009 アカが蒔いた実から生えた木は世界樹だった
29日目
朝になる。朝飯の後にアカと巨樹の森も際を駆け始める。川に時々当たった。だんだん駆け足が早くなったよ。何処まで行っても巨樹の森だ。森と川しかない。
あれ、見たことのある川に着いた。最初の出発点だ。森は丸いらしい。一周2日。一度帰ろう。
早速泉まで戻ったよ。服を脱いで柴犬サイズのアカと飛び込む。
谷川で沐浴はしたけど泉は一味違う。なんていうかな。帰ってきた感じ。安心感、優しさを感じる。水は冷たいけどね。アカと潜ったり泳いだりして追いかけっこする。
ひとしきり遊んだら服をジャブジャブ洗って、パッパッと水を切った。アカと駆けっこして里芋畑まで戻る。
あれ、アカの木が梢が見えないくらい巨木になっている。巨樹の森の木より大きい。
ピトッと抱きついてただいまと言う。お帰りって言われた気がする。あれ里芋畑が広くなっている。アカの木が大きくなったからかな。まあいいや。
夕飯にしてからアカに寄りかかって寝る。アカの木の側だ。
「アカ、明日は今回走って調査した内側を走ろうね」
今日は森の外周の5キロくらい内側を走る。一周2日かかった。
続いて5キロ内側を走る。5キロずつ半径を小さくしてかける。
中心に着くまで走り始めてから15日かかった。
巨樹の森はだいたい直径100kmくらいだろう。広いね。
果樹園、泉、野菜畑、穀物畑、岩塩、里芋畑は新たに見つからなかった。里芋畑は広い巨樹の森の中心だった。その周りを果樹園、泉、野菜畑、穀物畑、岩塩がとり囲んでいることがわかった。
どうしてこうなっているのか、まるで自分のために用意されたみたいに見える。
楽園だけどいつまでも甘えてはいけないね。足腰も鍛えられたし、アカも大きくなった。果物、野菜、穀物、泉の水。森の恵みは一生困らないくらいいただいた。明日出よう。
アカの木に抱きついて明日出ると報告する。相棒を貸してと言われ気がしたので相棒をアカの木に添える。あれ相棒がアカの木に吸収された。
貸してと言われたから多分帰って来るだろう。いつものように寝転んだアカに包まれて寝てしまう。
出立の日(50日目くらい)
翌日起きたら相棒がアカの木に立てかけられてあった。アカが咥えて渡してくれる。
握ると頭の中に情報が流れ込んでくる。
相棒は元は生え替わる前のアカの木の一部だったこと。生え替わったアカの木と相棒をリンクさせるために一晩借りたこと。
アカの木はこの世界に一本しか無いこと。数万年に一度生え替わること。生え替わる際には実を宿した枝を一本残し、木は消滅する事。
生え替わるためにはエネルギーが必要でそのため外からエネルギーを持った生物を呼ぶ必要があり、今回自分がそれに当たったこと。この世界にはアカの木以上のエネルギーを持つ存在はいない事などを知った。
ふうと息をついたら頭に声が聞こえた。
『私よ。アカの木。世界樹よ。あなたはアカの木と呼んでもいいわ。でも本当は世界樹よ。ここ大事。世界樹よ。あなたにお礼しなくちゃね。相棒は私とリンクしたから私のエネルギーが使えるわ。普通は種子が芽生えるとだんだんエネルギーを失っていくわ。でもこの相棒はあなたと相性が良かったみたいね。あなたからエネルギーをもらって枯れなかった。今はわたしとリンクしたからもう大丈夫』
『それとエネルギーを作り蓄えられるほど私も成長したから、あなたからもらったエネルギーは返しておいたわ。利息をつけてね。収納袋と水筒はあなたとアカのものは、容量無限、時間停止、不壊、首輪も相棒も不壊、使用者はあなたとアカ限定。何があっても手元にかえってくる優れものよ』
『それからあなたとアカはここで肉体を構成したからいつでもここに帰って来られる。故郷ね。それと外で何を食べても大丈夫よ。森に入る時肉体は再構成されピュアの状態になるのよ』
『ええ、そうだったんだ。あの実が世界樹の種だったんだ。一つ聞いていい?お名前は?』
『私は唯一無二。名前は特にない。だって私しかいないんだから世界樹で間違えようがない』
『この巨樹の森にある果樹園とかは世界樹さんがお造りになったんですか?』
『急によそよそしい言葉遣いをしなくて良いわ。そうよ、この地が出来たとき作ったのよ。世界樹の生まれ変わりを助ける生物のためにね。だから果物、野菜、穀類、どれもそれひとつで完全食よ。それだけで十分生きていける。ただ飽きるといけないから種類があるだけ。外の世界にも似た作物があるけど全く違うものよ。外で食べる時は気をつけてね。外の人に食べさせると強すぎて消化できないわね。消化器が破壊される』
