042 商業組合に版画の技法を登録する
冒険者組合から戻ったら応接室でエチゼンヤさんが待っていた。無事出張から帰ってきたらしい。
「冒険者組合が賑やかだったそうですね」
「ええ、調査報告に行ったら、皆さんに興奮してもらったようです」
「活気が有っていいことです。それはそうとやっと版画の試作品ができました。見ていただけますか」
エチゼンヤさんが紙を差し出す。中々良い出来だ。ラベルのサイズが小さいから一枚の板木で4枚刷るようにしたらしい。
「いいんじゃないでしょうか。色もよく出ています」
「インクは苦労しました。最初は滲んでしまって隣の色と混ざり合ってしまいましたが、インク職人が頑張って粘りのあるインクを作り出して、滲まなくなりました。インクの製法も商業組合に登録できそうです。シン様が良ければこれから商業組合に登録に行きたいのですが、ご一緒していただけますか」
「いいですよ」
瓶にシールを貼って中身を入れた見本を作った。
「それでは出かけましょう」
セドリックさんがすでに馬車を玄関につけていた。エチゼンヤさんと馬車に乗り込んだ。距離がないからね。すぐ商業組合についた。
「組合長はいるかね」
「はい、こちらへどうぞ」
さすがエチゼンヤさん、すぐに奥へ通される。
「今日はどんなご用件で?」
「版画の技法を登録したい」
「版画とはどのようなものでしょうか」
「これです」
エチゼンヤさんはラベルが刷ってある紙を数枚取り出す。
「これはどれも全く同じように見えますがどうやって描いたのですか」
「それが版画です。この技法を使えば全く同じものが何枚も作れます」
「画期的ですが、理解できません」
「実際に見てもらいましょう。登録官をつれてエチゼンヤまで来てもらえますか」
「もちろん。お金の匂いがプンプンします。今から行きましょう」
手を叩いて秘書を呼ぶ。
「これからエチゼンヤさんに行きます。上級登録官2名を呼んでください」
組合長と上級登録官を連れてエチゼンヤに戻った。
エチゼンヤさんが版画研究所まで案内する。いつの間にか内部では版画研究所と呼ばれるようになったらしい。
エチゼンヤさんが概略を話し、上級登録官と職人3人が話を始めた。作業工程を一から見せ、登録官が記録していく。一気に登録までするつもりらしい。
エチゼンヤさんは組合長さんを応接室に案内し、組合長と権利使用料の配分割合を話し合った。
「シン様が7、エチゼンヤが2.5、組合が0.5で如何でしょうか。私どもは0.5で結構です」
組合長の試算によれば利益が莫大だから5%で十分なのだろう。5%は権利の保証代なんだろうね。関連商品を扱えばそちらで利益が出るからね。
「7割なんていりません」
あれ、マリアさんに突っつかれた。エチゼンヤさんと組合長さんが笑っている。
「6割と3割5分で如何でしょうか」
まさかのマリアさんの発言だ。決まってしまった。なんだか申し訳なく思うけど、いいか。
組合長さんは利益配分が決着したことで帰っていった。登録官は夕方までかかって書類を作っていった。そうそう、組合長さんには刷ったラベルを貼った青毒蛇ドリンクの見本を持ち帰ってもらった。大分薄めたけど効くかな。
翌朝、組合長さんがすっ飛んできた。目にクマが出来てげっそりしているね、組合長さん。
エチゼンヤさんに詰め寄っている。
「あれを扱わせてくれ。頼む」
「あれはまず王都でこっそりと高値で売りつけるつもりだ。一通り売ったら組合におろそう」
「頼む。あれは効くが体が大変だ」
「そうだろう、そうだろう。あまり潤沢にあるのはよくないな。たまに手に入るのがいいんじゃないか」
「そうだな。そうしよう。数が少なければ高値で売れるし儲かる。今日は家に帰るのが怖いよ」
ため息をつきながら組合長は帰っていった。
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