大文字伝子の休日34

クライングフリーマン

晴れの日

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。

 増田はるか三等海尉・・・海自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。

 須藤医官・・・陸自からのEITO出向の医官。

 高坂看護官・・・陸自からのEITO出向の看護官。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。蘇我と結婚した逢坂栞も翻訳部同学年だった。

 物部(逢坂)栞・・・物部の妻。蘇我が亡くなってから一人だったが、物部と今年、再婚した。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。

 依田(小田)慶子・・・ある事件で依田と知り合い、結婚。やすらぎほのかホテル東京副支配人。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。今は建築事務所に就職し、演劇活動は休止している。

 福本祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。

 服部源一郎・・・伝子の高校のコーラス部後輩。シンガーソングライター。昭和レトロなレコードを探して、伝子達に紹介している。

 服部(麻宮)コウ・・・服部の妻。夫を何とか音楽家として世に出したいと願っている。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師だったが、今は妻と共に学習塾を経営している。

 南原(大田原)文子・・・南原の妻。学習塾を帰営している。

 山城順・・・伝子の中学の書道部後輩。愛宕と同窓生。海自の民間登用の事務官。

 山城(南原)蘭・・・美容師。伝子の後輩の山城と結婚した。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は警部。みちるの夫。

 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。馬場の妻になった。

 馬場力(ちから)三佐・・・空自からの出向。金森の夫になった。

 前田空将・・・空自の、上から2番目に偉い人。金森と馬場の仲人。

 渡辺副総監・・・警視庁副総監。あつこの叔父。

 村越警視正・・・副総監付きの警察官幹部。あつこがEITOに移ってから、副総監の秘書役を行っている。

 斉藤理事官・・・EITO本部司令官。EITO創設者。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。久保田警部補の伯父。EITO前司令官。

 夏目警視正・・・EITO本部副司令官。夏目リサーチという、表向き市場調査会社の社長。

 大前管理官・・・EITO大阪支部司令官。

 馬場絹子・・・馬場の母。

 金森佐和子・・・金森の母。

 小田祐二・・・やすらぎほのかホテル社長。慶子の叔父。

 藤井康子・・・伝子マンションの隣に住む。料理教室経営者。



 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==


 午前11時。やすらぎほのかホテル東京。披露宴会場。

 中道の葬式の翌日。

 挙式の後、依田がMCをして、新郎新婦の紹介をし、仲人である前田空将を紹介した。

 そして、斎藤理事官が、夏目副司令官が、大阪支部の大前管理官が祝辞を述べ、警視庁からは副総監、村越警視正、久保田管理官が祝辞を述べた。

 そして、上司として伝子が、友人代表として、なぎさと増田が挨拶をした。

聡子と高遠が懸念した、カラオケの件は、誰一人として口にする者はいなかった。

 午後3時。お色直しや、イベントとしての彼らの仕事場での活躍の動画を観て、ゆっくりとした食事も済み、午後3時には『お開き』となった。

その直前、祝電が届いた。依田は、祝電は最初に読んだはずだが、と不審に思い、祝電のカードを開くと、おぞましい文面が現れた。

 顔色を変えた依田が言い淀んでいるのを見て、伝子が駆け寄り、さっと読んだ。

マイクを使って、伝子が短く指令を出した。

 「なぎさ、あつこ、みちる、あかり。増田、大町。不審者を追え、15分以内に見当たらない場合は引き返せ!」

 異変を察知した、伝子の『妹』たちと腹心は直ちに散開した。

 伝子から祝電を受け取った、夏目は冷静に読み上げ、皆に注意を呼び掛けた。

 「文面には、こうあります。新郎、馬場力君。新婦、和子さん。結婚おめでとう。初めまして、オクトパスです。これから、EITOと長いお付き合いをしたいと思います。折角の門出を『宣戦布告』なんて無粋なことはしたくありません。そこで、提案です。結婚すると、大抵ハネムーンですよね。本格的な宣戦布告は、1ヶ月のハネムーン期間が終ってからにしましょう。手前味噌ですが、私は紳士でね。いつか最終決戦と呼ばれる日が来たら、青山君と是非フェンシングでお手合わせ頂きたい。次回からは、通信手段はtick-tackを使いましょう、SNSのね。ダークレインボーの騎士、オクトパス。」

