005 谷川をくだる
八日目
朝、里芋をいくつか掘り出した。今日は谷川を辿って森を抜けられるか歩いてみよう。何泊かするかもしれないね。
魚籠モドキを取り出してびっくり、袋になっている。蔦の色なので多分魚籠モドキだったんだろう。
口に紐がついていて口が閉じている。開けて里芋を入れてみる。すっと吸い込まれた。ええええ。袋はぺたんこのままだ。
袋に手を入れて里芋はと探してみると里芋が手に触れた。里芋出ろと言ってみたら袋の口からポンと里芋が出てきた。すごい。
掘り出した里芋全部を入れてみる。入った。袋はぺちゃんこ。でも里芋が袋の中にあるのは分かる。三個ある。
そうか一日二個として10個くらい入れておこう。里芋を掘り出して袋に足す。里芋の葉と茎も入れる。
里芋一個を細かくして里芋を掘り出したところにその破片を埋める。帰ってきたら立派な里芋になっているだろう。そんな気がする。
袋に竹水筒も入れる。竹に少し艶が出た様だ。袋を首に掛けて服の下に入れる。これで落としたりしないだろう。よし。
「アカ、今日は、泉によって水を汲んで、果樹園と野菜畑で収穫、それからもう一度泉に戻って泉の水の流れを辿ろうね。何泊かするよ」
アカと一緒に手を合わせて一礼。袋と水筒をありがとうございました。おかげさまで遠出ができる様になりました。今日もよろしくお願いします。
泉まで来た。いつもの朝のルーチンをやって今日は竹水筒に水を汲む。
すーっと渦を巻いて水が吸い込まれる。あれポコポコも言わない。まさか袋に続き竹水筒も進化した?一向に吸い込み速度が変わらない。数分したが吸い込みの勢いが止まらない。もういいだろう。
栓をするとキュッと音がした。あれ節が丈夫になっている。昨日は栓を捩じ込むと少し節が削られる様な気がしたが、今日は栓も節も丈夫になっている。もう水筒と呼ぼう。
念の為他の竹水筒を出してみたがやはり進化している。ついでだから水を汲んでおく。水筒を袋にしまった。袋の重さは変わらない。
泉から果樹園と野菜畑に行ってそれぞれ収穫した。袋の中の時間が止まっているかわからないので、とりあえず5日分くらい収穫した。
さて、それでは泉の水の流れを辿って行こう。
「アカ、まずは一昨日の到着地点まで行こう。よーいドン」
アカが駆けていく。ええ、また大きくなった。もう柴犬を超えてシベリアンハスキーくらいになったのではないか。
早い。それに大きな石があると飛んで超えていく。筋肉質の体が躍動する。離される一方だ。でも頑張る。自分も早くなったかもしれない。アカが遠くで「一番!」と吠えている。
「待っててね。今行くよ」
やっと追いついた。アカが駆け寄ってくる。良く走ったとぺろぺろ。アカは息も乱していない。
「もうちょっと大きくなったら乗せてくれる」
「ワン」
乗れるまでに育ったら乗せてくれるらしい。
「じゃここから先、大きな岩ばかりで谷も水も深くなる様だから、谷の上にあがろう。登るよ」
アカと二人で谷を登っていく。かなり急傾斜だ。アカは四つ足だから安定して登っていく。
自分は、相棒だよ。相棒を斜面に突き刺しながら滑り落ちない様に足場を固めて登っていく。20メートルくらい登ったかな。
斜面、ほとんど崖だけど、どうやら上まで登りきった。下を見る。深い谷底に石がゴロゴロして、間を急流が音を立て波を立て下っていく。なかなかの渓谷美だ。
一休みだな。おやつのリンゴをアカと食べる。水筒の機能を確かめるため水も飲んでみる。泉で汲んだ時と同じ温度のようだ。冷たい。水筒なのか袋の効果なのかわからないが温度は変わらない様だ。
アカは谷川の水を飲んでいたからいらないかな。あ、いるの。それじゃと里芋の葉を袋から出し、窪ませて水を入れてやる。
際限なく出るね、この水筒は。少し傾ければチョロチョロ、下に向ける角度によって水量が違う。おっと、真下に向けたらドーッと出る。そんなに穴が大きかったっけ。謎だ。そういえば吸い込む時も渦を巻いていたっけ。高機能謎水筒だ。
斜面に突き刺して汚れた相棒を水筒の水で洗う。傷一つなし。石も岩もあったが軽く突き刺さったな。相棒も謎だ。謎は置いて、アカを撫でる。猫ならゴロゴロいうところだ。目を細めて喜んでいる。
「アカ、それじゃ谷側の流れに沿って下って行こう。初めての所だからゆっくりだよ。周りを良くみて警戒を怠らずに行こう」
相棒で下草や枝を掻き分けて行く。なるべく手を加えない様に、邪魔であっても岩などは回り込んで行く。相棒なら叩けば割れる気がするが必要ない破壊はしないでおく。神様か森かわからないが優しさに謝意と敬意を表して破壊せずだ。
夕方になるまで歩いた。今日は野宿だ。
主食の里芋と、リンゴとトマトを齧って寝ることにする。なんの気配もしないから巨木の根元でいいかな。
アカは頭の脇で自分にくっついて丸くなる。赤の鼻息が首にかかって少しくすぐったい。
瀬音が途切れなく聞こえる。うるさくはない。子守唄だ。疲れていたのですぐ眠ってしまった。
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