第17話 パーティー結成
モチャと約束を果たした翌日。
美空は自宅で、正座をさせられていた。……八百音に。
椅子に座って脚を組み、今にも殴りかかってきそうな眼光で美空を見下ろしていた。
こうしてどのくらい経っただろう。多分、5分も経っていない。
なのに、もう1時間もこうしている感じがする。
「や、八百音……あのぉ……」
「昨日の配信、見た」
「ぁぅ」
言葉の圧が強い。やはりそのことだったか。
「何か言うことはある?」
「えっと、その……き、綺麗な御御足ですね♡」
「あ゙?」
「大変申し訳ありませんでした」
土下座した。二重の謝罪を込めて。
八百音は深々とため息をつくと、眉間を指で押さえた。
「あんたねぇ。あそこでモチャが来なかったら、マジで死んでたんだよ? わかる? ここにいないの。私が悲しむの。理解してる?」
「はい……モチャさんにも言われました……」
「……ならよし。何度も同じ話すると、美空も疲れちゃうだろうからね。それで、これからどうするの?」
正座している美空を立たせ、ソファーに並んで座る。
昨日、あの後あったことを八百音に話すと、なるほどと頷いた。
「確かに先生がいるのといないのとじゃ、成長に差は出る……それが下層で活躍している攻略者だと、尚更か」
「うん。鬼さんも先生がいたって言ってたし、お願いしちゃった」
「そういえば言ってたね。……それで修行して、下層に行く、と」
「うん。……そこが、今の目標だから」
今までは気持ちが先行してしまい、焦っていた。けど、道を示してくれる人に出会った。なら、もう大丈夫だ。
美空の顔を見て、八百音は安心したように微笑んだ。
「そう……なら、私もやろうかな」
「何を?」
「んー……攻略者、的な?」
「えっ!?」
思わぬ言葉に、目を見開いた。
あれだけ拒否していたのに、どんな心境の変化なのだろう。
「こんだけ詰めといてなんだけどさ……この間、もし私がついて行くって言ってたら、ピンチになる前に助けられたと思って。私なりにも後悔してるって言うか……ごめん」
「そ、そんな、気にしなくていいのに!」
「気にするよ、親友が死にかけたんだから。だから私も、攻略者になる。私の砂で、美空を護るよ」
八百音が自身の手に砂を出して、覚悟を決めた笑顔を見せた。
この顔の八百音は、もう美空では止められない。長年付き添ってきた親友の顔だ。嫌でもわかる。
「……本当に、いいんだね?」
「もちろん。半端じゃないよ」
「……なら、お願い。ウチに力を貸して」
「うん。一緒に下層に行こう……!」
2人が硬い握手をして、笑みを向け合う。
こうして、美空と八百音の攻略パーティーが誕生した。
「そうだ。一緒に行動するなら、配信に出てもらうことになるからね」
「え」
◆◆◆
「はーいどーもー! みみみダンジョンチャンネルへようこそ! DTuberの、
『みみみ』
『みみみー』
『みみみ』
『待ってた』
『今日も元気で偉い』
『楽しんでこー』
『隣の子誰?』
『かわいい!』
『カッコイイ系女子キター!』
早速ダンジョンにやって来た2人は、上層の人気のない場所から配信を始めた。
隣には、いつもはいない八百音。緊張しているのか、無表情でコメントを見ている。
「ぁ、本当に映ってるんだ」
「当たり前だよ、配信だかね。とゆーわけで! なんとなんと、わたくし本日から、この子とパーティーを組んで行動したいと思いまーす! お名前をどうぞ!」
「えっ。あ、その……ゃ、ヤオ、です。よろしく……でしゅ……」
見た目のクールさ、かっこよさと裏腹に、八百音は顔を真っ赤にしておずおずと挨拶した。
声も小さく、最後は噛むし、微妙に聞き取れない。
だがそれがギャップとなったのか、コメントは大盛り上がりだ。
『【投げ銭:1500円】かわいい』
『【投げ銭:2400円】可愛い』
『【投げ銭:900円】かわわ』
『【投げ銭:3000円】かわいい』
『好き』
『これはかわいい』
『【投げ銭:5000円】みみみから推し変します』
「おいこらゴミ共、2人とも推せ!」
確かに八百音はカッコ可愛いクール系だし、人気が出るのはわかるが、推し変は違うだろう。
まあ冗談だと理解しているが。
美空はやれやれとため息をつくと、八百音の腕に抱き着き中心に立たせた。
「ヤオとウチは幼なじみで、親友なんだ。前から攻略者とDTuberに興味があったみたいで、今回誘っちゃった」
「そんなこと一言もがっ」
余計なことを言おうとした八百音の口を手で塞ぎ、カメラに笑顔を向ける。
「てなわけで、今日はダンジョン初心者のヤオの為に、1時間ぐらい上層を探検しようと思うよ。少し短いけど、楽しんでってね☆」
『りょうかーい』
『わかりました!』
『無茶すんなよ』
『おけ』
『りょうかい』
『はーい』
『了解』
「それじゃあダンジョン体験ツアー、レッツゴー!」
「グルアアアアアアギャブッ!?」
10分後。オークとエンカウントした。
早速美空が八百音にいいところを見せようと、剣を抜く。
が、それよりも早く、八百音が発動した砂魔法により、砂の槍が地面から現れてオークを串刺しにした。
ここまで、僅か数秒。美空の出番、無しである。
『え』
『え?』
『え』
『はや』
『草』
『草』
『本当に初心者?』
『は?』
『草』
『つっよ』
『ヤオちゃんは砂なのか』
『すげ』
「え……と……や、ヤオ、なんか躊躇ないね」
「え? まああれくらいなら、美空の配信でいつも見てるし。それに……あいつ程度で躊躇してたら、これから美空を護れないでしょ」
『かっけぇ』
『これはかっこいい』
『惚れる』
『惚れた』
『【投げ銭:10000円】キャーお姉様ー!』
『かっこよすぎる』
『護られたい』
『みみみ羨ましい』
『【投げ銭:5000円】こんなかっこいい女子がいるのか』
八百音の活躍とイケメンさに、コメントも大盛り上がり。
美空としても嬉しいし、これだけ躊躇ないのも驚いたが……ちょっとだけ、複雑だった。
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