 金森の母親が卒倒した。馬場の母親もハンカチで口を押えた。

 須藤が、高坂と飯星に命じて介抱させた。

 EITOのメンバーは、外に出て様子を伺う者と、式場の周りで警護する者に別れた。

 夏目は、皆に落ち着くように指示をした。依田と慶子と小田社長は、他の利用客に異常がないか、確認した。

 15分後。不審者を捜しに行った者も、外の様子を伺った者も帰ってきた。

 皆、一様に首を振った。

 「やはりな。久保田管理官、念の為、書面のチェックを鑑識に。理事官。文面通り、1ヶ月の猶予を貰いましょう。」と、伝子は言った。

 「見ず知らずの敵を全面的に信用するのかね?」と理事官は尋ねた。

 「ケンの言葉を思い出して下さい。パウダースノウの闘いの時、既にオクトパスは来ています。混乱に乗じることも出来た筈。詰まり、我々がノーガードの拠点、例えば政府要人を狙うとか出来た筈です。」

 「よし。ここは善意に捉えましょう。2人の警備は今から一ヶ月続ける。ハネムーン中にだ。交代でな。今出来ることはそれだけだ。」と、夏目が言った。

 「面白いじゃないか。早速敵と知恵比べだな。金森、馬場。覚悟は出来てるな。お前達は、隊長、いや、アンバサダーの命令で結婚したんだ。ハネムーンも、ハネムーン後も任務だ。全うしろ。」と空将は力強く言った。

 「了解しました!」金森と馬場は、花嫁花婿の衣装のまま敬礼をした。空将に、理事官に、伝子に。

 午後6時。伝子のマンション。

 依田夫婦を除く、DDメンバーが集まっていた。福本祥子も、少しくらいなら、と参加した。主賓は何と言っても、金森と馬場だ。新婚のお祝いの会だ。

 高遠が、敢えて企画した。実は、マンションの近くでは、筒井、高木、青山が監視している。防犯カメラは以前増設したが、死角になる場所はあるからだ。

敵は、どの程度金森達を、いや、大文字の周りの者を熟知しているか分からない。

 言葉通りなら、1ヶ月何もしないことになるが、夏目の言う通り、『念の為』は必要だ。

 伝子は、わざと、金森がここに初めて来た時の失態を語った。煎餅を頬張って、喉を詰まらせた事件だ。

 「あれは、ヨーダが悪いよな。体でお茶のポットを隠してたから。」と、高遠が弁護した。

 「あれ?福本じゃなかったか?」と物部が言うと、「副部長、ヨーダです、依田。」と弁明し、皆の笑いを誘った。

 「済みません、私が大食らいだったせいで、皆様にご迷惑をおかけして・・・。」

 「申し訳ありません。」金森に続いて、馬場が謝った。

 「もう、一心同体ね。」と、栞が取りなした。

 「今日は、お茶菓子もお茶類もちゃんと配置しましたからね。」と、蘭が言った。

 「そう言えば、馬場さんはオサケ飲めるんですか?」と山城が尋ねた。

「はい。少しだけなら。皆さんが飲む人いないって聞いてびっくりしました。」と馬場が言った。

 「特に決まりはないんですよ。何故か、大文字先輩の後輩には飲まない人が多い。皆あまり気にしなくってましたね、愛宕さん。」と福本が言った。

 「そうですね。別に先輩の前だから遠慮してってことじゃなく、偶然ですね。」と、煎餅を頬張りながら、愛宕は応えた。

 「あ。誤解しないで下さいよ、馬場さん。皆馬場さんの『事件』のことでイジメようなんてしてませんから。」と、南原が言い、「イジメがあるようなら、愛宕さんに逮捕して貰わなくちゃね。」と文子が言った。

