014 コシの街で商業組合の会員になる

 何事もなく朝になった。


 どれどれ首輪とアンクレットはどうなったかな。上手く出来ているみたいだ。二頭を呼んでつけてやる。自動でフィットした。いいね。


 アカの陰でアンクレットを確認してみる。収納できる様だ。容量は一辺100メートルの立方体程度だね。少し小さいけど我慢してね。でもこの世界ではだれもこの容量の収納はできない様だ。だから使うのは当面家族の時だけね。


 谷川のエリクサー並みの水が入った水筒を一つずつ入れてやる。何かあった時に家族だけで使うんだよ。そうだ、最後に汲んだ泉の水の水筒も一つずつ入れてやろう。これで飲み水には困らない。水は念じれば欲しいだけ出て来るからね。水筒の栓は開ける必要ないよ。


 森でとった獣も食べきれないほど入れてやる。収納から収納への移動は慣れたので念じるだけで出来た。楽だ。

 

 朝食はごく簡単に黒パンで済ませた。もちろん水は注いであげました。お馬さんにもね。お馬さん鼻息が荒いよ。やる気満々だ。


 「馬車にどうぞ」と爺さん。


 「分かりました。アカおいで。ブランコとエスポーサは周りを固めてついてきて」


 アカが馬車に飛び乗ってきた。膝の上で丸くなる。頭を撫でてやる。嬉しそうだ。


 「で、では参りましょう。馬車を出してください」


 御者が御者席に乗り込み馬車が動き出した。昨日怪我をした護衛さんも大丈夫そうだ。歩いているよ。


 馬車の中は質実剛健だね。華美ではないが構造材や椅子など材質は良いものを使っている。エチゼンヤは結構由緒ある大店なのかもしれない。成り上がりの成金は豪華絢爛金ピカにしがちだからね。

 

 「旦那、もうすこしでつきます」

 御者席から声がした。


 「シン様、街の西門に近づいたようです。門で身元確認がありますがこのエチゼンヤにお任せください」


 外が騒がしい。うちのフェンリルが原因だろうね。門番が衛兵と一緒に飛んで来たよ。


 「これはこれは門番さんと衛兵さん。エチゼンヤと申します。手前どもに何かご用でしょうか」


 門番と衛兵はエチゼンヤかと呟きながら顔を見合わせた。


 「そうそう、この少し大きい白狼は手前どもの命をお救いいただいた森の民の方の従魔で、これから冒険者組合で登録するところです。西の森にも滅多に居ない希少種の白狼です」


