107 ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃんが神父さんと馬を助けた(上)

 ウオン、ウオンと吠え声が聞こえた。ブランコだ。あっという間に盗賊たちは跳ね飛ばされた。空からキュ、キュと声がしてドラちゃんとドラニちゃんが降りて来た。馬と神父さんに前足を翳し、キュ、キュ、キュー、キュ、キュ、キューと言っている。ドラちゃんがふわりと飛び上がり、猛スピードで飛んで行った。スパエチゼンヤまでほとんど転移と同じくらいで着きそうなスピードだ。


 あれ、ドラちゃん、どうしたの。ブランコとドラニちゃんと遊んでいたんじゃないの?

 何、何。スパの前で跳ね飛ばされた神父さんと馬が死にそう。手当はしたけど見て。分かった。案内してね。転移。


 モーリス侯爵とウルバノ大司教の兵に跳ね飛ばされたハビエル神父さんだった。助けよう。ドラちゃんとドラニちゃんの手当が良かったね。ほとんど治っている。救命谷川水100倍を神父さんと馬にたっぷりふりかけ、神父さんを抱き起こし飲ませる。トルネードは、トルネードはと気にしている。馬にも転がっていた桶に水を入れ飲ませた。大丈夫だろう。


 ブランコ、盗賊退治を良くやったね。ドラちゃんとドラニちゃんの手当てが間に合ったよ。よしよし。尻尾を振って嬉しそうだ。ドラちゃんとドラニちゃんも手当が上手だったよ。手当のおかげで神父さんとお馬さんが助かったよ。よしよし。皆んな飛び付いて来た。十分撫でた。


 あれお馬さんは脚を引き摺っているね。治してやろう。ブランコに覚えて貰おう。お馬さんの脚にブランコの前足を押し付けて、治れ、治れ。10回くらいやってみたら脚が光って治ったみたいだ。ブランコが出来たよと喜んでいる。よしよし、いい子だ。

 お馬さんは不思議そうに足踏みしている。


 治ったようだね。この額の渦でトルネードと名前がついたのかい。トルネードが光った。しまった。まあいいか。

 「おまえは良く神父さんに仕えるように」

 ヒヒーーン

 分かったみたいだ。良かった。


 馬は早速神父さんの元に行った。脚をトントンして治ったと教えている。

 「良かったのう。良かったのう」

 首に抱きついて涙を流している。トルネードも嬉しそうだ。


 森の中からこちらを見ているのは、盗賊の一味だ。逃げていく。ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん、跡をつけてやっつけて来てね。ブランコが小さくなり、音を立てず、つけて行く。ドラちゃんとドラニちゃんは森の上空を飛んで行く。転がっている盗賊は消しておこう。


 さて、ブランコたちが仕事をしている間に事情を聞こうかな。

 「ハビエル神父さん、どちらに行くところでしたか?」

 「炊き出しの時はありがとうございました。神聖教国の神父のハビエルと申します。エクバティアでウルバノ大司教のもとで神父をしていました。神聖教国から帰国命令が来て、神聖教国に戻ると、ドラゴン悪魔派、聖ドラゴン派、中立派に分かれて大混乱しておりました。混乱をおさめるべく、総合運営方針検討委員会が開かれました。会議はまとまりませんでしたが、各派閥から10人ほど、スパエチゼンヤに視察に行ってみる、神国が受け入れてくれれば神国まで行ってみるということだけ決まりました。私は、リュディア王国とスパエチゼンヤさんに視察の受け入れをお願いしに行く道中、この森で盗賊に襲われました」


 「神父さんは、スパエチゼンヤの前で兵を止めようとなさいましたね」

 「あの時は必死でした。民間施設を教会が襲うなど、どう考えても神の理から外れています。神の名の下に行ってはいけない行為で思わず兵の前に出ていました。もしかしてあの時も助けていただいたのでしょうか」

 「勇気ある行為と思いお助けしました」

 「そうですか。シン様には二度も命を救われました。何か私にできることあればこの命、ご自由にお使いください」

 おっと、また信者が増えた。今度は神父だ。宗旨替えしたのだろうか。


 森の中からドカーンと音が聞こえてくる。

 ウオン、ウオン、キュ、キュとブランコとドラちゃん、ドラニちゃんが戻って来た。掃討作戦終了だね。よしよし、いい子だ。


 さてそれではスパエチゼンヤに戻ろう。せっかくだから神父さんにはトルネードに乗ってもらおう。

 「神父さん」

 「ハビエルとお呼びください。私はシン様の僕ですから」

 すっかり宗旨替えしたらしい。


 「ではハビエルさん。トルネードの脚が治ったのでトルネードに乗ってください。鞍は今置きます」

 収納から鞍を出しトルネードに置く。ハビエルさんを乗せてね。ヒヒンと嬉しがっている。乗せたくても乗せられなかったからね。飼い葉桶などは収納した。


 「じゃ乗ってください。道案内をしますのでついて来てください」

 「ブランコ、一緒に走ろう」

 尻尾をブンブン振って大きくなった。

 「スパエチゼンヤまでだよ。30分走ったら休憩。トルネードの様子を見る」

 「ブランコ、ゴー」


 ウオンと吠えて駆け出す。今日はブランコの脇を走る。ブランコが喜んで走っている。ドラちゃんとドラニちゃんは前に行ったり、後ろに下がったり、脇を飛んでみたり自由だ。

 ブランコは最初はゆっくり、トルネードがついて来ているのを確認してスピードを上げてゆく。えらいえらい。30分走った。

 「よし。休憩」


 「ハビエルさん、大丈夫でしたか?」

 「はい、なんともありません。トルネードにも驚きました。馬の速度を遥かに超えています」

 トルネードの首筋を撫でている。トルネードも本当に嬉しそうだ。


 さて、救命谷川水100倍は強すぎるといけないから、ポタポタ水をハビエルさんとトルネードに飲んでもらう。馬体が大きくなった。バトルホースに進化したね。これならスパエチゼンヤまでかけ続けられそうだ。

 みんなには魔の森の泉の水だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る