第14話 助っ人
◆◆◆
(まずいっ、まずいっ、まずいっ……! これは、非常にまずいのでは……!?)
炎剣に流す魔力を増やし、いつものように炎による攻撃と防御を両立する。派手な演出をすればヒビに目がいかないし、狂化している魔物も倒しやすい。
が、問題は魔力消費が激しいこと。回復薬があるとは言え、こんな戦い方が続くはずがない。
(ウチはバカか! 確かに防御シールドはすごいけど、永続的に続くわけがないでしょ……!)
とにかく、今は敵を倒し続けるしかない。
幸い、ドローンカメラは上空を飛んでいるから、美空の焦り顔は映っていない。急に激しくなった炎にコメントが高速で流れるが、見ている余裕はない。
(くっ……そろそろ、魔力が尽きて……!)
今は魔力を調整していない。例えるなら、蛇口を全開にして垂れ流している状態だ。もちろん、その分魔法は派手で威力もあるが、魔力の消費は激しく、今にも枯渇しそうになる。
けど、まだ回復薬は飲まない。ここで飲んだら、直ぐに使い切ってしまう。
ギリギリ……そう、ギリギリまで耐える。
魔力も体力も使い、精神が擦り切れそうになるが、まだ……もう少し。
(今……!)
「《フレイム・オーバードライブ》──!!」
最後、渾身の力を振り絞り、レーヴァテイン・レプリカに最大魔力を流し込む。
顕現した巨大な炎は蠢き、揺らめき、渦を巻く。
瞬く間に広範囲へ拡がり、周囲の魔物を一瞬で灰にした。
これだけの火力があれば、狂化した魔物でも倒せるのはわかった……が、目の前が歪み、意識が遠のいていく。典型的な、魔力切れの症状だ。
まずは1つ、回復薬を飲む。本当は水と一緒に飲むのだが、そんな時間がない。
乾く喉で無理やり回復薬を飲み込む。直後、体の内側から力がみなぎり、瞬時に魔力量が限界近くまで回復した。
体力も気力も万全。これなら、まだ動ける。
でも、それもいつまで持つかわからない。動けるうちに、少しでも魔物を片付けなければ。
ヒビも少しずつ大きくなっている。時間もない。
灰になった魔物を踏み付け、残っている魔物が押し寄せてくる。
黒い体に白いオーラの大群。ここまで来ると、大群と言うよりひとつの塊のように見える。
美空は炎剣を握り、大群に向かって駆けた。
(もっと速く、速く……速くッ!)
なるべく攻撃も受けない。すべて、炎で防ぐ。
だがしかし、死角からの攻撃を防ぐ術はない。仕方なく防御シールドに頼るが、ヒビが増えていく一方だった。
『みみみ行けー!』
『行ける! 行ける!』
『けど、シールドにヒビ入ってない?』
『思った』
『ヒビ大きくなってるよな』
『え?』
『てことは、砕けるってこと?』
コメントがザワついているが、美空には読んでいる暇がない。
ただ眼前の敵を斬る、斬る、斬る……。
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る……。
…………。
……………………。
「ひゅ〜……ひゅ〜……」
どれくらい経っただろうか。30分? 1時間? それとも10分だけ?
ただただ、目の前の敵を斬って、燃やして、殺していた。
回復薬も、気付けばあと1つ。これが最後。
防御シールドも、ほぼ全体にヒビが入っている。あと一撃でももらえば、確実に砕かれるだろう。
だと言うのに……魔物は、減っているように見えない。見渡す限り、狂化した魔物で埋め尽くされている。
(ウチ、死ぬのかな……ホント、バカすぎる。最悪。何を学んできたんだろ……いや、高校行ってないし、学ぶも何もないか。パパとママだって──)
唇を噛むと、雑念が血と共に流れた。
そうだ。今自分は、なんの為にここにいる。……下層に行く力を手に入れる。一刻も早く。だからここに来たんだ。どれだけ世間に何を言われようと、バカにされようと、ボロクソに貶されようと、炎上しようと……。
「ウチの歩いた道に、迷いはないッ……!」
最後の1つを口に入れ、ギリギリ残っている水を口に含む。
唇の傷も完治。魔力、体力、気力も回復。炎剣を構え、駆け出した。
「「「グルルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!」」」
魔物から上がる咆哮。
気持ちで押されるな。脚を止めるな。前に出ろ。
「ああああああああああああああッッ!!!!」
自分を鼓舞するように雄叫びを上げ、魔物の波へ突っ込み──何が、自分の目の前に落ちてきた。
突然の乱入者に目が見開かれる。
(誰? 小さい。鬼さん……じゃない……!?)
「にゃはははははははー! 待たせたね、みみみお嬢ちゃん!!」
小さい影は、身の丈を超える……それこそ、大の大人以上の得物を片手で掲げる。
黄金のような輝きを持つ、世界最硬レベルの鉱物の1つ、ヒヒイロカネで作られた、大鎚。
その名は──トールハンマー。
自分は、知っている。この武器がなんなのか。そして、誰が扱っているのか。
少女にも見える小柄な彼女は、片腕でトールハンマーをフルスイング。風圧も合わさり、周囲5メートルの魔物が一瞬で塵になった。
小柄な体に、トールハンマーに、この人外のパワー。間違いない。
「か……下層攻略者、モチャさん……!?」
「いっえーーーーーーす!! 緊急突発コラボ、モチャみみモンスターハウス攻略配信、はっじまっるよぉ!!」
◆???◆
「ハァッ!? モチャだと!?」
「なんであんな化け物がここに……!?」
今までアングラ配信サイトで配信していた大小の男は、突然の乱入者に目を白黒させた。
コメントはいつの間にか野蛮なコメントから、モチャの応援コメントが増えている。
美空1人なら、モンスターハウスでの残虐ショーを見せられる。が、モチャが来るとなると話は別だ。
下層攻略者は、人間ではない。上層モンスターハウスの魔物では、あんな化け物は倒せないだろう。
「クソがッ……!」
「お、落ち着け。もしかしたら、まだ奴らが死ぬ可能性が──」
「ありませんよ、そんなことは」
「「ぼぶべッ!?」」
突然何者かに頭を捕まれた2人は、洞窟の壁に頭をめり込ませて意識を手放した。
いつもの柔らかい笑顔は消え、鋭い眼光で気絶した2人を見下ろす鬼さん。
「まったく……警察からあなた方が逃げたと聞いた時は、驚きましたよ。いったいどうやったのか……まあ、今度は逃げる余地がない、ダンジョン牢獄行きは確定でしょうが」
小男が持っていたカメラを踏み付け、粉砕する。
「タッチの差で間に合いませんでしたが……
視線の先は、反対側の洞窟に注がれている。
そこには、ネクタイを締めたワイシャツとスラックス、綺麗な革靴、手には革のグローブを付け、腰に2本の刀を携えている男……下層攻略者のレビウスが、モンスターハウスの2人を見守っていた。
鬼さんの視線に気付いたレビウスが、礼儀正しく頭を下げる。
返事をするように、鬼さんもお辞儀をした。
「さて、私はこいつらを警察に突き出しますか」
鬼さんは気配を殺し、気絶している2人を引きずってこの場を後にした。
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