121 神聖教国各派代表30人 スパエチゼンヤから神国まで走る(中)

 東西街道を横切った。止まらない。

 話が違うぞ。滅びの草原に足を踏み入れてしまった。魔物がポツポツ出て来た。


 ブランコ様を避けた魔物がトルネードに蹴飛ばされる。

 うわ、ブランコ様とトルネードを避けた魔物が突っ込んでくる。


 焦って全員ショートソードを取り出す。夢中で振った。当たったが魔物が笑った気がする。ショートソードが鞘つきだ。慌てて鞘から抜いて振る。当たらない。隣の野郎のショートソードがこちらに向かってくる。あぶねえ。


 壱番組から声がかかる。

 「同士討ちになるぞ。距離を取れ」

 あわてて隣と距離をとる。横に広がった。ということは魔物がブランコ様、トルネードにぶつからずに直接当たってくるということだ。


 律儀に待っていたさっきの魔物が襲ってくる。何回もショートソードを振るって、やっと一回当たった。ホッとしたら魔物に体当たりされた。跳ね飛ばされた。

 「ぼやぼやするな、踏み潰されるぞ」

 慌てて起きて振り下ろされた魔物の足を避ける。すかさずショートソードで足に切りつけた。足が切断できた。ばかに切れ味がいい。隣から助けが入る。腰だめだ。魔物にぶつかる。魔物は動かなくなった。

 体は少し痛いが、骨折はないようだ。シン様に帰依したから体も丈夫になったのだろうか。

 後ろから声がかかる。

 「収納」

 隣の男が片足を残し収納した。俺は片足だけだ。食えるのか。

 「次がくるぞ、構えろ」


 これはどうみても戦闘訓練だ。それもショートソードを持たせた素人を魔物の檻にぶち込むようなものだ。

 うわ、また魔物が来た。今度は少し落ち着いて、魔物をよくみて剣をふるう。当たった。だがまた体当たりされた。踏み潰そうとする足をかわし、剣を突き上げる。当たりどころが良かったのだろう。倒れた。が上におおいかぶさって来た。動けぬ。考えた。収納すればいい。

 「収納」

 うまくいったが魔物の血だらけだ。

 後ろから声がかかる。

 「すぐ起きて次に備えろ」

 跳ね起きて、剣を肩に担いで走る。

 遠くにパラソルが見える。あそこまで行けば安全地帯だ。30人が必死に走る。


 「はい、皆さん、よく頑張りました。水をどうぞ」

 貪るように水を飲む。

 「神国には入りましが、シン様が住んでいるところは、ここから300キロが少し欠けるくらいの距離です。頑張りましょう」

 やっぱり、ツアコンさんは詐欺師だ。魔の草原に入る=神国に入る=ゴールと思わせて、さらに300キロとは、かなり悪質な詐欺師だ。


 「このペースだと今日は野宿ですね。ゴードンさん、お昼はいつにしましょうか」

 「2時間3セット計6時間こなしたら昼食でどうでしょうか。その後2時間2セット、最後は甘く1時間1セット、計5時間で夕食になると思います」

 「わかりました。30人の食事は、今日は用意しましょう」

 今日は野宿か。聞いてないぞ。ツアコンさんは極悪な詐欺師だ。

 「それでは、2時間後にまた会いましょう」

 ツアコンさんがパラソルと水が置いてあった机と共に消えた。

 

 「みんな水を飲んだな。行くぞ」

 ブランコがウオンと吠え、トルネードがヒヒンと嘶き走り出す。

 今度は最初から横に広がってかけて行く。

 夢中で剣を振り駆けて行く。

 パラソルが見える。

 1セット終わり。

 2セット開始。

 機械的に進む。

 やっと3セットこなした。お昼だ。

 ブランコ様とドラちゃん様、ドラニちゃん様がみんなの周りをぐるっと一周する。遊んでいるように見えるがバリアを張ったらしい。しかし態度から見るとやはり遊んでいるだけかもしれない。

 

 パラソルの下の机に馬車で食べた食事が入った箱が積み上げてある。

 30人以外は皆自分で食事を用意している。やな予感がする。ツアコンさんの言葉をよく思い出してみる。『30人の食事は、今日は用意しましょう』と言った。ということは、明日は自分たちで用意か。思わず隣を見ると、同じことを考えたのだろう。やばいという顔をしている。

 とりあえず食べられる時はいただこう。今日も美味しい。ツアコンさんによれば、こういうものはベントウというんだそうだ。

 お茶を飲む。なかなか香りが良い。前のお茶とは少し違う。今度は香りが主体のようだ。産地か種類かわからないが。


 「休憩終わり。午後の部を始める」

 ブランコ様とトルネードが駆けて行く。おや、ハビエル神父が手綱を取っている。上手になった。

 午後も必死になって2セット半をこなした。


薄暗くなってきたが、パラソルが立っているのが見える。必死になって駆け寄る。ツアコンさんがニコニコして言った。

 「今日はここで30人の方は野宿の練習です。30人とハビエルさんの収納にはテントが入れてあります。これから使うこともあるでしょう。シン様からのプレゼントです。3人用テントですが、皆さんは収納がありますので、人数的にはもっと入れると思います。このパラソルを中心に壱番組。周りに30人が6人1組となり、テントを張ってください。6人のうち2人は寝ずの番です。テントで4人が就寝。途中で交代した方がいいと思いますよ。ハビエルさんはトルネードと野宿の練習です。ハビエルさんを入れて6組になります。バリアは張りませんのでよろしく。おっと忘れるところでした。30人とハビエルさんにはベントウです。暗くなる前に食べた方がいいですよ」

 

 慌ててベントウを食べる。もはや味もわからぬ。お茶で流し込んだ。

 ベントウの箱を返すと、ごきげんよう、とツアコンさんがパラソルと共に消えた。


 壱番組はテキパキとテントを張り、テントの中に入ってしまった。

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