109 ハビエル神父が王宮に行った 結果 王妃と先の王妃がスパエチゼンヤに向かう
宰相執務室
扉がノックされる。
「入れ」
「宰相様に面会希望者が来ています」
「アポがないだろう。追い返せ」
「それが」
「なんだ」
「御ローコー様と、シン様とその御一行様とハビエル神父様です」
さっき悪寒がしたのはこれか。
「俺はいない」
「相手はシン様です。嘘は通りません」
コイツいつからシン様寄りになったのだと思うが、嘘は通らないと言うのも本当だなと思う宰相。
「わかった。会おう」
「こちらです」
なんだもうドアの外にいたのか。コイツは、シン様寄りでなく、シン様側になってしまったな、首にしてやると思う宰相。だが、俺もシンに様をつけてしまった。とりあえず首は保留だと思い返す宰相。忙しい。
「宰相様、エチゼンヤの」
「わかった、わかった、エチゼンヤの隠居と言いたいんだろう。用はなんだい」
もう面倒くさい、面倒ごとを持ち込むんだから、悪童連の待遇でいいことにしよう。
「今日はここにいるハビエル神父の付き添いだ」
「ハビエル神父様と言うとウルバノ大司教殿の下でこき使われていたハビエル神父様でしょうか。しかしだいぶ様子が違うような。若くなり、神父服も違う。別人でしょうか」
「ハビエル神父は、今やシン様の神父で、神父服もシン様の神父服だ。中々いいだろう」
「シン様の神父のハビエルと申します」
「「全ては、神様の御心のままに」」
げげ、ローコーが改宗した。国王陛下に至急報告しなければ。神父が改宗した。神父が改宗だと。神聖教もついにシン様の軍門に降るのか。これも国王陛下に報告だ。
「ハビエル神父様、今日は何のご用件で」
「神聖教国から30名ほど、スパエチゼンヤの視察に参りますのでお知らせまで」
塩の販売を禁止したのに図々しい奴らだ。
「それとご迷惑をおかけしていた塩の輸出禁止措置は解除されました」
「シン様のおかげで塩には困ってはおらん」
あまりいじめるとシン様が怖い、それに今や神聖教国側の人間ではないと考えるとこの辺で手を打つか。
「我が国としては歓迎はしませんが、教国の視察団がスパエチゼンヤを訪問することは差し支えありません」
「ありがとうございます」
「ところで神父様の指が、いつか拝見したシン様のバングルのように光っていますが指輪でしょうか」
「そうだ。わしもしているぞ。見えなくしているだけだ」
ローコーの指も光った。
「これはシン様の僕の証です」
神父が誇らしげに手を掲げる。
「「全ては、神様の御心のままに」」
こいつら秘密結社か。陛下に報告事項が増えた。今日はシン様の発言はないな、この辺で帰ってもらおう。
「ところで宰相どの」
余計なことを考えてしまった結果がシン様の発言だ。
「スパエチゼンヤと牧場は広いので、ドラちゃんとドラニちゃんが発着したいのですが良いですか?」
そのチビドラゴンか。
「問題ありません」
ローコーの口角がわずかに上がった。何かある。
ローコーの懐から音がする。何か取り出したぞ。小さな長細い板だ。板を耳に当てた。わかったと言っている。何だあれは。
「トラヴィス、急用が入ったのでまたな」
「おじゃま様でした」
シン様がニコニコしている。怪しいがさっさと帰って欲しい。帰ってくれた。ほっとする。
「宰相いいんですか」
「何が」
「ドラゴン様の発着を許可したでしょう」
「あのチビだろう」
「聞こえますよ。あのドラゴン様は大きくなるんです」
「そうだった」
慌ててドアを開ける。揺めきの中に御一行が消えた。
「おい、消えたぞ、消えた」
「そんな馬鹿な。ーーーいらっしゃいませんね。足が大分早いのでしょうか」
「違う、違う。揺ら揺らと消えて行ったんだ」
「見間違えじゃないですか。そんなことより陛下がお待ちですよ。今日は客間の方だそうです」
消えたんだが、俺は疲れているのか。陛下を待たせるわけにはいかないか。ゴードンの野郎はどうしているかな。
陛下の客間。どちらかというと内輪用の部屋だ。
ノックする。
「入れ」
先の国王陛下夫妻と現国王陛下夫妻が談笑していた。
「お休みのところよろしいので」
「いいよ。なんだい?」
「神聖教国から使者が来て、スパエチゼンヤを30名ほどで視察したいと申し出がありました。また塩の禁輸措置は解除したそうです」
「いいんじゃないの。我が国の誇りだ。見てもらえば。塩はシン様のおかげで困っていないし今更解禁と言われてもな。誰も買わんだろう。不味いし」
「わかりました。それと、使者はウルバノ大司教の元で働いていた、ハビエル神父だったのです。確かお年を召して無能、無害呼ばわりされていたのですが、今日来たハビエル神父は別人と思うほど若返って覇気に溢れていました」
「ふうん、」
「あなたは黙ってなさい。若返ってそれで」
「指がシン様のバングルのように光っており、細い指輪から光が出ていました」
王妃様と先の王妃様が身を乗り出して来た。
「指輪はシン様の信者の証だそうです。どうも神父は改宗したらしく、神父服も変わっており、シン様の神父服だそうです」
「神聖教国も」
「黙っていなさい」
陛下が王妃様に一喝された。続けるかと宰相。
「指輪なのですが、ローコー様もしておられました。見えなくする事ができるようです」
今度は先の王妃様だ。
「あなた、用が出来ました。二人で出掛けて来ます」
いそいそと二人で出て行った。
行き先はなんとなくわかる残された男たち。
「どうする」
国王陛下は宰相に問うた。
「どうすると言われましても」
「まあ、我が国に国教はなし、信教の自由だろう」
達観している先の国王陛下だ。
「それにしても」
「お前止められるのか?」
「残念ながらああなったら止められたためしがありません」
「そうだろう。何かあったら我々もシン様教に改宗すればいいさ。神聖教など信じて無かったからな。シン様は本物の神様だから改宗になんの痛痒も感じない。ローコーもそう考えて改宗したんだろうよ」
「そうですね。気が楽になりました」
「トラヴィス、他に何かあるかい」
「あのう、シン様からスパエチゼンヤと牧場から、ドラちゃんとドラニちゃんの発着を求められ、うっかり許可してしまいました」
「宰相殿のお友達のドラゴンだな。いいんじゃないの。もうみんな慣れたろう。他国の人が腰を抜かすのも愉快だ」
国王陛下はお気楽だ、それでいいんかいと思う宰相。
「それに巨大ドラゴンと親しい国という評判が立つと外交上有利だろう」
さすが先の国王陛下、深謀遠慮が素晴らしい。
「可愛いし、今度女傑がいる時来てくれるようにお友達に頼んでくれ。美味しいお菓子は用意しておくから。そうすればウチのカミ様も数日ご機嫌だろう」
うなずく現国王陛下。
さほど深謀遠慮ではなかったと思い直す宰相。
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