103 神聖教国 会議は踊る(上) 衛兵の証言
神聖教国は揺れている。
教皇と主だった聖職者6人がいなくなり、残ったものは、ドラゴン悪魔派(旧来教義墨守派)と聖ドラゴン派(新教義創出派)に別れ、いがみ合っている。そこに教皇からの撤退命令を受け、戻った事情が分からぬ聖職者の大半が中立派(様子見派)となり、三派入り乱れて大混戦。
お互いに体力が大分削がれたあたりで、各派の代表が集まって会議をすることに合意した。
第1回 神聖教国 教義検討委員会
大神殿の瓦礫が見える大会議室。
まず委員会名で揉めた。教義検討委員会では教義を変更する前提の名前でドラゴン悪魔派にとっては受け入れ難いものであった。
そこで中立派から出された運営方針検討委員会と決まるかと思われたが、聖ドラゴン派から、それでは単なる運営方針の検討にすぎない。今までもやっていたとの意見があり、ならば、総合を入れたらどうかと中立派から発言があり、総合を入れることに決した。
第1回 神聖教国 総合運営方針検討委員会
開催である。
会議は始まったのだが、議長選出で揉めた。立候補はドラゴン悪魔派と聖ドラゴン派からそれぞれ1名が立候補した。
ドラゴン悪魔派と聖ドラゴン派が一歩も引かず、宗教者とは思えぬ罵詈雑言で相手の議長候補を罵った。仕事から私生活まで暴露合戦が開始され、ついに2候補が共倒れになってしまった。
今の世、宗教者といえども清廉潔癖、雲や霞を食って生活しているような聖人はいないのである。暴露を恐れて誰も議長に立候補しなくなってしまった。
このままでは大混戦に戻ってしまう。ドラゴン悪魔派と聖ドラゴン派の幹部が目配せし、ドラゴン悪魔派の幹部が発言した。
「どうだろうか。このままでは埒が開かない。ウチと聖ドラゴン派からは議長を出さない。中立派の長老でどうだろうか」
目線の先には中立派の人畜無害無能長老が船を漕いでいる。
「いいだろう」
中立派の重鎮が返事をした。
中立派重鎮がハビエル神父を揺する。
「ハビエル神父、ハビエル神父。起きてください」
「はい、おはようございます」
全員が神父を見ている。
「はて、何かありましたか」
「神父が議長に選出されました」
中立派重鎮がとぼける。
「それがしが議長に選出された?何かの間違いでは」
「間違いない。議長だ」
ドラゴン悪魔派幹部もとぼける。
「選挙か何かしたので?」
「貴殿が船を、いや沈思黙考している間に、この場にいる全員が一致して貴殿を議長に推挙し、満場一致で議長に選出された」
聖ドラゴン派幹部もとぼけてしまう。
「一神父には荷が重いですが、何をすればよろしいんで?」
「議長席に座り、議事開始と言ってくれればいい」
「さいですか」
ハビエル神父は議長席に移動し、
「議事開始」
と言った。言っただけである。沈思黙考を始めた。
ドラゴン悪魔派の幹部が、
「では無事に始まったようだ。まず、今回の事件だが、我々は、悪魔の所業と見ている。世界に一つの大神殿を神像ごと瓦礫と化すなど、悪魔以外にはあり得ない」
聖ドラゴン派幹部とドラゴン悪魔派幹部のやりとり
「それは違う。今までの教義、神のお告げ、神像、みな間違っていたのではないか。本当に今まで信じていた神がいたなら、大神殿の破壊もさせなかったのではないか。われわれは大神殿破壊後、悠々と上空を旋回しているドラゴン様に神を見た」
「我々は、大神殿破壊者の悪魔を見た。我々が守り続けて来た聖なる大神殿を破壊した暴虐のドラゴンである」
「大神殿というが、神の意に沿わなかった紛い物だったからでは無いか。我々はそんなものを後生大事に守って来たのかと思うと情けなくなる」
中立派重鎮
「当日、教皇と首席異端調査官のそばにいた衛兵を証人に呼んでみたらどうでしょうか」
ドラゴン悪魔派・聖ドラゴン派幹部
「確かにそれはそうだな。事情を聞いてみよう」
事務官が衛兵を呼びに行った。衛兵は待機させていたらしくすぐ来た。
中立派重鎮が聞く。
「職と名前はなんと言う」
「本部衛兵のマルケッススと申します」
「大神殿が破壊された時教皇のそばにいたと聞く。当時のことを話してくれ」
「宿舎の2部屋がドッカーンという音と共に破壊され、教皇執務室に報告に参りました。報告した直後大神殿が破壊され、空に巨大ドラゴンが飛んでおり、キーンという音と共に飛び去りました。その後教皇様は、『余は今まで神の声を聞いたことはない。いくら祈ってもだ。我らの神は我らが作った妄想の産物かもしれぬ。余はさっき確かに頭の中にドラゴン様の声を聞いた。ドラゴン様は神か神の眷属だろう』と仰せでした。ギーベル調査官が、『変節漢、棄教者め、神は許さぬ。教皇、死ね』と言って教皇様を刺しました。本官は、直ちに痴れ者のギーベルを成敗し、すぐ医師に連絡し、上官に報告しに行きました。教皇様がそのあとどうなったかは知りません」
ドラゴン悪魔派の幹部が聞く。
「教皇は乱心されていたのか」
「いえ、至って正常でした」
「正常で、我らの神を妄想の産物などと言うことは信じられぬ」
「狂っていたのはギーベル調査官でした」
中立派幹部
「他になにか聞くことはないか」
聖ドラゴン派幹部
「ドラゴン様の声を頭の中に聞いたということで間違いないか」
「教皇様はそう仰っていました」
中立派幹部
「もう良い。ご苦労であった。下がって良い」
衛兵は出て行った。
ドラゴン悪魔派が声をあげる。
「おい中立派、わざとか。証言内容を知っていたのでは無いか」
「当日教皇のそばにいた唯一の人物だ。証言を聞くのは当然だろう」
「それなら俺たちはウルバノ大司教を証人申請する」
中立派幹部
「いいだろう。呼んだらいい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます