119 神聖教国各派代表30人 スパエチゼンヤを見学する(7)

 「本日はようこそおいでくださいました。丁度総領事夫妻が戻ったところです。ご案内いたします」

 この執事も嘘つきだ。初めから総領事がいたに違いないと思うが、豪華な建物に気持ちが押しつぶされて執事の後をついてゆく。


 「こちらでございます」

 背の高い重厚なドアを開けるとシャンデリアがいくつもキラキラ輝いている部屋に出た。床も磨かれていて、シャンデリアの輝きを反映している。壁一面に巨樹の絵がまるでそこに生えているかのように描かれている。


 天井にはさらに大きな樹が描かれていて、樹の根元に3人の人物が描かれている。真ん中は男で両脇が女だ。3人とも美男美女だ。隣に一組の男女。こちらも美男美女だ。女の方はツアコンさんに酷似している。というかツアコンさんだ。女の子が二人遊んでいる。

 なんだこれはと同僚を見て視線を戻したら、女の子は3人組の間に入り込み美男美女と手を繋ぎニコニコしていた。この人たちを中心に多くの人が描かれている。


 「会議室でございます」

 嘘をつけ。こんな豪華な会議室があってたまるか。それに絵が動いたぞ。

 「机と椅子もあります」

 いつの間にか、重厚な作りの椅子と机が並んでいる。


 「そういえば、たまたま、シン様、アカ様、マリア様、ブランコ様、エスポーサ様、ドラちゃん様、ドラニちゃん様がお揃いです」

 もはやこの執事は詐欺師に決定した。


 警蹕が響き奥の扉が開かれた。

 神聖な気が流れてくる。天井画の男女が現れた。神々の降臨である。思わず平伏する30人。棄教した瞬間である。


 「遠いところご苦労様でした。視察とのことでしたがどうでしたか」

 「我ら30人、聖職者になってこの方、神を希求してきましたが、ついぞ神の声を聞くこと能わず、聖典に神を求めるも神は応えず、懐疑を内に抱いて信者に接してきましたが、今初めて神様にお目に掛かり、御声を聴き、初めて真なる信仰の心を持ちました。我ら一同、真なる信仰が持てた喜びに打ち震えております。この上はこの身が朽ち果てるまでシン様、アカ様、ブランコ様、エスポーサ様、ドラちゃん様、ドラニちゃん様に身命を賭してお仕えする所存です。何なりとお命じください」

 ドラゴン悪魔派幹部改め心の内は自称シン様教団神父が発言し、皆が力強く三拝した。


 また狂信者が増えたと思うシンである。

 「では信者の証の線指輪を授けましょう。一人ずつ前へ」

 マリアさんが持つお盆の上に線指輪が輝いている。

 アカが指輪を一人一人にはめてやる。みんな体が光った。

 あれ、一つ余った。


 何処からか湧いたきょうちゃんが私めにもという顔をして手を差し出している。

 アカが指輪をしてやる。

 「驕らず、初心を忘れず励め」

 きょうちゃんの体も光った。のちにドブ聖人とか三助聖人とか呼ばれるきょうちゃん聖人の誕生である。


 「皆の線指輪は不可視と唱えれば見えなくなる。指輪には収納機能があり、魔の森の泉の水を入れた水筒が入っている。取り出して見ると良い」

 全員水筒を取り出した。

 「これが噂の神水入り竹水筒でしょうか」

 もう面倒だから肯定も否定もしない。使い方を説明した。それと、ずっと前に板長さんに作ってもらった魔肉の燻製を収納に入れてやった。6聖人とか言われている6人の収納にもプッシュしておいた。在庫一掃である。水筒はまた作っておこう。金属でも作れるけど竹水筒が噂になっているのなら竹で作ってやろう。


 「まだ中に何か入っています」

 「それはコシのエチゼンヤ支店の板長さんに作ってもらった魔肉の燻製です。家族に食べてもらってもよし、野宿の時に食べてもよし、自由にどうぞ」

 「ありがたき幸せ。有効に活用させていただきます」


 「皆さんなら希望があれば明日我が国まで来ていただくことが出来ますがどうなさいますか」

 「神の国を目にすることは我々の無上の喜びとするところです。ぜひお伺いさせていただきたくお願い申し上げます」


 もう転移で逃げよう。

 「では明朝迎えにきます。エチゼンヤさん、ハビエルさん、あとはよろしく」


 揺めきの中に神が消えて行った。30人は神の余韻が消えるまでしばらく立ち上がれなかった。

 いつの間に来たのか、後ろにエチゼンヤ夫婦とハビエル神父がいた。


 「さ、席についてください。私はエチゼン ローコーと申します。神国名誉総領事をしています。こちらは妻のエリザベス。こちらはご存じのハビエル神父さんです」


 エチゼン ローコーといえば、先の国王の弟君である。そうかすでにこの国はシン様教になったのか。めでたいことであると30人。


 「今日はお疲れ様でした。ゆっくり食事をしましょう」

 扉が開かれ、精悍な男女がワゴンを押して来て配膳する。

 コップよりさらに小さな容器に透明な液体を注いでいる。


「まずは乾杯しましょう。今の小さな容器をお持ちください。乾杯」


 飲んだことがない液体が喉を落ちていく。すっきりフルーティだ。

 「ダイギンジョウといいます。シン様よりいただきました」

 神酒か、美味しいはずだ。ありがたいと思う。30人。


 「皆さんには、明日神国に行ってもらいます。それから神聖教国までドラちゃんとドラニちゃんがお送りします」


 「さ、冷めてしまいます。どうぞ」

 エリザベスさんだ。たしかアングレア王国の王女様だ。そうかアングレア王国もそういうことか。


 「あのー。神聖教国に帰ったらどうするのでしょうか」

 ハビエル神父である。


 「考えてなかった。そうだな、どうするか」

 「まず第2回 神聖教国 総合運営方針検討委員会の開催だな、議長どの」

 「うへ、まだ議長をやるんですか」

 「適任だな」

 「しかし荒れるだろうな」

 「そんな」


 「聖ドラゴン派は問題ないだろう。せいぜいドラちゃん派閥、ドラニちゃん派閥、巨大ドラゴン派閥に分裂するくらいだ」

 「中立派は、聖ドラゴン派とドラゴン悪魔派と中立派に3分裂だな」

 「ドラゴン悪魔派はドラゴン悪魔派穏健派閥とドラゴン悪魔派強硬派閥とドラゴン悪魔派様子見派閥に分裂だろう」

 「そんな、覚えきれない」

 

「心配することはありませんよ。いざとなればドラちゃんとドラニちゃんが大暴れ。暴虐のドラちゃんとドラニちゃん顕現!」

 エリザベスさんがお気楽なことを言う。エチゼンヤさんが頷いている。

「そうそう、もう一つありました。明日は夜明けと共に出発です。今日は早めにお休みください」

 そう言えば、鞭のエリザベスで有名だったな。こういうお方は得てして鞭を振るうような過激発言をする。悪いことにそれが実現することが多いとげっそりする30人。


 真面目な議論?は暴虐のドラゴンに吹き飛ばされ、早々に食事を終わり、宿舎並みとツアコンさんが言っていた部屋に案内される。ツアコンさんも詐欺師だ。

 豪華な部屋で、備品を壊したら大変だ、テーブルにぶつかったら大変だ、花瓶を倒したら真っ青だ。緊張の一夜だ。

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