102 宰相殿の厄日 異端調査官、神聖教国の異変、教皇、6聖人の話を聞いてしまった
宰相執務室。
ドアがノックされる。
「入れ」
「宰相、我が国を探っていた神聖教国の異端調査官がエチゼンヤの要塞牧場で働いているそうです」
「何だ、その要塞牧場とは」
「拡張届が出ていた牧場で土塀が硬く高く要塞のようでついたあだ名です。今や要塞牧場で通っています」
「何で異端調査官が働いている?」
「分かりませんが、あそこは神馬がいるとの噂で」
「もう良い。下がれ」
神にまつわる話は聞きたくないのである。
「宰相大変です」
「ノックぐらいしろ」
コイツいつか首にしてやる。
「神聖教国総本山に忍ばせている者から連絡鳥でメモが届きました。これですが、"小爆発音3回有、大爆発音有大神殿瓦礫化、教皇刺され巨大ドラゴン2頭旋回後飛去"」
確かに大変だ。前言撤回。コイツの首はつながった。
「日付は昨日か。それ以外の情報はないか」
「あそこには連絡鳥は2羽連れて行っていますが、大事な連絡には時間差で2羽飛ばしますからもう連絡鳥で新しい情報は届きません」
「分かった。急ぎ何人か神聖教国に潜入させ、内情を探らせよ」
「承知しました」
首のつながった男が下がる。
ノックの音がする。悪寒がする。ノックの音が大きくなる。しょうがない。
「入れ」
「宰相、教皇が」
息を切らしている。悪寒は正しそうだ。
「どうした」
「ドブさらいをしています」
「ドブ、他人の空似ではないか?」
「それが、ウルバノ大司教が、教皇様、どうしてそんな下賤の者のやる事を、と言ったらドブ水をかけられ、何をするのですかとつめ寄ると、聖ドラゴン様の神罰だ、もう一つ喰らうかと言われたのを、多くの人が目撃しています。どっと沸いたとのことです」
「もう良い。下がれ」
厄日だ。エチゼンヤで厄除けを売ってないか。
ノックの音がする。今度は普通の報告が聞きたいと思うが、そうではないと幻聴が。
「入れ」
「異端調査官や教皇の話なら聞かないぞ」
「大丈夫です。村々を回っている6人の男が、」
「村でも襲ったか」
盗賊なら討伐隊を向かわせればいい。と不謹慎ながらホッとする宰相。
「それが、病気の人には御神水を与え手当てし、腰を痛めた爺さんの代わりに薪割りをし、下水が詰まったと言えばドブさらいをし、作物の種を配り、お礼を言うと、」
何か言い淀んでいるな。
「それでどうした」
「聖ドラゴン様の思し召しです。皆様に幸あらんことを。と言って礼も受けとらず立ち去っていくそうで、」
「まだ続くのか」
「聖ドラゴン教の六聖人ともっぱらの噂です」
今日は厄日ではない、大厄日だと思う宰相。
秘書官の方を見ると
「陛下のアポはとってあります」
優秀なのか面倒事に巻き込まれるのが嫌なのかわからん。
ドアを開けて待っている。後者だ。
陛下の執務室
「陛下、神聖教国の件でご報告があります」
「大神殿が瓦礫となったそうだな」
「よくご存知で」
「さっき叔父上が来て話していった」
ローコーめ、俺のところには来ないじゃないかと思うが、来られたらそれも困ると思い返す宰相。
「今エチゼンヤの牧場で働いている異端調査官の退職届を、宰相殿のお友達のドラゴン二人が届けに教国に行って、壁から教皇の執務室に入って退職届を教皇に承認させて、退職調査官の部屋の掃除をして、大神殿を瓦礫の山にして帰って来たんだと。初めて見る本物の神の力に教皇が神聖教に疑念を抱いたところを近くにいた神聖教の信者に刺されたらしい。神国に戻っていたドラゴンが気付き、神様と行って命を救って連れて来たそうだ。それ以来聖ドラゴン様と言っているようだ」
「それから神様が教皇に禊をせいと命じ、それから毎日ドブ掃除をしているそうな。草むしりや薪割りを手伝ったり、洗濯をしたりして、下男、下女の仕事をやってるらしい。評判が上がったようだぞ。他に何かあるか」
「6聖人が活動していると聞きました」
「それも話して行った。今度の騒動直前に教皇の方針と相容れなくなった幹部聖職者6人が、神国に至らんと滅びの草原に足を踏み入れ、数キロ進んだところで死にかけていたところをドラゴンが発見し、神様とドラゴンで救命し、聖ドラゴン様と崇めるようになったと聞いているぞ。ほかに何かあるか?」
「いや何もありません」
「差し詰めスパエチゼンヤは、人界における聖ドラゴン教の総本山だな。神国は文字通り神の国だな」
「何か対応した方がよいのでしょうか?」
「触らぬ神に祟りなしというからな。そうだな、アングレアとスパーニアには知らせといてやれ。エリザベス様、イサベル様から連絡が行くだろうが、国として連絡しておけ」
「承知しました」
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