061 ヒコーキ雲とコシの冒険者組合
さてゾロゾロとやって来ました冒険者組合。正式名称はリュディア王国冒険者組合コシ支部と言うんだそうだ。マリアさんはステファニーさんとお留守番。なんだか騒めいているね。いつもの受付嬢が睨んでいるぞ。手を振っている。歓迎されているのか。いや違うみたいだ。確認してみよう。
「こんにちは。お久しぶりです」
「今、忙しいんです。ご用のない方はお帰りください」
「用はあるんだけど、ざわざわしているのは何かあったんですか?」
受付嬢、しぶしぶ話してくれた。
「空に直線の雲が出現したのです。見たことが全くないので空が割れるとか色々な憶測が飛んでいるのですっ」
「そういえば街も騒めいていたね。上を見上げている人が多かった」
「だから、組合に問い合わせが多くて困っているんですっ」
「その雲ですが」
「忙しいんだからあっちへ行って」
「知っているんですが」
睨まれた。カウンター越しに手首を掴まれた。必死の形相で掴まれてしまった。お姉さん怖い。隣の受付嬢が奥に走っていく。いつものように逃げたのか。いや今日は行き先が違う。2階だ。男の人の手首を掴んで階段を駆け降りて来る。人のことを指差して喚く。
「支部長、コイツです。直線雲の犯人です」
「どうも。シンと言います。こんにちは」
挨拶はしないとね。
「2階に連れてこい」
僕の腕を掴んでいた受付嬢、カウンターを飛び越した。さすが冒険者組合受付嬢。連行されたよ。2階の会議室に。みんな面白そうについて来る。何?何?何が起きるの?ブランコが尻尾を振りながら周りを飛び跳ねる。
「座れ」
怖いおじさんだね。
「お前か雲の犯人は?」
雲霧じゃないって。言ってもわからないだろうから言わないよ、雲霧なんて。
「犯人というか、原因を知っているというか」
「なんだ原因は」
「あれは高速で飛行する物体の後に出来る細長い雲です。だからしばらくすると消えます」
「高速で飛行する物体なんてないぞ。何を知っている」
「ああ、この子達です。ドラちゃんとドラニちゃん」
「くそ、一匹増えているな。登録しろ」
「はいはい、それじゃ」
「そうじゃない。そいつらが飛んだのか」
「そう、ちょっとお使いに行ってもらった」
「人騒がせな。で何処に行ったんだ」
「王都」
「王都が騒ぎになるだろうが」
「すぐ消えるから大丈夫でしょう。心配ならトラヴィスさんとゴードンさんに手紙を届けておきましょうか」
「誰だそいつらは」
「そいつらは、宰相と冒険者組合本部長ですね。そいつらも心配するといけませんね。それと、言っておきましょうか、お前らはそいつらと二つ名がついたと」
「悪かった。悪かった。頼むからそいつらはやめてくれ」
「そう、じゃこれで。心配しないでくださいね。王都から査察は来ませんよ」
「ーーーーーーーー」
ドアを開けたら受付嬢二人が引き攣った顔をしている。いけませんね。立ち聞きは。それにしても二人は仲良くなったのかな。良い事です。
「従魔登録をお願い」
言い終わる前に二人で一階に駆け降りて行く。階段もすっ飛んでーー転けたのか。起き上がって受付に駆けてった。根性あるね。
紙を引っ掴んで戻ってきた。従魔登録の申請書だ。ささっと書いて窓口に出したら引換に鑑札をくれた。登録官は「見た」だそうだ。良いのかな。ま、良いか。
チャッチャッと作った首輪に鑑札を付けて、首輪をドラニちゃんに付けてお終い。この頃は熟成させなくとも良くなった。
それじゃ宰相と本部長さんに手紙を書きますか。
冒険者組合のホールで書いてドラニちゃんに収納していってらっしゃい。ドラちゃんも行くんだね。勿論か。寄り道しないで夕飯までには帰って来るんだよ。
「「はーい」」
返事した。二人が。僕は何を作ったんだろう。
スイングドアを飛び越えて、急上昇して、消えた。ヒコーキ雲を残して。おお、観客が。スイングドアから受付嬢が、2階の窓から偉いさん、支部長だっけ、が空を見上げている。納得してくれたかな。
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