063 宰相と冒険者組合本部長の権威は地に落ちたが、人としての人気は鰻登りだ
翌日、冒険者組合に寄って見た。
受付嬢がこちらを見ない。
「こんにちは。宰相と本部長から手紙が来たのでお知らせに。それと王都にお使いを出す用事ができて、ついでだから何かあれば王都に届けますが」
2階から支部長が降りてきて、宰相と本部長からの手紙を読みホッとした顔をした。そして本部長宛の書類を預かった。ドラニちゃんの書類だろうね。ヒコーキ雲(直線雲)の犯人について支部として早く報告したいのだろう。支部長さんは僕らを監視しているのかな。素早い動きだ。
ドラちゃんとドラニちゃんに預かった書類を渡すと、王都の本部長目指し飛んでった。
宰相と本部長は、今日も二人で宰相執務室にいる。
二人の地に堕ちた評判の立て直しを策謀していた。実は二人の権威は地に落ちたが、人としての人気は鰻登りなのを二人は知らない。
宰相はなんとなくだが悪い予感がして窓を大きく開けておいた。
ドラちゃんとドラニちゃんが窓から飛び込んできた。
予感が当たった。今回は窓だと宰相はホッとした。ドラニちゃんが本部長に脚を出す。本部長宛の冒険者組合支部からの書類だった。
「すまないね。お使いしてもらって」
「お茶菓子を出そう。ちょっと待ってくれ」
手を叩くと秘書が出てきた。お茶菓子を頼む。秘書がチラッと、汚いものを見るようにドラちゃんとドラニちゃんを睨んで下がって行った。
すぐに秘書が戻って来てお茶菓子が乗ったお盆を床にドンと置いてさっさと出て行った。
まずいと二人は思った。ドラちゃんとドラニちゃんは鼻をまげ、お茶とお菓子を蹴飛ばした。
直後、ドッカーン。
今回は内から壁を破壊して飛んで行った。
「宰相と」「本部長は」「遠来の」「お客に」「出涸らしの」「お茶と」「カビの」「生えた」「クッキーを」「出したー」「「ドケチーー」」
大音量で女の子の声が再び王都中に響き渡った。
連日の笑い声が王都中、王宮からも響いてきたのはいうまでもない。
本部長は怒りに震えた。
「お前、何を出した。再び笑い物だ。今度は前回よりタチが悪い」
宰相も怒りに震え秘書を呼んだ。
「おい、何を出した」
「あんな獣には、最低ランクのお茶の出涸らしと、捨てる寸前のお菓子で十分でしょう」
「今の大音声は聞こえなかったか」
「丁度予約の懇意にしているお貴族様がお見えになりましたので、上等なお茶菓子をお出しする準備をしていました。何も聞こえませんでしたが」
「そうか。長く勤めているうちに耳が遠くなったのだな。暇をやる。直ちに王宮を出ろ。ゆっくり休むがよい」
「王宮には私の荷物がたくさん」
「そんなものは捨てといてやる。このまま今すぐ王宮を出ろ」
怒気を含んだ声を聞くに至って秘書は何か逆鱗に触れたらしいと気がついた。
急いで家に帰って賄賂で蓄積した全財産を持って家族と共に隣国に逃げようとしたが、国境目前の山道で妙に統制のとれた盗賊団に襲われ身ぐるみ剥がされたのはいうまでもない。
国王の執務室では国王が大笑いしながら、入ってきた宰相と本部長に言った。
「なんの用だ。カビの生えた珍しい菓子はないぞ」
二人は、ああ、聞こえていたと昨日に続き肩を更に落とすのであった。
ドラちゃんとドラニちゃんはイサベルさんの下に来て、上等なお菓子と飲み物をいただいている。もちろん仕事は先にした。大量のトイレットペーパーの補充だ。
「今回も期待に違わず、お義父様のお友達が大活躍してくれたわね。シン様に手紙を書くから持って行ってね」
キュ、キュと返事をしながらお菓子を食べている。
お、帰ってきたね。なになに、イサベルさんから手紙があるの。へえ、また二人組が王都を楽しませたみたいだね。二度あることは三度あるから、またお使いに行ってもらうかな。面白いから行くよーてか。まあ用は今のところないな。
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