 「そ、そうか。災厄のフェンリルではないのか?」


 「森の民が、白狼を生まれてすぐから育てるとこのように従順でおとなしく、主人に忠誠を尽くすようになります」


 お、ブランコとエスポーサが伏せをして上目遣いをし出した。クーーンクーーンと泣いている。我がフェンリルは役者だ。しかもあざといね。


 エチゼンヤさんが衛兵さんと門番さんに近づいて小声で話している。


 「いつもお勤めご苦労様です。この度は私どものためにお手数をお掛けしました。仕事が終わりましたら一杯やってください」


 エチゼンヤさん、衛兵さんと門番さんに握らせたぞ。衛兵さんと門番さんはニギニギして手の中のものの感触を確かめている。二人とも顔が弛んだ。


 「問題ないようだ。門番、そちらの特別列で入れてやれ」


 「へい、分かりました。旦那様方はこちらへどうぞ」


 衛兵さんは気持ちスキップしながら行ってしまった。


 「私、エチゼンヤと私の客人森の民のシン様、護衛4人と御者だ」


 「へい承知しました。お通り下さい」


 いいのか門番。フリーパスだよ。エチゼンヤ、そちも悪よのう。


 「ではシン様、馬車にお乗り下さい。先に商業組合に寄って会員証を作ってしまいましょう。数軒先の大きな建物が冒険者組合、その隣りが商業組合になります」


 すぐ商業組合についた。短い距離でもセレブは馬車に乗るらしい。


 忘れずにローブを羽織って馬車からおりると、爺さんは護衛の差し出す書類にサインをしている。任務達成の書類なんだろう。


 馬車は組合の馬車待機所に入って行った。アカとフェンリルは玄関先の従魔用スペースで待っていてもらう。


 商業組合に入ると、エチゼンヤと目が合った受付さんが呼び鈴を鳴らしてから出てきた。


 「これはエチゼンヤ様、こちらへどうぞ」


 二階の応接室に案内された。すぐ身なりのよい初老のおじさんが入ってきた。


 「今日はどのようなご用件でしょうか」


 「なに、こちらの森の民の組合員証を作ってもらいにね」


 「左様でございましたか。表のフェ、白狼のご主人様ですか。申し遅れましたが組合長をしておりますサカイ テツナリと申します」


 そこへ奥から書類を持ってお姉さんがやってきたよ。キリッとしたお姉さんだ。秘書か。ぽやぽやしたお姉さんがお茶を運んでくる。こちらは癒し要員か。


 「森の民のジュノ シンと申します」


 「ではこちらの書類になります。代筆も出来ますが」


 「大丈夫です」

 書類に書きこんで行く。


 名前 ジュノ シン

 種族 ヒト

  ヒトだろう。多分。え、そうじゃないの。世界樹さんがなんとか言っているが騒動になるので無視。

 年齢 11歳

  10歳なのだろうけど11歳にしておく。10歳だと余りにも幼い。11歳と思い込めば11歳なのだ。

 出身 西方の森

 扱い商品

 関係者(推薦者)

 

 「そこは私が記入しましょう。扱い商品はエチゼンヤ商品全般と西の森の産品。推薦者はエチゼン ローコー。これでお願いしましょう」


 「ではこれで」と書類を組合長さんに渡す。


 「わかりました。すぐ組合員証を作ります」


 秘書さんが書類を持って行った。お茶を飲んでいると組合長さんが聞いてくる。


 「今日はどこにお泊まりですか」


 返事をする前に爺さんが答える。


 「私どもの家に泊まっていただきます。森から出て来たばかりですので、しばらく逗留していただくつもりです」


 「そうですか。ローブの下のお召し物は見たことのない生地ですね。生地の産地などわかりましたら教えてください。もちろんタダではありません。商人にとって情報はお金と同じです。相応の額をお支払いします」


 「これは家にあったもので産地は知りません」


 「昔の物かもしれませんね。森の奥にはよく昔のものが残っているという話があります」


 爺さんがフォローしてくれた。


 組合長さんは口角が少し上がったけどそれ以上の追及はなかった。


 秘書さんが戻って来て組合員証を持って来た。


 「エチゼンヤさんを前にして烏滸がましいのですが規則ですのでご説明いたします」


 「会員には永年会員と一年会員があります。この組合員証は永年会員になります」


 「永年会員になるには、当組合に多大な貢献があった方、多額の寄付をしていただいた方、またはそれらの関係者の三通りあります。それぞれ基準があります」


 「関係者枠ではなかなか永年会員になれる人はいませんが、今回他ならぬエチゼンヤさんが関係者で推薦者、それも自ら署名なさっておりますので、永年会員とさせていただきました。もう会費は必要ありません」


 「また一年会員の方は必ず一年間に2回は取引しなければ資格を失います。永年会員の方はそういうしばりはありません。何も取引しなくても会員のままです。もし取引した場合の税の手続き等はエチゼンヤさんにお聞きください。もちろん当組合でもお教えできます」


 「わかりました。取引が生じたらエチゼンヤさんに聞いてみます」


 「では手続きは終了しました。これから従魔登録に冒険者組合に行かれるのですか」


 「よくご存知ですね」


 「商人は情報が命ですから」


 このおっさんも食えないね。さっさと引き上げよう。おっと爺さんも同意見の様だ。


 「今日は組合長自ら出張っていただきありがとうございます。では失礼いたしましょう」


 爺さんと商業組合を出る。爺さんは受付に冒険者組合に行ってくる間、馬車の預かりを頼んでいる。二つ返事だ。爺さんは商業組合の実力者なのかね。

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