004 野菜畑

六日目

 いつもの通り、顔に雫が当たり、ペロペロ攻撃が始まる。

 「わかった。わかった起きるよ」


 朝食は昨日持ち帰ったリンゴだ。アカと半分ずつだ。今日は泉までいき、泉から流れ出る水の流れを辿って見よう。


 「アカ泉まで駆けっこだ」

 「ワン」と答えアカが走り出す。速い速い、最早疾走だ。全速力で付いてゆく。泉まで着くといつもの飲水、水遊び、沐浴だ。


 「さてアカ、今日は水の流れを辿るよ。あっちだ。行くよ」


 アカは水の流れに出たり入ったりしながら走ってゆく。自分の方が速いと自覚した様だ。時々振り返って付いてきているか確認している。賢い。


 流れは消えてしまうかと思ったらだんだん石が多くなり、周りから低く谷のようになって来た。小さな川がいくつも合流して来た。水量も多く急流になって来た。


 「アカ、水が増えて来たから岸に上がるよ」


 呼べば直ぐ戻ってくる。見上げると竹が生えている。あれを取って帰ろう。


 「アカ、竹のところまで登るよ」竹を指差す。

 谷はまださほど深くないので楽に登れる。


 竹は孟宗より太い。なるべく細いものを探す。孟宗並に太いのが真竹だろう。


 相棒で竹を切る。竹は斜めでなければ切れないのに真横にスパッと切れる。刃も付いていないのに不思議だ。上下に節を残して切る。上の節に穴を開ければ水筒だ。いくつか作った。節を相棒の先でぐりぐりする。穴が開いた。節の上にも穴を開ける。吊るす穴だ。紐はない。キョロキョロと何かないかと探すと蔦が生えている。細い蔦をとってきて竹水筒の吊るし穴に蔦を通す。腰の里芋を外し竹水筒を腰に巻く。


 そうか。蔦でネットを作るか。蔦を集めるだけ集める。地面に井桁のように並べる。上に里芋を置いて包むようにし端の蔦は横に編み込んでゆく。目の荒い魚籠のような物が出来た。ないよりましだろう。


 竹の上の方に飛びつきしならせて遊んでいるアカに声をかける。

 「お昼だよ。おいで」


 魚籠モドキから里芋を取り出し相棒で皮を剥き、割ってアカと食べる。


 「リンゴをとって泉によって帰ろう」


 魚籠モドキを腰に付けカラカラと竹水筒を鳴らしながら果樹園に向かう。


 「食べたばかりだからゆっくり歩いて行こうね」

 「ワン」と返事をしてゆっくり歩く。


 果樹園についてリンゴをもいで魚篭モドキに明日の分を三つ入れる。朝一個と昼間2個だ。今日の分はここで食べていこう。


 「アカ、リンゴを食べるよ半分こだよ」

 「ワン」

 「食べたら泉によって里芋畑に戻ろうね」

 「ワン、ワン」

 リンゴを食べながら返事をする。


 そうだ。リンゴの枝をもらおう。竹水筒に栓をしないとね。リンゴさん竹水筒用の栓を作るので少し枝をくださいと頼んで枝を少し貰い相棒で竹水筒の穴に合う様に削る。はめたり外したりして調整して完成。さて泉に行こう。楽しみだ。


 いつもの様に泉で水を飲む。今日は竹水筒に水をいっぱい汲んで栓をする。振ってみるがこぼれない。なかなか良くできた。


 沐浴して里芋畑に戻って竹水筒の水を飲んでアカを撫で寝る。アカには里芋の葉を使って水を溜めて飲ませたよ。食器が欲しいね。

 

七日目

 朝になる。この地で気がついてからもう何日になるのだろう。数えてないや。アカが来てから毎日楽しく探検して過ごしているので日にちも気にならないな。


 里芋畑から見て泉が南とすると、今日は西の方に向かってみることにしよう。


 「アカ、今日はあっちだよ。何があるかな。探検だよ。行くよ」

 「ワン、ワン」尻尾フリフリ駆け出す。

 「ゆっくりでいいよ。迷子になっても困るからね」

 「ワン」


 里芋畑から果樹園くらいの距離を行くと森が切れる。


 うほっ、これは野菜だろうか。でかい。腰のあたりまであるものがゴロゴロしている。キャベツの様に見える。


 キャベツの向こうにはあれは胸あたりまでありそうな菜葉だ。ほうれん草に見える。


 キャベツの左には葉っぱは人参の葉っぱの様に見えるが腰あたりまである。


 キャベツの右には背丈くらいの赤い実がなっている。小さいスイカくらいある。トマトのように見える。


 これは野菜畑だ。


 野菜畑の周りは巨樹の森だ。ぐるっと回ってみる。他の野菜?もあるがなんだか良くわからない。でも多分食べられる野菜だろう。畑の端にお茶の木もあった。野菜ではないけど生えているね。


 里芋畑、朝露、相棒、泉、アカ、果樹園、野菜畑。なんだか優しさを感じる。神様かな。どなたかわからないけど、ありがとうございます。手を合わせて一礼した。あれこれはなんの動作だろう。でも自然と動いた。これでいいんだろう。毎朝この動作をして感謝しよう。


 今日はトマトらしきものを齧ってみる。味は、トマトだ。


 「アカ食べる?」

 トマトを一つもいでやる。お、食べるね。アカは何でも食べるんだな。一緒のものを食べられて嬉しいね。


 キャベツの葉も食べよう。一枚剥がして食べてみる。噛んでいるとほの甘い。美味しい。


 キャベツの葉をお椀にして竹水筒の水を流し入れた。


 「アカ、ほら水だよ。水を飲んだら葉っぱも食べていいからね。リンゴも食べようね」


 魚籠モドキからリンゴを出す。あれなんだか魚籠モドキの目が細かくなっている。進化したのかな。トマトをいくつかもいで魚籠モドキに入れ、帰ることにする。


 泉がわかる?とアカに聞くとワンと言って走り出した。迷わず泉に着き、里芋畑に帰る。


 明日は里芋とリンゴを持って谷川を辿ってみよう。石がゴロゴロしていたから谷川の岸を辿ろう。


 トマトと里芋を食べて手を合わせて一礼、今日も一日ありがとうございました。アカもコクコクと首を振っている。礼をしているんだろう。うん、いいね。

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