106 ハビエル神父とトルネードが盗賊に襲われる
二週間ほど村々に泊まり、時には野宿しながら先ずは国境を目指して歩いていた。
馬車が追い抜いていく。御者は見たような顔だ。はて誰じゃったろう。
だいぶ歩いて森の中に道は入っていく。
道の端に馬車がひっくり返っている。
馬車のそばに身ぐるみ剥がされた男が倒れていた。息はない。
よくよく見るとトルネードを売りつけた馬喰だ。
手配が厳しくなって逃げて来たのだろう。しょうがない、埋めてやろう。
遠くから馬の蹄の音が聞こえてくる。間もなく衛兵が10名ほどやって来た。
「神父様、どうなさいましたか」
「エクバティアに行く途中なのですが、ここに馬車が倒れていて、人が亡くなっているので埋めてやろうと思っていたところです」
「どれどれ、あ、これは我々が追っている馬喰だ」
「盗賊に身ぐるみ剥がされたな」
「神父様には怪我がありませんか」
「私がここに来た時はすでにこの状態でした」
「この馬喰には賞金がかかっています。神父様はどうなさいますか」
「恵まれない人に使ってください」
「わかりました。代わりに国境までお送りしましょう。さほど遠くはありません。見たところ馬も大変なようですね」
「この馬喰から買いました」
「被害者でしたか。それはお気の毒に」
「今は旅の友です」
衛兵は、倒れていた馬車を起こすと、点検して車台だけ残して壊し、荷車にして馬喰を積んで馬をつないだ。
「では、神父殿、我々はこれで引き返します。衛兵2名に国境まで送らせます」
「ありがとうございます。皆様に幸あらんことを」
衛兵2名はトルネードの積荷を2頭の馬に振り分け、一頭に神父と衛兵、一頭に多めの荷物と衛兵。トルネードには何も載せず、国境目指して出発した。
「神父様、教国はどうなるのでしょう。ドラゴンに大神殿を破壊されて、ドラゴンは悪魔で間もなく教国を破壊に来るという噂で持ちきりです」
「あのドラゴンは、エクバティアにいたドラゴンで、私も見たことがありますが悪いドラゴンではありません。大きくなって飛んでいたこともありましたが、宰相がカビが生えたお茶菓子を出したとか、色々叫んで王都中大笑いになっていました。だから悪魔でもなんでもありません。大丈夫ですよ」
「そうですか。そうだといいんですが」
「大丈夫ですよ。神はちゃんと見ておられます」
またシン様の顔が浮かんでしまった神父殿である。
話しながら進んで、国境に着いた。
「では、我々はここで帰ります」
「ありがとうございました。皆様に幸あらんことを」
「トルネードや、また二人だね。ゆっくり行こう。まだ10日以上かかるだろうから頑張りましょう」
ヒヒンと応える。
草原の丘陵地隊はゆっくりと、森に入ると早足で進む。何事もなくリュディア王国に入った。
「ここから王都まで5日くらいかな。ゆっくり行こう」
いくつか丘を越えて森に入る。道を間違えたようだ。細い道に入り込んでしまった。鬱蒼とした森だ。
「トルネードや、道を間違えてしまったようだ。戻ろう」
道を引き返すと、4、5人の人が道を塞いでいる。後ろを振り返ると後ろにも4、5人が立っている。
「こんにちは神父様」
「はい、こんにちは」
「何かお持ちでしょうか」
「見ての通り何も持っていません」
「チッ、失敗したな。まあいい、その神父服も詐欺師に売れるだろう。馬は、ダメだな、食肉が精々だ」
剣を抜き
「さあ、神父服を脱いでもらおう。その後楽にしてやろう」
トルネードが神父の服を咥えて自分の背中に放り上げ、足を引き摺りながら森の中に駆け入った。
ハビエル神父は必死にトルネードに掴まる。
「逃げられると思うか」
盗賊が追ってくる。
草原の直線なら脚を引き摺った馬ではすぐ捕まるところだったが、幸い手入れしてない森である。倒木があったり、低木が生えていたり、枝が突き出ていたり、湿地になっていたり、何かが掘ったのだろうか穴があったりで、非常に駆けづらい。健脚の盗賊であっても、脚を引き摺ったトルネードになかなか追いつけない。しかし、この森を稼ぎ場にしている盗賊である。散開して三方から追いかけ、勢子のようにトルネードの進路をコントロールし始めた。
トルネードは哀しく嘶きながらも走り続ける他はなかった。やがて森から追い出された。
トルネードは程なく盗賊に囲まれてしまった。
「駄馬のくせに手間をかけさせたな。もう許さねえ」
盗賊がトルネードの首に切りつける。神父がトルネードの首を庇いバッサリと背中から腹にかけて切られトルネードから落ちた。
甲高い哀しい悲鳴が草原に響きわたる。
「チッ、神父服もダメになった。止めを刺してやる」
神父に振り下ろした刃の下にトルネードが首を差し出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます