039 仕立屋さんのオリメさんとアヤメさんが採寸にやって来た

 翌朝、朝一番でオリメさんがやってきた。今日は若い女性の助手付きだ。


 「さて今日見聞きした事は口外しない契約を結んでいただきます。いいですね」

 エリザベスさんが口を開くとセドリックさんが現れて契約書をエリザベスさんに渡した。


 「昨日おおよその人数、服のグレードなどをお聞きしまして部下を伴いました。最も信頼する部下でアヤメと言います。仕事は私とアヤメ二人で行います。是非契約をさせて頂きたくお願いいたします」

 オリメさんやる気だね。契約書にサインした。エチゼンヤさんのサインは予めしてあった。


 「では早速、女性4名分からお願い」

 エリザベスさんが寝室に案内していく。アンナさんも付き添いだ。中にはマリアお姫様と人化したアカ、エスポーサ、ドラちゃんが待っている。


 集中すれば中の様子がわかるので見てみる。あ、みんな平伏したよ。

 「神様の装束とは思いもよりませんでした。私どもでは受ける事は出来ません」

 ちゃんと出来ないと言えるところがすごいな、オリメさん。


 「装束と考えなくていいから、姫様と神様と眷属様のこの世界のアフタヌーンドレス、イブニングドレス、インフォーマルウエア、完全な普段着を作ってくれればいいのよ。あなたしか作れる人はいないわ。大抵成金趣味のこれでもかというゴテゴテ、ギラギラのものしか作れないのよ。素材の良さを引き立てる服は作れない。それができるのはあなたよ。ついでに私のも作ってね。人としては素材はそんな酷くないと思うけど」


 「わかりました。お引き受けいたします。アフタヌーンドレスとイブニングドレスは私が、インフォーマルウエアと普段着は私の監修の元アヤメに作らせたいと思います。よろしいでしょうか」

 「それでお願いね」


 「アクセサリーは要りませんね。ネックレスとバングルにかなうアクセサリーは存在しません」

 「そうね。全くそうだわ」

 「じゃ採寸させていただきます」

 おっとここまでだ。覗きになってしまう。アカが見ててもいいのよと言っているが、やめますよ。もちろん。


 『生地は収納に入れておいたからそれを使って貰いなさい。普通の針は使えないから、針、糸、鋏など裁縫道具を二人分入れておいたわ。人がどんな物を作るか楽しみね』

 久しぶりの世界樹さんだ。

 『インナー、靴、靴下、手袋は作っておいたわ。形状・色変化仕様よ』

 『ありがとう』

 『オリメはいい娘ね。贔屓しようかしら』


 オリメさんとアヤメさんが出て来た。何やらぶつぶつ言っている。頭の中はデザインで溢れているんだろうな。


 「次はシン様とブランコ様ね。控室に行きましょう」

 エリザベスさん、ついてこなくていいよ。

 「私とアヤメでやります」

 オリメさん、やんわりと断った。エリザベスさん、チョッピリ残念そう。


 控え室では人化したブランコが待っていた。オリメさんとアヤメさんはなんの躊躇いもなく服を脱がせる。さすがプロフェッショナル。あっという間に採寸が終わった。


 「オリメさん」

 オリメさんがこちらを振り向いた途端よろめいた。

 「僕のもお願いします」

 「シン様」

 跪いたよ。ほおっておくと平伏しそうな勢いだ。

 「どうぞ立ってください。採寸をお願いします」

 アヤメさんは平伏したままだよ。

 「失礼します」

 手早く採寸した。

 「もういいですか」

 「皆さん理想的な体型で、一箇所測れば、他の箇所のサイズは予想通りでした」


 「生地ですが」

 「生地の手配は大変難しく、技術が最も優れた織工房に依頼するつもりですが糸があるかどうか」

 「生地は用意しました。見てください」

 机の上に生地を出す。


 オリメさんは布を見て目をみはって、すぐアヤメさんを引き起こした。

 「これはアフタヌーン、これはイブニング、インフォーマルはこれ、普段着はこれね。こちらは男物各種ね」

 布を手で触ってアヤメさんも目を丸くしている。


 「普通の裁縫道具は使えませんので、裁縫道具一式2セット、各種縫い糸を用意しました。こちらを使ってください」

 「ありがとうございます。確認させていただきます」

 裁ち鋏を手に取って開いたり閉じたりしている。アヤメさんは針をじっと見ている。プロの目付きは怖いね。集中力がすごい。流石だ。

 「わかりました。預からせていただきます」


 「インナー、靴、靴下、手袋は作ってあります」

 「助かります」


 「それとこれを使ってください」

 巾着型収納袋を渡す。

 「これは?」

 「開けて布を入れて見てください」

 「小さいからーーーあ、入った」


 「収納袋になっています。お使いください」

 「恐ろしくてとても使えません」

 「巾着になっていますからそう目立ちませんよ。オリメさん専用で盗っても使えないし、そもそも盗む事はできません。だから是非使って下さい」

 「わかりました。これも預からせていただきます」


 オリメさん、裁縫道具などを収納し、アヤメさんと帰って行った。プレッシャーがのしかかっているんだろうな。あれ、11歳の僕の正装は。


 客間に戻るとエリザベスさんがニコニコ待っていた。手に何やら服を持っている。

 しばらく着せ替え人形になって解放されたのは昼だよ。

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