第18話 圧倒

   ◆◆◆



 2人でダンジョンに潜り、1週間が経った。

 と言っても、八百音はいつも通り高校に通っているから、できたとしても夕方からの数時間。無茶をしない、というのが前提だ。

 そして今日。美空と八百音は、モチャに呼び出されて横浜ダンジョンへやって来ていた。

 メッセージで添付されていたマップを頼りに、ダンジョン内を歩く2人。

 この1週間で2人の連携もだいぶ良くなり、今は上層の魔物は危なげなく倒せている。



「美空、あとどのくらい?」

「あそこの角を曲がった先っぽい。もう先についてるって」

「……ねえ。向こうから爆発音とか聞こえる気がするんだけど、気のせい?」

「奇遇だね。ウチも同じこと考えてた」



 さっきからダンジョン内に爆発音や衝撃音が響いている。

 近付くにつれてそれが大きくなってくる。多分、あの角を曲がった先から。

 モチャが何かしているのだろうか。だが、モチャが上層の魔物と戦っている程度じゃ、こんな音は出ない。

 八百音と顔を見合せ、恐る恐る曲がり角から顔を出すと……。



「はっはっは。相変わらず、お元気ですねぇ」

「チィッ!!」



 トールハンマーを構えて、下層でも見たことのない顔で戦っているモチャ。相手は……なんと、鬼さんだった。



「なっ、なんであの2人が……!?」

「わかんないけど……割って入れる感じじゃないのはわかる」



 八百音の言う通りだ。自分の知る中で、化け物2人がやり合っているのだから、上層で細々活動している自分たちでは、止めるなんてできない。

 なのだが……半ば本気に見えるモチャに対し、鬼さんは余裕でいなしている。

 むしろ、攻撃も必要最低限。モチャを相手に笑顔を崩していない。


 モンスターハウスのように広い空間だが、ここにはあの2人しかいない。

 それもそうだ。如何に魔物と言えど、こんな怪獣大戦争みたいな場所には近寄りたくないだろう。



「もっと本気だせや!!」

「本気にさせてください」

「上等だゴルルルルルァ!!!!」



 モチャがトールハンマーに魔力を流す。

 目に紫電が走り、モチャの体から膨大な魔力が迸る。

 紫電が宙に5つの魔法陣を作り出し、重なるように並ぶ。まるで砲塔のような魔法陣は、鬼さんへ向かっていた。


 トールハンマーを掲げ、上空に跳躍するモチャ。

 大きく振りかぶり、鋭い眼光で魔法陣の向こうにいる鬼さんを睨み……。



「《トール・デストロイ》!!」



 魔法陣に、トールハンマーを叩きつけた。

 膨れ上がった紫電が魔法陣を1つ、また1つと破壊し、破壊するごとに巨大化していく。

 最後の1枚を破壊すると、見たこともないほど巨大な雷球が現れ、鬼さんに向かっていく。



「八百音!」

「くっ……!」



 美空がレーヴァテイン・レプリカを抜き、炎をエンチャント。周囲を囲むように炎を放出させる。

 それに合わせ、八百音が内側に砂の防御壁を作り出す。

 向こう側の様子は見えないが、まずは身の安全が優先だ。

 八百音は美空の腕を引くと、地面に押し倒すようにして衝撃に備えた。


 直後──今まで体験したことのない衝撃音と爆音が響き、炎と砂の防御越しなのに衝撃が伝わって来た。

 直撃した訳でもないのに、頭が揺さぶられるほどの衝撃。内臓系に違和感がある程度のダメージを負ってしまった。


 待つこと数秒。だが、自分たちにとっては数時間にも感じるくらい、圧縮された時間が過ぎ、ようやく衝撃が止んだ。



「や、八百音。大丈夫?」

「な、なんとか……」



 八百音も無事みたいでら頭を押さえて起き上がる。

 予め買っていた回復薬を2人で飲むと、衝撃によるダメージは回復した。本来、ここで飲む用に買ってきたものじゃないのだが。

 防御壁を解き、曲がり角からゆっくり顔を覗かせると……。


 四つん這いになって悔しそうな顔をしているモチャと、その上に脚を組んで座っている鬼さんがいた。


 パッと見、ヤバい現場である。



「くしょぉ〜……! また負けたぁ……!!」

「いやはや、今のは危なかったですよ。随分成長しましたね」

「当たんなかったら意味ねーんですよー!!」



