046 トラヴィス宰相から晩餐会への招待状が届いたので準備する

 冒険者組合からエチゼンヤに戻ると爺さんが呼んでいる。


 「シン様、実は王都の宰相のトラヴィスから晩餐会への招待状が届いています。晩餐会の前にトラヴィスの奴が会いたいそうです」

 「行ってみましょう」

 「良いんですか?」

 「冒険者組合から僕とマリアが出禁をくらったようで、ちょうど暇になりましたから何処かに旅行しようかと思っていたところです」


 「オリメが明日仮縫いの服を持ってきますから、確認して服が出来上がったらでいいと思いますよ。一週間ぐらい後に出発ね。私もたまには王都に行ってみたいのでご一緒させていただきます」

 エリザベスさんが仕切るね。

 爺さん、ギョッとしている。羽を伸ばそうとしていたんだろうな。


 「侍女長は経験が足りないので王都を経験させたく連れていきます。みっちりマリアに仕込んでもらいます。それから若い侍女も訓練を兼ねて数人、ドレスの着付けにオリメとその助手を連れていきます」

 アンナさんも爺さん同様ギョッとしている。エリザベスさんが出かけて伸び伸びしたかったんだろうな。

 さすがエリザベスさん締めるところは締めるね。


 翌日、オリメさんと助手のアヤメさんがやってきた。今日は僕らが使っている客間に通し、まずは座ってもらう。窶れているね。ほとんど寝てないのでは。さりげなくオリメさんとアヤメさんに調理場で作って貰ったフレッシュジュースに谷川の水をポタポタしたものを飲んでもらった。完全回復したようだ。


 オリメさんの話では、時間が無く、一発勝負で本物の生地で縫ってきたそうだ。オリメさんすげえ。各人の頭のてっぺんから手足の先まで完璧な色付き立体モデルが頭の中にあるらしい。生地も頭の中で完璧に再現。何と鋏と針などの裁縫道具も再現。頭の中のデザインを元に生地を裁断して縫い立体モデルに着せ表情も含め自然な動作で動かして見て仮縫いを繰り返し完成させ、最後は本物の生地を広げ型紙も使わず、何も生地に書かず、迷いなく生地を裁断し縫い上げたそうだ。天才以上だね。もはや神の領域に踏み込んでいるね。頭がオーバーヒートしないかな。


 アヤメさんはトルソーから作らされたそうだ。それも各人の。完璧なトルソーから完璧な作品が生まれるそうだ。完全な個人の一点ものだな。量産は念頭にない超高級品だ。


 トルソーを前にデザインを考え何回も手直しさせられたそうだ。型紙を作り、本物に似たような生地を使い裁断、仮縫いしトルソーに着せ、特にトルソーにない手足の部分は何回もオリメさんにダメ出しされ修正してやっと出来たと思ったら、本物の生地でもう一度裁断、仮縫い、修正してやっと縫い上げたそうだ。


 天才に付き合うのは天災に付き合うような物だ。それにしても僕たちそっくりなトルソーが並んでいるところを想像すると怖いね。やっぱり天災だ。


 エリザベスさんもやってきた。女性陣は寝室だ。あら、まあ、キャっとか声がするが覗きませんよ。ブランコが気になってソワソワしている。エリザベスさん、アカ、マリアさん、エスポーサ、ドラちゃんの5人の各種ドレスの試着だから時間がかかる。


 ブランコに寄りかかって昼寝だ。おっとみんなが寝室から出てきた。オリメさんの分は手直しなし。アヤメさんの分は少し手直しがあり、僕らの分の試着が終わったら寝室でやってしまうそうだ。


 次はブランコと控え室。着せ替え人形と化した。オリメさん完璧だ。馬子にも衣装だね。アヤメさんの分は、そのままでいいと思ったが、オリメさんから手直しが入った。これも寝室で直してしまうそうだ。アヤメさんもほぼ完璧なんじゃないか。他所に行けば十分独り立ちできるだろうけど、天才をみると天才の元で研鑽したいらしい。


 ドレスが出来たので一週間後の出発となった。4頭立て馬車で2台。8日から10日くらいかかるそうだ。馬車も4頭立てで余裕だろう。


 ええと何人だ。爺さん、エリザベスさん、マリアさん、アンナさん、侍女3人、オリメさん、アヤメさん、そのほかに騎乗で店員さん4人、ええセドリックさんも行くの?そうなの。14人、御者2人。御者はエチゼンヤさんはみんなできるそうだ。専任御者は馬の世話係だろうな。ここ迄で16人。僕とアカ、ブランコ、エスポーサ、ドラちゃんで21人。


 イツカリ板長さんに帰りの分を含め21人、20日分の朝昼晩の食事を作ってもらおう。出発まで日数があるから、楽に作れるだろう。エリザベスさんにも巾着型収納袋を渡した。女性が多いからね。女性の荷物を入れてもらおう。例のラベルを貼ったドリンクはとりあえず500本がローコーさんの巾着型収納袋の中だ。

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