128 神聖教国各派代表30人 神聖教国と袂を分かち退去の準備をする

 「わからない。全くあなたの言っていることはわからない。やっぱり悪魔に洗脳されたのだ。その服も悪魔にもらったのだろう。出ていけ」

 ドラゴン悪魔派と一部中立派が騒ぐ。


 「まだ報告の途中だが」

 「どうせ悪魔の世界だろう。もういい。出ていけ」


 「そうか。皆もそうか」

 「そうだ。そうだ」

 半分以上出ていけという態度だ。


 「では出て行こう。家族を連れてこれから退去する。今日中に正門を出る」

 「ああ出ていけ」


 「家族を連れて、一時間後に正門集合だ」

 30人とハビエル殿が出ていく。


 「良いんでしょうか」

 中立派が聞いた。

 「悪魔に洗脳されたものなど神聖教国には不要だ」

 「彼らが出て行ったので神聖教国 総合運営方針検討委員会の代表を決めなければならない。立候補者はいるか」

 ドラゴン悪魔派のうちの強硬閥リーダーのホラチウスが立候補した。他に立候補者がいない。


 一応事務官が投票箱をセットし投票用紙を配った。投票結果は、会議出席者の三分の二の支持を得てドラゴン悪魔派強硬閥リーダー ホラチウスが会議代表に選出された。


 「今日から俺が教皇だ」

 勝手に宣言した。

 最も数が多く暗い噂も多いドラゴン悪魔派なので反対の声は出ない。賛成の声も出ないが。


 「異端調査官と特務を呼べ」

 異端調査官と特務の代表が呼ばれた。

 「俺が教皇に就任した。まず異端調査官だ。お前たちは、30人とハビエルが家から出てきたら、持って出た私財を没収しろ。家に残された私財も没収だ。異端認定の30人とハビエルだ。遠慮はいらない。手に持っているもの、荷車など全て没収しろ。それなりに人気のある奴らだ。人目がある教都内で手は出すな。すぐ行け」

 「次に特務だ。お前たちは、30人とハビエルが正門を出たら、後を追え。誰にも目撃されず足がつかないないところ、そうだな。国境の手前あたりか。そのあたりで始末しろ。急ぎ準備して出ろ」


 「いいんですか。殺しまで。そこまでしなくても」

 中立派から声が上がる。

 「異教徒は人ではない。処分対象だ。魔物を狩るのと同じだ」

 これは一緒にやっていけない、危ないと内心思う代表に投票しなかった中立派。


 「では本日は解散。異端調査官と特務の吉報を待とう」

 会議が終わり、なんとなく派閥ごとに出て行く。


 「おい、俺は出て行く。異端調査官と特務が忙しい今がチャンスだ」

 「俺も家族を連れて出て行く」

 「奴が権力を握ったら、おそらく恐怖政治だろう。出ていこう」

 「正門から31人は出て行くと言っていたな。北門から各自出て、二時間後に最初の集落に集合だ。まず出国、それからリュディア王国を目指し、最終目的地はスパエチゼンヤだ。目立たぬようにしろよ。荷車などは引くな」

 「承知」


 30人とハビエルの宿舎、家を異端調査官が囲む。

 ハビエルの家を囲んだ異端調査官は、拍子抜けする。ハビエルが馬に乗って船を漕いで出て来た。馬に荷物は何も積んでいない。ハビエルを馬から引き摺り下ろし、馬を没収しようとしたら蹴飛ばされた。ハビエルは船を漕いだままだ。つまり揺れていない。馬が鼻息荒く異様に強い。馬は見なかったことにした。馬はハビエルを乗せて正門方面に向かった。


 その他、30人の住居を取り囲んだ異端調査官も拍子抜けする。異端とされた人が家族を連れて出て来た。しかし何も手に持っていない。老いた親を背負っていたりする。ご苦労様ですとヨボヨボの背負われた老人に言われてしまった。異端調査官も人の子である。それにいささか今回の仕事に疑念を持っているのである。荒い声はかけられない。お疲れ様ですと返答した。


 家を出るのを見送ってしばらくして、異端調査官は家に踏み込んだ。鍵はかかっていなかった。家の中に何もない。全く何もない。テーブルもベッドも食器も薪も何もない。かまどの灰は、あるな。それだけだ。訳がわからない。住んでいなかったのか。それにしては家族と一緒に出て行ったが、それも何も持たずに。


 他の家に行ってみても同様だとわかった。少し時間を潰して、仕事をしたようにしようと決した。


 空き家になった家に全員が集まって、床に座って情報を交換した。

 31人全員が、何も持って出ていない、家にも何も残っていないことがわかった。これは困った。没収した財産を一部こっそり私している上司に渡すものがない。まさかかまどの灰を進呈するわけにはいかない。よく探したふりをしなければならない。

 まずは腹が減った。近所の食堂に出前を頼んだ。ゆっくり帰ろう。


 異端調査官が一軒家に集まったころ、その様子を見ていた脱出派が急いでかつ目立たぬようにぱらぱらと脱走を始めた。異端調査官と特務がいないのである。難なく北門を通過、最初の集落に集まった。

 「全員無事集まったな。良かった」


 集落の人は近頃の教都の不穏な動きと老人から幼児まで連れている一行を見て察するものがあったのだろう。


 「わしらは何も見ていない。そこに藁を積んだ荷車がある。藁を半分おろして老人たちは藁の上に乗せて行きなされ。荷車が不要になれば道端に捨ててくだされ。少し硬くなったが残ったパンだ。お持ちくだされ」

 「ありがとうございます。皆様方に幸あらんことを」

 

 集落を出て荷車を交代で引き村々に寄りながら一路国境を目指した。幸い一行の中に何人か脱出路沿いに縁者がいて、助けてもらいながら、やっと国境を超えた。国境では特になにも聞かれなかった。

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