016 エチゼンヤ支店に着いた

 商業組合に戻り、預けてあった馬車に乗ってエチゼンヤ支店に向う。商店街の中心の広場に出た。


 「あれが支店です」

 広場に面した一等地に石造り三階建の大きな建物があった。間口は周りの建物の二軒分あるよ。

 「税金高そう」

 思わず口に出てしまった。

 「そうですね。間口で税金が決まりますから隣の倍です。さ、降りましょう」


 エチゼンヤ支店に入ると従業員が迎えてくれる。

 「大旦那様お帰りなさいませ」

 「はいただいま。奥に通りますよ。こちらはお客人です」


 店を通り抜けるとよく手入れされた中庭があり、その向こうに屋敷があった。びっくりだよ。大きい。10世帯くらい住めそうだよ。ブランコとエスポーサは、屋敷の更に奥にある従魔小屋に案内されて行った。アカは自分と一緒。


 玄関から入るとホールになっていて、使用人が奥まで二列に並んでいる。

 「おかえりなさいませ。大旦那様。いらっしゃいませお客様」

 ロマンスグレーの執事服の人が音頭を取って使用人が昌和をしたよ。まるで貴族だね。


 「ただいま。お客人は応接室にお通しして下さい。侍女長も来てください」

 爺さん、使用人にも丁寧だね。


 執事服の人にこちらでございますと応接室に案内された。

 馬車と同じで上品で上質な部屋の作り、家具だよ。すぐ爺さんが続き、侍女がお茶を持って入って来た。


 「シン様、拙宅においで頂きありがとうございます。こちらが執事長のセドリックと侍女長のマリアです」

 「セドリックです。何なりとお申し付けください」

 「マリアです。お世話させていただきます」


 マリアさん綺麗。ややお年を召しているけど、若ければドストライクだね。マリアさんが淹れてくれたお茶を飲む。美味しい。さすがです。


 「セドリックもマリアもよく聞いておくれ。こちらが旅の途中で私の命を救ってくれたシン様です。シン様の膝の上の神獣がアカ様、いま従魔小屋で休んでもらっているのは神獣様の眷属、フェンリルのブランコ様とエスポーサ様。この方々に私は命を救われました。シン様が着ている服は神話に出てくる神のお召し物に酷似しています。みなさん魔の森の奥の神話の地からおいでになったと確信しております。しかしそれが明らかになると色々問題がありますので、西の森の出身で、アカ様は柴犬、フェンリル様は白狼でお願いします」


 下手に否定してもしょうがないしね。肯定もせずに誤魔化そう。

 「シンです。過分なお言葉をいただきましたがよろしくお願いします」


 「シン様ご一行には当地に滞在の間、我が家にお泊りいただきます。マリア、部屋の用意をお願いします」

 マリアさんが出て行った。


 泊まることになっちゃったよ。あまり負担をかけても申し訳ないね。そうだあれを出そう。

 「エチゼンヤさん、宿泊代には足りないかもしれませんがこれをお納めください」


 赤子の手サイズの小さいダイヤモンドを出した。爺さんもセドリックさんも目を見開いて仰天している。

 「こ、これは、ダイヤモンドでしょうか。見たこともない大きさです。まさか」


 「どうぞ手に取ってみてください」

 「拝見します」

 爺さん手が震えて来た。

 「無色で不純物なしで、私の鑑定では最高級ダイヤモンドと出ています。そして過去に存在したことのない大きさ。セドリック、後学のために見せてもらいなさい」


 セドリックさん、手袋を取り出して手のひらに石を乗せてじっと見つめる。

 「上級鑑定師の私の鑑定結果も旦那様と同じです。とても私どもで扱える品ではありません」


 「セドリックのいう通りです。これが世に出れば争い、最悪戦争になるでしょう。どうかしまっておいてください」


 アカがテシテシとお腹を叩く。なんだってクズ石を出せってか。そういえば小さな石がたくさんあったな。


 「それじゃこちらでどうでしょうか。クズ石ですが色どりが綺麗なので何かに使えるでしょう」

 じゃらじゃらとクズ石を出す。あれ爺さんとセドリックさんが固まってしまった。石になってしまった。だんだん復活してきた。


 「これはクズ石どころではありません。一流の宝石商でも一つ持っていれば大威張りで、普段は奥に厳重に保管していて、ここぞという時に見せびらかすものです。この間ある宝石商が自慢げに見せてくれましたが、これを見てしまったらそれこそクズ石ですね」


 「たくさんありますからどうぞ」


 「命の恩人から国が買える様な財産をもらうわけにはまいりません」


 「原価はただの様なものですからそう言わずに」


 「ああやはり貴方様は、禁断の地からおいでなさった神様なのですね。今確信しました。シン様のシンは神ではありませんか。ではジュノはなんでしょうか」

 爺さん考え込んでしまった。まずいね。


 「じゃどれか一つでどうでしょうか。それならそんなに気持ちの負担にならないでしょう。埒が明きませんから、一番小さいこれをどうぞ」

 爺さんに押し付けたよ。


 「これ一つでも街が買えます。このエチゼンヤ、身命を賭してお世話申し上げます」

 爺さんもセドリックさんも目が据わっているよ。怖いよ。話題を変えよう。

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