 悔しそうな顔で、上に乗っていた鬼さんを吹き飛ばす。ものすごい膂力だ。

 それより、自分たちより近くにいて、あの魔法を向けられていたのに、鬼さんが無傷という事実に、信じられなかった。



「まだまだ、あなたには負けません。もっと鍛錬を積みなさい」

「わかってますよぅ、センパイ」

「ここでは鬼さんです」

「あーい。……およ?」



 と、モチャが2人の存在に気付いた。鬼さんは既に気付いていたみたいで、にこやかに2人を手招きする。

 八百音と顔を見合せ、おずおずと前に出た。



「美空さん、八百音さん。こんにちは」

「こ、こんにちは、鬼さん。えっと……お2人って、知り合いだったんですか?」

「ええ、まあ。昔ちょっと」



 濁した言い方をされた。その分余計に気になるが、追求しても話してくれそうにない。

 モチャはトールハンマーを担ぎ、天真爛漫な笑顔を見せた。



「やーやー2人とも、よく来たね! 鬼さん、もう行っていいよ」

「勝手に呼び止めたのはあなたでしょう」



 やれやれと肩を竦め、鬼さんはお辞儀をして去っていった。

 あれだけの戦闘をしたのに、息一つ上がっていない。それどころか、傷も汚れもついていない。

 対してモチャは汗だくで、全身土埃に塗れていた。



「モチャさんでも、鬼さんには敵わないんですね……」

「うん、べらぼうに強い。ま、アタシの目標みたいな人だから、簡単に負けてもらっちゃ困るけどにゃ〜」



 モチャは負けたのに、清々しく笑う。どこか楽しそうだ。

 と、八百音がモチャに話しかけた。



「モチャ……さん。センパイって、どういうことですか?」

「うーん……ま、鬼さんが言わないなら、アタシからも言わないよん。バレたら怒られそうだしぃ?」



 鬼さんが怒るところは想像できないが、モチャの反応からして、怒ったら怖いというのはわかった。



「あ、そだ。ミュート解除しないと」



 さっきの戦いを配信中だったのか、モチャが画面を操作してミュートを解除する。

 コメント画面も表示すると、美空以上にコメが爆速で流れた。



「オタクくんたち、聞こえてるー? あーあ。勝てると思ったのに、モチャ負けちゃったぁ〜」


『鬼さん激強』

『モチャ負けたの初めて見た』

『あんな強いのか』

『そりゃあ、強くないとダンジョンの警備なんてできんやろ』

『モチャが負けてちょっと爽快だった』


「いやいやいやもっと慰めのコメとか来いよ! 来てくれよ! カモン!」


『ドンマイ』

『おつ』

『はいはいつよいつよい』

『あれは無理』

『勝てない戦いだった』

『見込みなかったもんなぁ』


「泣いた」



 モチャは楽しそうに、コメント欄と会話をする。

 この配信スタイルが好きで、美空もモチャを推しているのだ。

 生でモチャの配信を見て感激していると、モチャが不意に2人にカメラを向けた。



「ちゅーわけで、暇つぶし終わり! こっからは、みみヤオの2人とコラボ配信だよ!!」


『おおおおお!!』

『来た待ってた!』

『みみみー!』

『ヤオたそー!』

『おっぱい要員助かる』

『このチャンネル、おっぱい要素ゼロだもんな』

『おっぱい美女とクール美女とか、このチャンネルも華やかになったもんだ』


「最低だなオタクくんたち」



 さすがのモチャもドン引きだった。2人はこのノリに慣れているから、なにも感じないが。



「ま、まあいいや……そんじゃあコラボというわけで、張り切って自己紹介どうぞ!」

「あ、はいっ。は、初めまして、みみヤオダンジョンチャンネルの、美空です! そして!」

「ども、ヤオです。ピース」


『揺れ』

『揺れ』

『揺れ』

『大地震』

『ピース助かる』

『クール美女のピース』

『3150』



 大盛り上がりのコメント欄に、モチャは満足そうに頷く。

 2人も少し緊張があるものの、努めていつも通りを貫いた。



「じゃあ自己紹介も済んだところで、早速コラボ配信、スターーーート!!」


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