127 神聖教国各派代表30人 神聖教国に戻り視察報告をする

 朝食を食べ終わる頃、ツアコン詐欺師がやってきた。

 「今日は神聖教国までドラちゃんとドラニちゃんが送って行きますが、走って行くか空を飛んで行くかどちらになさいますか?走っていきたい方?いませんね。全員空ですか?いませんね。ではドラちゃんとドラニちゃんに決めてもらいます」

 キュ、キュ。

 「はい、空だそうです。楽な空旅です」

 嘘っぽい。大嘘っぽい。怪しい。だが反論出来ない。

 

 食堂前で大きくなったドラちゃんとドラニちゃんに分乗する。

 ふわっと浮き上がり空を飛ぶ。意外と楽かも。苦労した川も湖もあっという間に過ぎ環状の森を通り越した。


 ドラちゃんとドラニちゃんがクルッと回転する。落ちた。痛い。ドラちゃんとドラニちゃんが降りて来て、キュ、キュ。早く乗れと言っているようだ。魔物も集まってくる。やむを得ない。ドラちゃんとドラニちゃんによじ登る。

 今度はしっかり掴まる。回転する。落ちない、勝った。回転が上がる。落ちた。地面に叩きつけられる。さっきより痛い。また乗れと言っている。今度は素直に落ちる事にした。回転しない。高度が上がる。落ちゲーは終わったのか。回転した。落ちた。


 何回も繰り返すうちに四つん這いで着地できるようになった。神聖教国に近づく頃には、スタッと二本足で着地出来るようになった。


 神聖教国上空に入った。教都の上を何回も旋回する。頭の中に女の子の声が聞こえる。

 『みんなには二百人衆の訓練の一部をやってもらったんだよー。強くなったよー。青タンは治したよー。服も綺麗にしたよー。ご褒美だよー』


 大神殿跡の上空で回転した。降りろという事だ。スタ、スタと全員が着地する。トルネードもハビエル殿も余裕だ。

 『またねー』

 ドラちゃんとドラニちゃんが急上昇して消えた。


 窓という窓に人が集っている。驚愕の目で見つめられる。

 

 「では、行こうか」

 元ドラゴン悪魔派幹部が発言する。

 「「おう」」

 元聖ドラゴン派幹部と元中立派重鎮がこたえる。

 議長殿はトルネードを預けに行った。


 会議室にはドラゴンの何回もの旋回を見てすでに人が集まっている。

 「またせたな。議長殿が馬を預けに行ったので少し待ってくれ」

 元ドラゴン悪魔派幹部


 「その服はなんですか。我が教団の服はどうしたのですか。棄教したハビエルと同じ服のようだ」

 ドラゴン悪魔派が聞く。

 「議長殿が来たら説明しよう」

 議場がざわついている。


 ハビエル議長が入って来た。やっぱり視察団と同じ服だ。いっそう議場のざわめきが増えた。

 「あー、お集まりのようですね。では第2回 神聖教国 総合運営方針検討委員会の議事開始」

 「待ってください。まずはその服について説明して頂かないと議事に入れません。この前は視察の話が出て有耶無耶になってしまいましたが、そもそもハビエル棄教者に議長の資格があるとは思えません」

 そうだ。そうだとあちこちから声が上がる。


 「では議事に入る前に、服を含めた視察の報告をしょう。それでいいか」

 元ドラゴン悪魔派幹部が発言した。

 「わかった」

 「ほかに特に異論が無いようなので、視察団を代表して報告する」

 「待った。視察に行った我が幹部は悪魔派が代表して発言していいのか」

 「俺たち中立派もそうだ」

 聖ドラゴン派と中立派が口々に疑問を呈する。

 「「問題ない」」

 元聖ドラゴン派幹部と元中立派重鎮が異口同音に発言した。他の視察団のメンバーも力強く頷く。

 訳がわからない三派の出席者。


 「それでは報告する。報告書は後ほど提出する。我々視察団30名とハビエル殿とその愛馬は、大神殿跡からドラゴン様により、スパエチゼンヤ門前まで転移、スパエチゼンヤを視察、その後に神国まで駆けて行き神国を視察、ドラゴン様に送ってもらった。そこまではいいな」


 「待ってくれ。ドラゴンにより、スパエチゼンヤまで転移と言ったが間違いないか」

 悪魔派である。

 「間違いない」

 視察団全員が頷く。ハビエル殿だけ沈思黙考である。みようによっては頷いている。


 「シン国まで駆けて行ったと言ったが、滅びの草原を駆けたのか」

 中立派である。

 「そうだ」

 先程同様皆頷く。


 「では、スパエチゼンヤについてであるが、東西10キロ、南北15キロの広大な敷地を有している。高さ20メートルの土塀に囲まれている。土塀の強度は鉄より硬い。南に大手門があり使われている出入口はそこ一箇所である。大手門の周りは賑わっており、出店も出ている。遠からず門前街が形成されるとおもわれる。門は冒険者組合が24時間警備を請け負っている。ここまでいいか?」

 

 「馬鹿に広いが国がやっているのか」

 中立派が聞いた。

 「いや、エチゼンヤ商会がやっている。私有地だ」

 「高さ20メートルの土塀でその長さだと、とても一商会では手に負えないと思うが」

 聖ドラゴン派が聞いた。

 「あーーハビエルです。半日も掛からなかったと聞いています」

 「悪魔の仕業ではないか」

 悪魔派である。

 「シン様とアカ様で作ったと聞いています」

 「二人は悪魔ではないか」

 「あーー神様です」

 こいつボケているのではないか。しかしボケ長老のはずだったのに若返っている。悪魔の仕業かと悪魔派。


 「他になければ、報告を続ける。大手門を入ると、銭湯がある。これは一般庶民向けだ。料金は串焼き一本相当。脱衣所も風呂も大層広く明るく清潔だ。清潔な臭わないトイレもある。大浴場に併設されて食堂がある。定食が主だ。人が生きていくのに必要なものを含んだ食事を提供している。料金は、朝食が串焼き2本、昼食が串焼き3本、夕食が串焼き5本相当だ。銭湯とセット割引があるらしい。ここまで何かあるか」


 「臭わないトイレとはなんだ」

 中立派が聞く。

 「使ってみなくてはわからないだろうが、我々が出したものは水に流されて残らない。尻を洗う温水も出てくる」

 「わからない」

 「そうだろうな」


 「この銭湯のすごいところは、料金から分かる通り、普通の庶民が使用する施設だ。庶民が安い料金でお風呂を楽しめる。庶民の生活習慣そのものを大変革させる力を持っている。それに大衆食堂。生きて行くのに必要なものが過不足なく食事に入っているそうだ。そんなことを考えて食事を提供している施設は、上下全くなかったろう。銭湯がなくなったら暴動が起きるだろうと言われている」


 「何もないようだから次に行こう。庶民には銭湯の他に庭園が開放されている。山あり、滝あり、小川が流れている。小魚がいる。林の中の小川にそって歩く。時々丘のようになって周りを見渡せる。鳥の声が聞こえるのだ。経験しないとわからないが、美しい世界だ。それが民衆に開放されている。初めての経験だろう。我々にとっても美とは宗教画しかなかった。それが自然の美を突きつけられる。変わるぞ、世界が。民衆が」

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