007 巨樹の森の外は世界が違った

14日目以降

 「アカ、今日は穀物畑に行って、そこから岩塩、野菜畑、果樹園、最後に泉で沐浴して帰ってこよう。道はわかる?」

 「ワン」

 任せろと言っている。

 「じゃ行こう」


 アカはすごい。一度も迷わず案内できた。

 「明日から何回か回って収穫しようね。そしたら泉の先に行けるところまで行こう」

 それから一週間ほどぐるぐると回って穀物、岩塩、野菜、果樹、もちろん里芋を収穫した。多分数週間は戻ってこなくても食料は足りそうだ。


21日目

 「よし、アカ、明日からは10日ぐらいを目処に泉の先に行ってみよう」

 「ワン」

 

22日目

 いつもの霧の朝だ。今日からは大冒険だ。泉までアカと駆けっこをして行く。水も汲んでおこうか。しばらく水筒を使っていない。水を入れ替えるかな。飲んでみる。あれ冷たい。汲んだ時のままみたいだ。じゃそのままでいいか。


 「アカ、この間いった巨樹が途切れるところまで乗せていってくれる」

 「ワン」

 伏せてくれたのでアカの背中に跨る。今やアカはポニーくらいの背丈だ。足はポニーと違って太くて頑丈だ。楽々乗れる。


 「よし行こう」

 アカが駆け出す。何日かかかった行程があっという間だ。巨樹の森さえ抜けてしまった。まだお昼にもなっていない。


 「アカ、少し休憩しよう。この辺に泊まれるところを作ろう。巨木と違って木は柔らかそうだ。何本か切って4本柱を立て、棒を桁に並べて上は茅の様な草を並べて屋根にしよう。脇は素通しだ。とりあえず屋根だけ」


 アカに皿を出して水筒の水を入れる。美味しそうだ。


 休憩したので小屋を作ろう。巨樹の森と違って枯れ枝が落ちている。枝を拾う。何か動く。え、蟻だ。蟻が枝を這っている。生き物だ。初めて生き物と遭遇した。


 アカの耳が動く。鼻も大気中の臭いを嗅いでいる。


 巨樹の森には生き物はいない。もしかしてと蟻の這っている枝を巨樹の森に入れて見る。抵抗があり入らない。蟻を落として枝だけ入れて見る。やはり入らない。ヤバイ。


 「アカ戻るよ」


 アカが駆け寄って来る。アカに飛び乗り巨樹の森に駆け入る。少し抵抗があったが戻れた。足の裏に着いた泥がなくなっている。巨樹の森に入る時落ちたらしい。少し抵抗があったのは外の世界のものを排除したからかも知れない。


 もしかすると外の世界で外の世界の物を食べたら戻れなくなるのだろうか。今は怖くて試せない。


 「アカ、少し戻って谷に降りよう。石で鍋を作ろう」


 谷に降りてひと抱くらいの岩に向かって相棒を構える。先ずはスパッと平に切ろう。

 「エイッ」

 切れた。


 上半分がドサっと落ちた。下半分で鍋を作る。


 まず30センチくらいの円の外側を削る。もちろん相棒に働いてもらう。相棒の先に近いところを左手で持ち少し離れた所を右手で持つ。相棒の剣先で石を削る。おお、もう槍鉋だ。スルスルと削れる。


 丸くなった所で円の中がわを削り出す。鍋の丸みが難しいが何とか削り出した。窪みが着いた円い円柱が出来た。アカは石の鉋屑で遊んでいる。円柱の下を切る。穴が開いてはいけないので余裕を持って切る。


 ひっくり返して鍋の形に削る。中側と違って外側はやりやすいが鍋の底が抜けてはならないので慎重に作業する。出来た。


 あれこれではボールに近い。縁の上に穴を開ける。蔦を取ってきて取っ手をつける。よく出来た。収納袋にしまう。明日が楽しみだ。

 今日はここまでにしよう。


 「アカ、泉まで戻るよ」

 アカに乗せてもらって泉まで戻る。


 アカは大きくなった。柴犬をライオンくらいにしてさらにサラブレッドくらいの大きさにした感じ。四肢がガッチリしているからサラブレットと違って何がぶつかっても足も折れない、壊れないだろう迫力がある。レーシングマシーンと戦車の違いか。いやこの戦車は速さはレーシングマシーン、頑丈さは戦車だ。戦車が泉で遊ぶのはちょっと、いや大変大き過ぎだ。


 「ねえアカ、柴犬くらいになれる?」

 「ワン」


 体が光ってスルスルと小さくなる。柴犬の成犬くらいの大きさになった。

 「うわ、出来た。じゃ遊ぼうね」


 アカを抱き上げ泉に投げ入れる。すぐさま飛び込んでアカと泉の中で泳いで追いかけっこする。アカを捕まえるとペロッと舐めてくれる。泉の水で冷たくなった舌だ。


 岸に戻り相棒を泉に投げ入れる。アカは潜って取りに行く。ざばーんとジャンプして相棒をぽんと投げて来る。取りやすいところに投げたね。褒めて褒めてとジャンプして来る。筋肉質の胴を抱き止めて撫でてやる。尻尾がぶんぶん振れて水が弾ける。顔が笑っている。ペロペロ攻撃される。頭を撫でてやると耳を倒し目を細めて嬉しそうだ。


 「じゃ上がって里芋畑に戻ろう」

 アカはブルブルっと体を振り頭を振って尻尾を振って水を切る。


 服をザブザブして軽く絞る。パッパッて振る。それだけで汚れと水気がなくなる不思議な服だ。一着しかないけど不便はない。


 アカと駆けっこしながら戻る。追いかけるには柴犬サイズが可愛くて良いね。寝る時は大きくなってもらおう。尻尾を体に掛けてくれるし暖かいんだよね。今日もアカにくるまって寝る。天国、天国。

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