120 神聖教国各派代表30人 スパエチゼンヤから神国まで走る(上)
どんなに緊張しても明けない夜はない。無事に夜明けになった。
テーブルの上に着替えがある。見覚えがある。走らされた時に着ていた服だ。今日の運命は決した。
ツアコンさんが呼びに来た。
「皆さん、服は着ていただけたようですね。朝食にしましょう。今朝は軽いものです」
昨日とは別の会議室に案内された。今朝は本当の会議室だ。立食でテーブルの上の皿にはパンに分厚い肉が挟んであるものが並んでいる。飲み物もある。これが軽いものかと思いながら手を伸ばす。美味しい。食が進む。
「食べすぎると後が大変ですよ」
食べてしまった後から言われても。
「では出かけましょうか。今日は神国まで走ります。基礎体力をつけましょう」
外に出るとやっぱりゴードン鬼軍曹がいた。
そのほかに足首と手首のあたりが締まった黒に近い服を着て刀を背負った20人がいた。お腹が大きい女性もいる。子供もいる。
「我ら神国二百人衆、壱番組20人とその家族。お供します」
ツアコンさんの解説。
「壱番組は、弍番組と交代の時期でちょうど良かったのでお供します。お腹の大きい女性はアカ様が乗せていきます。全く揺れず落ちませんのでご安心を。先導は白狼のブランコ、トルネードに乗ったハビエルさん。続いて30人、さらに壱番組が続きます。壱番組の中程に妊婦さんを乗せたアカ様とその周りにお子さん達。両脇はドラちゃんとドラニちゃん、殿は皆さん言うところのゴードン鬼軍曹です。私は給水ポイントでお待ちしています。パラソルが目印ですよ。ではゴードン鬼軍曹さんお願いします」
ため息が出る30人である。ハビエル殿は楽でいいなと思う。
「ではまず軽く大手門まで走りましょう」
ウオンと白狼のブランコが吠えて駆け出した。
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
ずいぶん大手門まで距離がある。遠くに見えているがなかなか到着しない。
余計なことを考えるからブランコ殿がスピードアップした。
ハビエル殿は、トルネードという馬の首に必死にしがみついている。前言撤回。大変そうだ。
いかんいかん、無念無双で走らねば。
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
気がついたら大手門に着いた。まだ夜明けから少ししか経っていないので流石に人は出ていない。ポツポツとくるのは銭湯の職員だろう。子供連れもいる。託児所や学校に預けるのだろう。
門の外にパラソルがあった。ツアコンさんがいる。
「はい、皆さんお疲れ様です。これから東西街道を横切って、滅びの草原に入ると神国です」
なんだ近いぞ。それは楽だと思うが、ツアコンさんのいうことだ。どうも信用がならない。
「では、水を飲んで頑張っていきましょう。水は運動中や汗をかいた時に、体の中のバランスが崩れないように配慮されたシン様特製の水です。これを飲めば脱水症状や熱中症にならずに済みます。では次の給水ポイントでお待ちしています」
脱水症状とか熱中症とかはわからないが、要は駆け続けろということだなと観念する。
「言い忘れていましたが、滅びの草原には魔物が出ます。シン様特製のショートソードが収納に入っています。振り方がわからなければ、腰だめにして体ごと魔物にぶつかればなんとかなるかもしれません。ブランコもドラちゃんもドラニちゃんも治療ができますから、即死以外は大丈夫でしょう」
大変なことになった。隣と顔を見合わせる。
「みんな水を飲んだな。行くぞ。ブランコ、ゴー」
鬼軍曹の掛け声に応えてブランコがウオンと吠えて駆け出す。相変わらずハビエル殿は馬の首にしがみついている。
東西街道は近いからそれを横切ると神国だ。楽だと思うが、そんな近くに給水ポイントが必要か?それと街道沿いなら魔物も出ないだろうと訝しがる30人。
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