撃だ。もしかしたら、さっきより威力が出るかもしれない。

 八百音は念の為に砂の防御壁を展開し、カメラの映像でモチャの様子を確認する。



「行くどー。ふっ……!」



 と……直上にジャンプした。

 あんなに重いハンマーを片手に、数メートルもジャンプしている。とんでもないジャンプ力だ。

 モチャは上空で体を逸らし、一気に丸まる。

 その勢いのまま何回転も、何回転も上空で回転し、遠心力をハンマーへと乗せ……。



「トールハンマー……螺旋!!」



 最大パワーで、思い切り石碑に叩き付けた。


 ──ゴッッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!


 さっきの威力の数倍……いや、十数倍の威力の攻撃が石碑に与えられる。

 さっきの壁みたいに破壊されると思っていた……が、石碑は壊れず、微動だにしない。むしろ、衝撃をすべて吸収しているように見える。



「嘘、壊れないの……?」

「モチャのパワーで壊れないって、どんだけ……あ」



 八百音が前のめりで映像を見る。

 と、石版の上に、何か白いモヤのような文字が現れた。



『【投げ銭:1500円】研究者ネキです。「CLEAR」と書かれています』


「……クリア?」

「それって……ん?」



 気付いた頃には、時すでに遅し。

 足元に、無数の亀裂があることに気付くと──直後、崩壊。



「……え?」



 体中を駆け巡る不快感。それが浮遊感だと気付いた時には、もう遅い。

 横目に、一緒に落下していく八百音とモチャを見ながら、美空は気を失った。


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