129 元神聖教国各派代表30人 神聖教国国境を目指し出発、特務機関が追いかける

 出国するために30人とハビエル殿とトルネードが正門に集合した。


 元ドラゴン悪魔派幹部が息を吸い込み叫んだ。

 「我ら31人とその家族、それに馬一頭。本日偽りの神を祀る神聖教国と袂を分かった。神聖教の求めによりこれより退去する。さらば」


 門の周りに何事かと集まった人たちが見知った人を見つけて、別れを告げていたりする。あちこちでひどいとか、情がないとか、恐怖政治だとか、僭主とか、独裁とか言い合っているのが聞こえる。少し離れたところで特務が苦い顔をして睨んでいる。


 「三列に整列。駆けられぬものは手分けしておぶえ。輿も使え。行くぞ。エイエイ」

 「オー」

 「エイエイオー」

 街道を駆け出した。


 特務がすぐ後を追おうとしたが、最後尾を守るハビエル神父を乗せた面相の悪い馬にガンを飛ばされた。思わず特務の足がすくむ。

 「人相が悪い」

 「いやそれをいうなら馬相だろう」


 頑張れと門の周りに集まった人たちが叫ぶ。

 ある者は親をおぶい、両手で子供を抱えて、ある者は子供をおぶった妻を背負い、背負いきれない者は集めて何処から出したか2本の棒の間に板を張りクッションのようなものを張った輿に乗せ4人で担いで行く。


 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 聞いたことがないが耳につく掛け声と共に、歩いている人は勿論、馬車も追い抜いて行く。

 馬にガンを飛ばされ出遅れた特務が後を追って行くがとても追いつかない。

 掛け声は遠くの方から聞こえるようになってしまった。


 「馬だ。馬車と荷車の馬を借用しろ」

 特務機関の隊長が叫ぶ。

 馬車と荷車の馬が特務機関によって奪われる。

 特務が馬に乗って追いかける。先で街道がカーブしている。

 しかし連中は真っ直ぐ進む。確かに直線の方が距離は短いが障害物が多くとても走れたものではない。


 「街道を飛ばして先回りするぞ」

 しばらく行くと道は先ほどとは逆方向にカーブする。

 「この先で待ち伏せだ」

 「この辺りだ」

 来ない。先の方から微かに掛け声が聞こえる。

 「馬鹿な。追いつけないなんて」

 そんなはずはないと思いたいが掛け声がどう聞いてもはるか先から聞こえる。


 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 「あの掛け声の先は湿地だ。大きな川も流れている。橋を渡るために街道に戻ってくるぞ。急げ」

 いつも馬車や荷車をゆっくり引いている種類の馬である。力はあるが駆けろと叩かれても走れるものではない。一頭一頭、口から泡を吹いて倒れていく。

 「くそ、馬は捨てて駆けるぞ」


 見晴らしの良い峠に差し掛かった。既に足は悲鳴を上げている。誰いうとなく峠で足が止まった。湿地が見える。

 「奴らは何処だ」

 特務の一人が指を指す。

 先頭は人相、いや馬相の悪い馬だ。魔物にガンを飛ばしまくっているに違いない。因縁をつけられてはたまらんから魔物が避けているのだろう。魔物が見えない。


 30人は整列したまま湿地の上を走って行く。ある者は家族を体の前と後ろに括り付け、両手に子供を抱えて走って行く。一人で4人を運んで駆けていく。そこまでなら力持ちならあり得るかもしれないが、走っているのは湿地の上である。輿も何事もなく担がれて行く。足を取られる事なく列を乱すことなくリズム良く走っているので、もしかすると湿地の表面を駆けているのかもしれない。

 そんなばかなと思う特務機関員。


 やがて川に差し掛かった。どうするか見ていると、足を止めない。スピードも落とさない。馬を先頭に川の上を整然と駆けていく。川を渡りきり、列も乱さず岩だらけの丘を登って丘の向こうに消えて行った。


 呆然と立ち続ける特務機関員。あのスピードで国境まで直線で駆けていかれたのでは駿馬でも追いつけない。もはや追うことは諦めた。任務は成し遂げられなかった。


 特務機関の隊長が意を決して話し始めた。

 「任務失敗である。今度の自称教皇ではこのまま帰れば粛清されるだろう。今まで良くついてきてくれた。何処となりとも逃げろ。家族がいる者は夜になって教都に忍び込み、家族を連れて逃げろ。主だった特務がいないので逃げられるだろう。我々の今回の任務は、国境まで行って仕事をして帰ってくるのに一ヶ月日程をとってあったが、馬を奪われた人たち、馬の死骸を見た人たちによって、早ければ明日には教都になんらかの噂が広がるだろう。逃げるのは早い方がいい。このまま戻って夜になって教都に忍び入り逃げるのが一番いい。今夜の内に逃げよ。預かってきた路銀を分ける。少ないが逃走の足しにしてくれ。このような事になってすまなかった」


 「隊長はどうするんですか」

 「俺か。命令は国境の手前で連中を抹殺することだった。俺は国境まで行って連中が出国したのを確認する。それから教都に戻ってお前らが逃げおおせたのを見届けてから出頭する。粛清されるだろうが、今まで多くの人を殺した罪だろうさ。路銀は行き渡ったな。最後の命令だ。散れ。そして逃げろ。さらばだ」


 特務機関員は林の中に入り思い思いの変装をしてバラバラに教都方面へ戻って行く。何人か残った。

 「隊長、我々は独身で、身寄りもありません。リュディア王国方面に行きたいと思います。国境までご一緒しましょう」

 「そうか。追っ手がかからないように早足でいくぞ。あの連中の駆け足にはとても敵わないが、お前らは追っ手が来る前に国境を越えられるだろう」

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