043 冒険者組合本部に連絡鳥と特急便が届いた

冒険者組合本部

 冒険者組合本部の屋上の連絡鳥小屋に連絡鳥が戻って来た。係がすぐ足の筒から紙を回収した。

 キツく巻いた紙に細い赤字で本部長行と書いてある。帰って来た連絡鳥にご苦労さんと声をかけ、世話を頼んで、ゴードン本部長の元に急いだ。


 本部長執務室

 ノックの音がする。

 「入れ」

 「連絡鳥が本部長宛の手紙を運んできました」

 本部長は、キツく巻かれた紙を広げた。文面は

 「我、ドラゴンを従魔登録せり。委細は特急便。○月○日 コシ支部長」

 「なんだと。おい、コシからここまで特急便だとどれくらいかかる」

 「三日でしょうか。それより少し早いかもしれません」


 「明日から西門に冒険者を常駐させろ。赤い旗が見えたら並んでいる入城者をすぐ排除し特急便を通せ。夜間閉門中は衛兵と協力してすぐ開門して特急便を通せ。手配を急げ」


 「組合本部の非常口に赤い旗を立てて、冒険者を常駐させろ。暗くなったら篝火をたけ。赤い旗が見えたら非常口を開放。特急便を迎え入れろ」


 翌々日の明け方、冒険者組合本部非常口に赤い旗を背負った三人の騎乗した冒険者が特急便だと怒鳴りながら飛び込んで来た。

 「こっちへ来い」


 三人の男はテントを張って臨時窓口をしつらえ待ち構えていた本部長に、腹に巻きつけた帯を解き差し出した。帯は横に口がある袋になっており赤い紐で一度結ぶと解けない結び方でしっかり5箇所縛ってあった。

 本部長が帯と結び目を確認し小刀で赤い紐を切る。中から油紙に包まれた書状二通が出て来た。油紙を開き書状の宛名、差出人を確認し、受取証にサインし冒険者に返した。

 「ご苦労であった。休憩室で休んでくれ」


 トラヴィス宰相宛の手紙を状箱に入れしっかり紐をかけ副部長を呼んだ。

 「特急便で届いたこの手紙を王宮に至急届けてくれ。俺は俺宛の手紙を読んでから行くと伝えてくれ。冒険者を二人つれて行け」

 「かしこまりました」


 副部長は状箱を預かると急足で出て行った。副部長を見送り本部長は執務室に戻った。


 「さてローコーから手紙が来るのは珍しいな」

 呟きながら封を切って読み始めすぐ隣室の秘書に声をかける。

 「コシ支部から従魔登録の書類が来ているだろう」

 「はい、聞いたことのない種類の従魔が登録してあって問題になっています」

 「書類を持ってきてくれ」


 「柴犬と白狼、持ち主は永年会員のシンだと、しかもローコーの関係者の。おい、なんだかヤバいな。危険な香りがぷんぷんするぞ。ローコー関係事案はろくな思い出しかない。大体俺の飲み屋のツケ、愛人、ゴホンゴホン、俺は今日は居なかった」


 「そうはいきません。きちんと手紙を読んで対処してください」

 秘書がさっとドアの前に立ちはだかる。窓に目をやるとすでにもう一人の秘書が張り付いている。

 「くそ、上司の教育が悪い。俺か。超小型ドラゴンを登録した。本当の大きさは不明。手紙の最後に爆弾だよ。超小型なんて信じられねえ。大災厄中の大災厄だぞ。どうするんだ」

 本部長は唸っている。


 「馬車を用意してくれ」

 「すでに用意してあります。御者には本部長が王宮へ行くと言ってあります」

 「くそ、泣きそうなくらい優秀な部下だ。さぞかし上司は馬鹿面をしているんだろうな」


 「宰相、冒険者組合特急便で書状が届きました」

 「どこのどいつだ、この朝っぱらから」

 「差出人はローコーとあります」

 「最悪だ。寄越せ」

 手紙をひったくる宰相。


 「なんだと、従魔に柴犬と白狼を登録しただと、知るもんかそんな魔物。それにドラゴンもか。暴れられたらこの国が踏み潰されるぞ。くそ、ゴードン本部長を呼べ。まだ続きがあるぞ。マリアが神様の嫁になっただと。巫女にでもなったか。爺さんボケたか。俺も同い年か。ああ俺もボケてえ」


 「ゴードン冒険者組合本部長が受付に来ているそうです」

 「早く通せ。奴に少なくともドラゴンは押し付けてやる」

 

 「宰相」

 「待ってたぞ。早速だがドラゴンは任せたぞ。帰って良い」

 「それはありがたい。手紙を良く読むと、圧倒的な柴犬、随分下がって白狼、一番下がドラゴンとある。では柴犬と白狼はよろしく」

 本部長は逃げにかかる。


 「待て、待て、待てーー。誰か其奴を止めろ」

 「ドラゴンが一番の強者と思って押し付けようとしただろう?」

 「悪かった、悪かった。エチゼンヤ案件は苦手なんだ」

 「奇遇だな。俺も苦手だ」


 「聞いてるぞ。駆け出しの冒険者時代、妖魔に落とされそうになった時、マリア殿に命を救われたそうじゃないか。それも何回も。恩を返す時だろう」

 「宰相どのが駆け出しの役人時代、国際的陰謀の美人局に引っ掛かり、新婚の奥さんにバレる事を恐れ、上司にも話せず、二進も三進も行かなくなった時、エチゼンヤとマリア殿に解決してもらったとか。今だぞ、恩を返すのは」


 秘書がお茶を持って来てドンと置いた。

 「どうぞ」

 秘書の態度に侮蔑を感じ取った両者はため息をつき休戦モードに入った。


 「とにかく柴犬と白狼という魔物は聞いたことはない。冒険者組合では知っているか?」

 「こっちも聞いた事はない。犬と狼の変種だと思うが、ドラゴンより強いとなると皆目見当がつかない」


 「大大災厄、大災厄、災厄か」

 「いや、大大大災厄、大大災厄、大大災厄、大災厄の4頭だろう」

 「大大大災厄は大大大大災厄かもしれん」

 「ドラゴンが大きければ大大災厄かもしれん」

 「そうするともっと大が増えるか」

 「どうするんだ。この国どころか周辺国も潰れるぞ」


 小股の切れ上がった秘書嬢がお茶を入れ替えて一言。

 「従魔の主人に会ってみればいいじゃないですか。敵対したと言う話はないのですから」

 堂々巡りの次元の低い議論をしていた両者は顔を見合わせた。

 「そうだな」

 「そうしょう」

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