118 神聖教国各派代表30人 スパエチゼンヤを見学する(6)
「はい、準備運動が終わりました。次に、と言いたいところですが、子供に負けるような体力では続かないでしょう。またの機会をお待ちしています」
ゴードン鬼軍曹からのありがたいお言葉があった。
やっと解放されたとトボトボ歩く。ツアコンさんがまた手招きしている。水が用意されていた。もちろんゴクゴク飲む。なんだか疲労が回復したような気がする。
「みなさん、ご苦労様でした。汗を流しにスパに行きましょう。服はスパに届けてありますから、そのままこちらにどうぞ。少し距離がありますから軽くランニングしていきましょう」
もうヤケである。
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「はい、こちらがスパです。カウンターで料金を支払いますが、皆様の分はシン様が支払い済みです。手拭い等カウンターでお貸ししています。男と書かれた暖簾の中が脱衣所になっています」
神殿と言ってもいいくらいの立派な建物だ。
「こちらの機能は銭湯近くのスパと同じようですが、作りが神殿風なのでいつの間にか神殿スパと呼ばれています。それと三助さんが特別に皆さんをお世話してくれるそうです。ではごゆっくり」
三助ときいて嫌な予感がする30人である。嫌な予感は得てして当たるのである。
「お疲れ様」
三助の、きょうちゃんである。
もはや何も言う気力もない。
「今着ている服はそちらの箱に入れてな。運動の前まで着ていた服は洗濯して手提げ袋と一緒にロッカーに入れてある。ロッカーの鍵に名札をつけてあるから確認しな」
服と手提げ袋の中身を確認して、確かに自分のものだがどうやってわかったのだろうと考えてみるがわからない。思考は放棄した。
案内されるままに、洗い場に行って、きょうちゃんに背中を流してもらった。風呂も大きい。隣は泡が勢いよく出ている風呂だ。湯船のふちの丸太に頭を乗せてぷかぷか浮く風呂もある。外へ出ても風呂がある。木々のざわめき、小動物の息吹、小鳥の声が聞こえる。心安らぐ森は初めてだ。岩をくりぬいたような洞窟のようなものがある。床に横になるのだそうだ。それから砂場に横になって、砂をかけてもらう場所もある。きょうちゃんが砂をかけてくれる。
何もかも初めてで珍しい。
「おい悪魔派、ここは地獄か天国か」
「どう見ても天国に近いが、わからぬ」
「難しいことを考えていないで、ほれ長湯をするとのぼせるぞ」
きょうちゃんに言われて脱衣所に戻った。
「この筒のボタンを押すと温かい風がでるから頭を乾かしな。借りた手拭いなどはそっちの箱に入れといてくれ」
着替えて脱衣所を出るとツアコンさんが待っていた。
「リラックスしていただけましたか。三助さんのサービスはどうでした」
きょうちゃんがどうかと言われても困るのである。
悪魔派幹部が代表して答える。
「いや、まあ、良いサービスでした」
「ピオーニ元教皇もこの頃すっかり働き者になって頑張っています」
聞きたくない名前を聞いてしまった30人。
「皆さんもやってみますか、ドブ掃除とか草むしりとか薪割りとか。やってみると見えてくるものがあります。ピオーニさんの評判が良くなったので、いつでも受け入れてくれるそうですよ。銭湯の三助でもいいですし」
肯定する気持ちがあることに気がついて答えられないのである。
「それはそうと今日はお疲れのようですから、こちらに泊まっていただきたいのですが、旅館がいいですか、神国名誉総領事館がいいですか」
「どちらもちょっと遠慮したい」
「そうですか折角だから旅館でもと思いましたが」
「もっと気楽に泊まれるところはないでしょうか」
「名誉総領事館は、宿舎並みですからそちらにどうぞ」
どうもこのツアコンさんは怪しいので本当かと思うが他に泊まるところがないのかも知れないし、王都に行くのも手間だ。
「わかりました。では名誉総領事館でお願いします」
ドラゴン悪魔派幹部が代表して答える。
「ではこちらへどうぞ」
宮殿と言ってもいいような立派な建物が建っている。玄関に看板が2枚かかっている。
「神国名誉総領事館」「在神国リュディア王国総領事館」
領事館にしては迎賓館のような豪華さと重厚さだ。
少し気後れしたところにピシッと背筋を伸ばした執事が迎えてくれる。約束が違う。これでは賓客並みだ。肩が凝る。
「では私はこれで失礼します」
ツアコンさんに逃げられた。
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