035 魔の森の泉の畔で人化する

 森を出る。生き物の気配が押し寄せて来る。

 「崖まで駆けよう」

 色々いるみたいだけど、無視して駆ける。

 崖っぷちまで着いた。


 崖から飛び降りられそうだ。

 「皆んな崖から飛び降りられそうかい?」

 「大丈夫と思います」

 マリアさんやる気だ。アカは勿論、エスポーサもやる気満々だ。ブランコはキョトキョト皆んなを見ている。

 「ブランコ、無理しなくていいよ。ドラちゃんに乗せてもらえ」

 あ、いじけた。やるって言うけど腰が引けてるね。


 「じゃ行きます」

 マリアさんが飛び出した。大の字になってゆっくり落ちてゆく。アカもエスポーサも飛び出す。ブランコは目を瞑って飛んだ。ドラちゃんにブランコを見てくれるよう頼んだ。


 さて行こうか。みんなに追いつくまで加速。追いついたら大の字になって減速。右手にアカ、左手にマリアさん。後はいつもエスポーサ。安定して落ちていく。お、ブランコが目を開いた。下を見る。手足をバタバタしはじめ真っ逆様に落ちてゆく。


 エスポーサ、いいの?頑丈だけが取り柄だって。そうかい。でもドラちゃんが助けに行く。ブランコの下に潜り、少し大きくなって背中にふわりと乗せる。


 皆んな木をかわしながら地面にスタスタと着陸した。ブランコを乗せたドラちゃんも着陸。ブランコ、面目丸潰れだね。項垂れている。チラッとマリアさんを見る。お姫様だからね。オーラが違う。ブランコ、負けた。ムチを持たせれば女王様!いけない、危ない。ブランコ最下位が確定。哀愁の背中だね。


 いいのいいの、あんたは頑丈で力持ちで優しいから。皆んなわかってるから。エスポーサにヨシヨシされている。円い目で本当?って聞くから、そうだよ。頼りにしていると撫でてやる。可愛いんだよね。下目遣いのつぶらな目。皆んながうなずくからやっと持ち直した。ドラちゃんはいい子いい子しようとしている。こら、傷付くからやめなさい。


 ドカドカと足音がする。あ、根性なしの親戚だ。こちらを見てビクッとした。目を合わせない様にしているよ。逃げた。去るものは追わずだ。


 「この森の泉までゆっくり駆けて行くよ。襲って来るものは倒して収納してね」

 横に広がって獲物を倒しながら進む。


 泉に着いた。みんなだいぶ獲物を収納した様だ。

 泉の水は誰でも飲めるからね。エチゼンヤさんに渡す水筒、みんなの水筒。かなりの数の水筒を泉に沈める。


 「今日はここで野宿しよう。露天風呂を出すからお風呂に入って、テントにしようかね」

 いつもの様に、マリアさんとエスポーサに先にお風呂に入ってもらう。その間にテーブル、椅子などを出しておく。料理はマリアさんにお任せだ。テントも出しておく。


 マリアさんが風呂から出てきた。後に続くのは、え、エスポーサ奥さん?人化しているよ。美人妻だね。うん。


 ポンとドラちゃんが人化する。真っ裸の幼女だね。慌ててエスポーサ奥さんがお風呂に連れて行く。ブランコは唖然として、我に返って人化しようと唸っている。いつも通りだ。頑張れ。

 エスポーサ奥さんとドラちゃんが帰ってきた。ドラちゃんは着るものがないからちっちゃいドラゴンに戻ったそうだ。


 じゃブランコ、お風呂だよ。

 「あなた、どうせ着るものがないから、人化はあとでいいわよ。お風呂に入ってきなさい」

 トボトボと歩って行く。風呂に入ってなんとかしよう。


 洗い場でブランコ、ほら練習しよう。前足を掴んで、人化、人化、人化、と一緒に唱える。5分くらいしたらポンと人化出来た。逞しい青年だね。


 「人化できた。ご主人様ありがとう」

 「良かったね。お風呂に入ろう」

 「ご主人様と喋れるのが嬉しい」

 「そうかい。僕も嬉しいよ。これから人化できる時は人化して、できない様な場所では天狼になろうね。天狼のブランコも好きだよ」


 「不器用で迷惑かけてない?」

 お、人化してもつぶらな瞳でかわいいね。よしよししてやろう。

 「ブランコはそれでいいんだよ。ちっとも迷惑じゃない。みんな個性があるからね、得意なことを伸ばしていこうね。幸い時間はたっぷりあるよ」

 「うん」

 涙ぐんだ。よしよし。


 「さあ、でようか。エスポーサに見せてやろうね。ハンサムブランコを」

 「うん」

 服はないからとりあえず布を巻いてね。なかなかいいな。古代の武人みたいだ。

 「本当?」

 「うん、なかなかいいよ。さあ出ようね」


 「エスポーサ、ブランコが人化できたよ。ほらおいで。靴はないけど」

 ブランコが出てきた。肩から布を膝までくらい巻いている。

 「どう?」

 ブランコが聞いた。

 「似合ってるわよ。旦那様」

 あ、ブランコが照れた。真っ赤になった。ポンと人化が解けた。

 エスポーサも満更ではなさそう。愛おしそうに言った。

 「バカねえ」


 「さて夕食にしよう。みんなの服はエチゼンヤに戻って調達しようね」


 夕食を済ませ片付けてテントに入った。エスポーサ奥さんも天狼に戻ったよ。旦那と一緒がいいのかもね。

 いつも通りの配置で寝る。みんな疲れていたんだね。すぐ寝たよ。あれ、アカの人化は見てないな。見たい?ってか。いやいやここで真っ裸に人化してもらっても、嬉しいけど困る。楽しみにしているよ。さあ寝よう。


 朝になって、水筒を回収した。

 簡単な朝食を食べた。


 「さて今日は突っ走ろう。街道までブランコを先頭にフルスピードだ。街道の少し手前から普通の駆け足で西門まで行くよ。ブランコ行け」

 みんなで駆ける。


 あっという間に街道に突き当たった。

 西門が見えた。

 「ここから歩き」

 いつぞやの門番さんがいるね。こんにちはと挨拶した。まだ効いているよ。袖の下が。無事門を通過できた。

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