『そうだったんですか。美味しかったし助かりました。外の世界で知り合った人達と一緒にいる時、自分たちだけで食べているのも気が引けますけど』
『じゃ一枚の収納袋に劣化機能をつけておきます。その中に一度入れてから出せば作物が劣化して外の世界並みの作物になるわ』
『それは助かります。なるべく食べない様にします』
『いいのよ。食べてもらって。あと泉の水はね。あれは外の世界でいうエリクサーのはるか上のものよ。名付ければ神水よ。むやみやたらと外の世界の生物に使わない方がいいわね。薬効に体が耐えられなくなって死んでしまう。良薬も多ければ毒よ。1000倍に薄めてもエリクサーより効き目があって余程の生き物でなくては死んでしまう。10000倍くらいに薄めてエリクサー並みの効能よ。だから泉の水をうっかりこぼしたりしないでね。舐めたらみんな死んでしまう』
『そうねぇ。あなたとアカ専用以外の収納袋と水筒にも時間停止を付与しておくわ。その袋に泉から流れ出た水の川が巨樹の森を出る直前の水を汲んでおくと良いわ。エリクサー並みよ。外の生物に使いたかったらそれを使うと良いわ。川が森から出て仕舞えばただの水よ。泉の水はあなたとアカだけにしておいてね』
『外へは泉から流れ出た谷川を辿っていくといいわ。いい眺めに出会うわよ。外の世界に飽きたら戻ってきたらいいわ。私とあなたとアカは同じだからね。じゃ行ってらっしゃい。楽しんでね』
『うん。行って来ます』
『ワン』
アカの木、世界樹に抱きついて言った。アカも頭と体をスリスリしている。
アカと走り出す。
「またねー」「ワンワン」
泉から流れ出た谷川を辿り、あっという間に巨樹の森の境まで到着した。
川の水を水筒に汲む。エリクサー並みだって。時間停止をつけてもらった水筒を水に沈める。相変わらず渦を巻いて水を吸い込む。相棒で川底に穴を開けてそこに収納から出した竹をしっかり差し込み水筒を水中で竹に縛り付けておく。
川の岸で休憩。今まで暮らした森と別れると思うと少し寂しい。
水筒はまだ水を吸い込んでいるけど、このくらいでいいだろう。水筒の水が無くなることもないだろう。
深呼吸して外の世界に踏み出す。世界が変わる。
静謐な神聖な場所から、生き物の息吹、雑多な気配が押し寄せる世界へ。
まばらに木が生え、草が生えている。木は普通の野山の木だ。巨樹ではない。
「アカ、ゆっくり行こうね」
谷川は森から遠ざかるに従い広くなって来た。歩き続け日が傾く頃驚いた光景に出会う。大地がなくなっている。
大地の端まで行くとはるか下に雲が浮かびその下に森が広がっているのが見える。川は滝となって流れ下り雲となって散っている様だ。虹が出ている。雲のあたりに翼竜が飛んでいる。しばらく虹と翼竜に見惚れていた。これはそういう世界なのか。何がいるかわからないね。気をつけよう。
アカが耳をピクッと動かす。草むらに飛び込んだ。しばらくしてウサギを咥えて来た。ツノが生えているよ。これを捌いて夕食か。包丁、いけない相棒が怒る。
相棒にウサギを捌くから短くなってというとすっと短くなる。ウサギの首を落として血抜きする。しばらくぶら下げていると血が出なくなった。
やり方はわからないけど多分こうだろうとお腹を切り開く。内臓、特に消化器を傷つけない様に取り出す。内臓は今回利用しないことにした。皮もなめし方を知らないからアカに穴を掘ってもらって頭と内臓と一緒に埋める。
とりあえず今日は串焼きかね。枝を取って来て肉を刺して焼く。岩塩粉末を少しちょうだいと言うと手のひらに少し塩が出てきた。パッパと塩を振る。
焼き上がってアカと食べる。うん普通に美味しい。半分食べて収納袋にしまった。食後のリンゴを食べる。美味しい。完全食だから肉に不足する栄養があっても大丈夫。優秀優秀。
お腹が満腹になりアカに寄りかかって夕焼けを見る。美しいね。眠くなった。
「何か来たら教えてね」とアカに頼んで寝てしまう。
アカがわかったと顔をペロっと舐めた。
朝日が登ったけど昨夜は何も来なかった様だ。川で顔を洗い、昨日の残りのウサギの串焼きを食べ、トマトを食べ少し休憩。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます