123 神聖教国各派代表30人 神国環状の森を抜け中心部まで走る

 「では、参りましょう」

 ツアコンさんが声を掛けて環状の森に入って行く。

 膜を通り抜けた感じがした。森に入る。なるほど外の世界とは違う。穏やかだ。ただし森は深い。ともすれば前を行く人が見えなくなりそうになる。よそ見をせずに付いて行く。


 木を通り過ぎる時何かにペロっと手を舐められた。見たらもういなかった。木の影に隠れて脅かして、そうか遊びか。よしそれなら、今度は俺が。

 木を通り過ぎる時思いっきり前に飛んで木を振り返った。あわてたのだろう隠れきれず揺れる尻尾が見えた。俺の勝ちだ。あれみんながいない。迷子になった。


 困っていると前の木の影から小さい動物が顔を出す。じっとこちらを見て歩き出す。時々振り返る。付いて来いということだろうな。付いて行く。しばらく歩くと話し声が聞こえ仲間が見えた。

 「もう大丈夫だ。ありがとう」

 お礼を言うと嬉しそうに尻尾を振って木の間に消えていった。なるほどこれでは狩れない。子供にとってはいい遊び相手だろうな。


 「迷子になったか」

 「動物と遊んでいたら迷子になった。動物が案内してくれて追いついた」

 「神様の森だな」

 「ああ」


 中々森を抜けられなかったがやっと先が見えて来た。木がまばらになって来て先が明るい。森から出た。

 壱番組のみなさんは待っていてくれた。


 目の前に緑の丘陵が広がる。森が点在する。小川が流れる。小さな魚が群れになって泳いでいる。

 

 「今歩いてきた森は環状の森といいます。環状になっており、中心に主要施設があります」

 環状と言われれば確かに森の切れ目は少しカーブしている。しかし対面に見えるはずの環状の森が見えない。高低差で見えないかそれともえらく広いかのどちらかだろう。曲がっているのかわからないくらいのカーブなのでえらく広いのだろう。だとしたら中心まで歩くのはえらい事だ。


 「では私は先に行っています。妊婦さんもアカ様に乗ったまま一緒に行きましょう。ではゴードンさんよろしく」


 なんだか聞いたことのあるような言葉を残してツアコンさんは妊婦さんを乗せたアカ様と消えた。


 ドラちゃんとドラニちゃんは、見回りーーと言って飛んでった。ブランコ様も駆けて行った。


 「隊列を乱さず駆けるぞ。今日は近いから休憩なしだ。いち、にい、さん、しい、そーれ」

 ゴードン鬼軍曹が先頭を駆けていく。


 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 30人は少しゆっくり駆けようかと思ったが、後ろの壱番組からの圧があり、スピードを落としたくとも落とせない。

 壱番組の皆さんが待っていてくれたのはこのためだったのかも知れない。

 周りの景色を見る余裕もない。


 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 小川がある。ゴードン鬼軍曹は構わず突っ切る。たいして深くないから良いが深かったらどうするんだろうと思いながら、ジャブジャブと突っ切る。


 疑問は程なく解決した。大きな川に行き当たった。ゴードン鬼軍曹は構わず駆けていく。水の上を。


 出来るのかと思って続いて川に駆け入るとやはりズブズブと沈む。あわてて手足を動かして水を飲みつつどうにか前に進む。差がついてしまう。後ろからお馴染みの掛け声が聞こえる。


 「おじさん、ファイ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 抜かれた。水の上を駆ける子供に。もちろん大人も抜いていく。そうかビリか。これでゆっくり出来る。

 甘かった。対岸でぐるぐる回って30人を待っている。ダメなようだ。


 「おじさん、ファイ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 水から上がり、かけ続ける。後を壱番組が付いてくる。


 「おじさん、ファイ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 何回も川を渡った。やがて目の前に大きな湖が見えた。ゴードン鬼軍曹は相変わらず、水の上を走っていく。


迂回は、後ろからの圧力によりダメなようだ。


 「おじさん、ファイ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 やむを得ない、湖に入り、先ほどと同じ、水を飲みながら、前に進む。いくらか泳ぎが上手になった。だんだん水は飲まなくなった。大変な上達である。ただし動きは洗練されていない。もがいているようなものである。それでも前に進むのだから大したものである。


 ハビエル殿は、トルネードに襟首を咥えられて運ばれている。一応騎乗はなしだからな。時々水に落ちる。ぶくぶく沈む。トルネードが首を水に突っ込み引き上げる。げえげえやっている。あっちも大変そうだ。


 永遠に続くかと思われたもがきが、足が底について終わりを告げた。

 岸に上がると、目の前に建物がある。ツアコンさんがテーブルに水を、出していない。飲み過ぎである。お腹はダブダブ言っている。


 壱番組はゴードン鬼軍曹と疾うにいなくなったようだ。


 「みなさん、お疲れ様です。だいぶ水をお飲みになったようですね。このままだと食事も美味しく食べられません。ちょうどブランコが戻ってきましたので、少し走って水を消化してしまいましょう。ではブランコに続いて湖の周りを走ってきてください。あなたお願いね。ドラちゃんとドラニちゃんは後ろからついて行ってね」


 ブランコ様はツアコンさんの夫だったのかと、つまらないことを考えていたらブランコ様が走り出した。後ろからキュ、キュと催促が入る。やむを得ない。走り出した。湖で冷えた体が温まりだす。汗も出てきた。幸先が良い。この調子だと湖に沿って少し走れば、ダブダブいっているお腹の水がすぐに汗となって減るだろう。

 甘かった。汗は出るがお腹の水は一向に減らない。これはやはり湖一周コースか。もはや諦めの境地に達した。


 誰からともなく

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 ブランコ様が嬉しそうに、ウオン、ウオンと言いながら駆けていく。スピードが上がる、後ろからキュ、キュと督促される。聖ドラゴン様の督促である。やむを得ない。死ぬかも知れないと思いながら必死になってスピードを上げる。


 どのくらい続いたろうか、いつの間にか湖を一周したようだ。お腹もダブダブ言っていない。


 「お帰りなさい。水は飲みますか?いらないようですね。スパで汗を流し着替えてください。基本スパエチゼンヤと同じですが、お手伝いを呼んであります」

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