012 エチゼンヤさんと出会いました

前回のあらすじ

 獣に襲われている馬車に遭遇。獣は狼くんが倒しました。 

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 護衛の人が呆けているよ。声をかけてやろう。アカからポンと飛び降りる。


 「大丈夫でしたか」

 「すまない。助かった」


 馬車から初老の人が降りてきた。護衛の人は倒れた人の腕を手当てしている。初老の人はちらっとそちらをみて少し安心した顔をしてこちらに向き直った。


 「ありがとうございました。ゴブリンに囲まれて難儀していました。それにしてもフェンリルはお強い。またそちらの見たこともない魔物はさらにお強いように見えます」


 「フェンリル?狼ですよ。白いから白狼。こちらは愛犬です」


 「神の使い、または災厄といわれるフェンリルではないですか」


 「フェンリルが何か知りません」

 護衛がジト目になった。


 「それとそちらの、愛犬?はフェンリル...白狼より迫力がありますが、神獣かさもなければ大災厄に見えますが」


 「柴犬という種類の犬が育ってしまって大きくなっただけです」

 護衛が嘘だあという目をしている。


 「白狼は首輪をつけて従魔登録をすればぎりぎり街に入れるでしょうが、そちらの柴犬様は神々しさ、偉容といい街には入れますまい。大騒ぎになります」


 「あ、小さくなればいいのね。大丈夫です。アカ、いつものように小さくなってね」

 アカがスルスルと小さくなっていく。柴犬サイズだ。


 「可愛いでしょう。愛犬ですよ。アカって言います」

 アカの首筋を撫でる。

 護衛の目が飛び出しそうだ。


 「なんともはや。言葉がありません。やっぱり神獣様なのでしょう。ありがたや」

 爺さん拝みだしてしまったよ。話が進まない。


 「ではこの辺で私たちは先に行きます」


 「お待ちください。お礼もせずに行かせる訳には参りません。隠居とはいえ商家の当主の父です。お礼もせずに行かせたのでは暖簾に傷がつきます」


 「お礼、いりませんよ。そうだなあ、それじゃ街がどっちか教えてくれますか。それでいいです」


 「我々が向かっている方に街があります。コシと呼ばれている街です。よかったら街までご一緒しませんか。あまりこの辺りに詳しくないようですので、お話をしながらどうですか」


 「確かに何も知りませんね。じゃそうしましょう」


 「日が翳って来ました。今日はここで野宿しましょう」

 道から外れて馬車を背中に焚き火をする。


 「ところでまだお名前を伺っていませんでした。襲撃の衝撃でうっかりしました。私はエチゼン ローコーと申します。商会の名前がエチゼンヤとなります。エチゼンヤと呼ばれています」


 「私は、えーっと」


 『ジュノ シンと名乗りなさい』

 世界樹さんかよ。


 「ジュノ シンと申します」


 『樹乃神よ』

 あ、やられた。


 「シン様とお呼びしても?」

 「どうぞシンとお呼びください」


 御者さんは馬の世話、護衛の皆さんは食事を作るらしい。この辺に水場はないのだろう。馬には皮袋から水をやっている。皮袋の水は不味いだろうな。人間はワインのようだ。


 干し肉を出し、皮袋からワインを大事そうにコップに注いでいる。水くらいなら協力しよう。こちらの水をお使い下さいと昨日泉で汲んだ普通の水の水筒を出してドボドボとコップに注いでやる。


 馬も飲むかな。たんとお飲みと桶にもなみなみと注いでやる。頭を突っ込んで一口二口と飲んだら、猛烈な勢いで飲み始めた。あっという間に桶は空になった。ベロベロと舐められる。お礼らしい。


 爺さんと護衛さん、御者さんが水を飲む。馬と同じ。あっという間に飲み干した。コップを恐る恐る出すので水を零れるくらい注いでやった。一口飲んで全員が溜め息を付いている。


 アカと白狼にも食器を出して水を注いでやる。同じ水だ。普通の水だよね。多分。


 護衛さんが鍋を出してきた。水をいっぱい入れてやる。湯を沸かし始めた。さっき出した干し肉は回収して干し肉のスープに変更したようだ。寂しいスープだね。


 「ブランコ、エスポーサ、夕食を取ってきて」


 二頭が元気よく草原に駆けて行く。あ、すぐ戻って来たよ。一角ウサギと鳥を咥えて来た。


 「よしよし。護衛さんに渡してね」

 「エチゼンヤさん夕食の足しにして下さい」

 

 爺さん、口をパクパクしている。護衛さんは、もう遠い目をしている。御者さんは馬の首に抱きついている。それぞれ現実逃避が無難だと気が付いたらしい。


 護衛さんが動き出した。爺さんに了解を取って獲物を捌き出した。流石に手慣れている。

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