 「ね、この際、披露して貰ったら?イジメかどうかは馬場さん次第だし。ねえ、あなた。」と、コウは夫の南原龍之介に言った。

 「ほい来た。今日は、ギター持参ですからね。」と、服部がギターを構えた。

 高遠は、電源の入らないマイクを馬場に渡した。

 馬場が立つと、「チカラ。1回だけにしなさいよ。お代わりなし。」と、新妻は優しく注意した。

 馬場は、深呼吸すると、歌い出した。


 皆の拍手に馬場は大いに照れた。

 「体格がいいせいか、声が響くなあ。」と、物部が感心した。

 チャイムが鳴った。筒井だった。

 「異常なし。いい声だ。これ、ピザな。高遠、ここに置くぞ。」そう言って、すぐに筒井は去った。

 ピザは、順繰りに配られた。「しかし、2人は囮ってことになるのかなあ。」と、蘭が心配そうに言った。

 「大丈夫だ、蘭。最高の護衛軍団が守っている。万一賊が近寄っても、ブーメランの名手と柔道剣道有段者の夫婦に勝てないよ。一生後悔する。」と、伝子は断言した。

 「そうだ、伝子。金森さんに『模範演技』して貰おうよ。」「そうだな。」

伝子は一番奥のAVルームの端の押し入れから、何やら取り出してきた。

 「ほい!」と伝子が金森に投げたのは、薄いブーメランだった。

 金森は、すかさず受け取った。

 伝子が自分の席に戻ったのを見てから、金森は立って、「じゃあ、物部さんに向かって投げて、福本さんの耳元をかすって、戻しますね。動かないで下さいよ。」と言い、ブーメランを投げた。

 ブーメランは見事に金森の手に戻って来た。皆、拍手をした。

 「じゃあ、今度は、服部さんとコウさんの間に投げて、蘭ちゃんの側を通って、戻します。」ブーメランは、また予言通りの動きをした。

皆、大きな拍手をした。「な、凄いだろ。馬場、いい嫁貰ったな。」「はい、ありがとうございます。」と馬場は照れながら言った。

 「これ、子供の頃、おじさんに買って貰ったんだ。いつまでもやってるから、病気に違いない、って母に病院に連れて行かれた。止めさせたかったんだろうな。止めなかったけど。」と、伝子は笑った。

 「同じです。その頃は、父はまだ生きてて、引っぱたかれました。それが父を見た最後でした。」「辛いこと思い出させたか?すまん。」「いいんです。隊長のお陰で、自分にも特技があったって分かりました。」

 「そう言えば先輩。警視も名手ですよね。」「ああ。あつこも子供の頃夢中になったと聞いている。あつこは自宅にトレーニング場を作って貰った。今より、もっと簡素なものだが。」と、伝子は説明した。

 「前に言ってたよな、福本。練習を欠かさない者に、恐い本番はない、って。演劇も同じだろ。」と言う高遠に、「ある意味な。いつかまた再開するから、よろしくな。」と、福本は応えた。

 福本の言葉を最後に、雑談タイムに入り、皆が帰宅したのは9時半を過ぎていた。

 伝子と高遠が後片付けをしていると、「盛り上がってたわね。いい夕餉だったわ。」と、玄関の所で声がした。

 「藤井さんも入れば良かったのに。」「チケット買ってなかったから。」

 「お前、皆から金取ったのか?」「それ、マジで聞いてる?面白すぎる嫁さんだな。」

 伝子は高遠の後頭部をコツンと叩いた。

 3人は爆笑した。

 「今日は、あの二人だけだったのね。大文字シスターズは?」と、藤井が尋ねた。

 「なぎさは、一ノ瀬家で『花嫁修業』、あつこは、中道家のお通夜、みちるは子育て。あかりは、新人の小坂と下條の特訓。今回はEITO本部。さやかは、今夜は当直だ。多分、特訓を見てるな。」

 「あかりちゃんって、シューターの名手って子よね。総子ちゃんは?依田君のホテルに泊まったの?ここには泊まらないの?」

 「うん・・・藤井さん、泊まってく?隣だけど。」

 「防犯システムは自動録画だしね。たまにはいいんじゃない?」と、高遠は玄関の鍵をかけた。

 藤井のところは、自動ロックだから心配ない。たまには、3人で夜中まで語るか。 高遠はそう思った。大きな闘いは終った。取り敢えず、は。



 ―完―

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