017 エチゼンヤ支店で服を見繕う

 「そういえば服を見たいんですが」


 「そうでした。セドリック、バントーさんにとりあえず上下一式持ってきてもらいなさい。この神服でお客さんが出入りする店には行けません」

 セドリックさんが優雅に一礼して出て行った。音も立てずに気配がどんどん遠ざかる。早い。百メートル走だよ。


 爺さんが立ち上がり机のベルを鳴らす。すぐマリアさんが顔を出した。

 「お茶を入れ替えておくれ。今日は驚きの連続で喉がカラカラだ」

 「ただいまお持ちします」


 用意していたようにすぐ出てきた。今度はお菓子付き。頭を働かすと甘いものがいいというからね。さすがマリアさん。様子を見てたの?気配もしなかったけど。セドリックさんもそうだけど、なんだか戦闘力が半端ではない様な気がする。忍者とクノイチかな。こわ。アカとお菓子を食べる。美味しいね。


 「このお菓子は美味しいですね」

 「それは王都でも数量限定でなかなか手に入らない、ホーオードーのクッキーです」

 紅茶を注ぎながらのマリアさんの解説。


 「本店がホーオードーさんと取引があり特別に入手できました」

 こちらは爺さんの解説。エチゼンヤさんは大店だね。あ、気配が二つ近づいてくる。音無しで高速移動して来る。ええ、バントーさんもそうなの、忍者なの。エチゼンヤさん、こわ。


 トントンとドアを叩く音がしてセドリックさんと男の人が入って来た。

 また初老の人だよ。老人率が高いね。頭髪を見たのを爺さん気が付いたらしい。

 「こちらは隠居屋敷で従業員も長年私に仕えてくれた人達を本宅から連れて来ました。少し年齢層が上となっています。この人たちは私が信頼しているもので口が硬いです。シン様のお世話をさせていただきます。先ずは服を整えさせていただきましょうか」


 「支店長のバントーと申します。よろしくお願い致します。着衣一式をお持ちしました。控えの間でお着替えをお願いします」

 「支店長は代々バントーという名で、どんな場合でも必ず‘さん’を付けて、バントーさんと呼ぶのがエチゼンヤの習わしです」

 エチゼンヤさんの解説。なぜだか分からないが、確かにバントーさんは呼び名としてしっくりくる。


 控えの間にはマリアさんが案内してくれる。バントーさんが服を持って付いて来る。

 控えの間に入るとマリアさんが服を脱がそうとする。焦る。

 「大丈夫です。一人で着替えます」

 「そうですかーーー」

 マリアさん、ショタが好きなの?


 「長い間侍女をしておりますが、この生地は王族の服の生地と比べても雲泥の差があります。こんな手触りの良い生地に出会ったことはありません。ぜひ洗濯させて下さい」

 「これは汚れが染みつくことはないので、洗濯しなくて大丈夫です」

 マリアさん、残念そうに出て行ったよ。自分から離れると戻ってくるので預けたら紛失と思われてしまうからね。


 「バントーさんも大丈夫ですよ」

 「応接室に控えておりますので、サイズなどありましたらお申し付けください」


 やっとみんな出て行ってくれたよ。どれどれ、下着、靴下、靴もあり、上から下まで全部揃っているよ。先ずは、これはだぶだぶの猿股だな。ボクサーかトランクスを作ってもらおうかな。猿股が出来るならデザインをいえば作ってくれそうだ。他はこの世界の標準デザインみたいだ。特に問題はないね。郷に入れば郷に従えだ。サイズはピッタリだよ。執事長と支店長さん、すげえ。執事長さん、3次元スキャナーかよ。データを元に瞬時に揃えるバントーさんも異能持ちだね。応接室に戻ろう。


 「いかがでしたか。バントーさん、サイズを見て下さい」

 バントーさんが近づいて来て肩とかあちこち触った。

 「よろしいようです」


 「それじゃ4、5着揃えて下さい」

 「エチゼンヤさん、そんなにあっても。じゃあ、あと2着お願いします」

 「バントーさん、3着揃えて下さい」

 ああ、増えた。目が据わってくると大変なので黙っていよう。

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