003 果樹園
五日目
ぺろぺろぺろぺろ。朝になった。今日も朝食に里芋。しょうがないよ。何もないんだから。
今日は泉から少し遠くへ行って見よう。
相棒で里芋の茎を切れろ、エイッと叩くとスパッと切れた。本当に木か。謎の相棒だ。
遠出は弁当持参でなければならない。里芋を里芋の葉っぱで包んで、切った茎で縛り腰に縛りつける。腰弁だな。水は水筒がない。弱ったな。泉の水をたらふく飲んで行こう。
「よし、アカ、泉へ行くよ。かけっこだ。よーいどん」
あれ、アカは昨日より早い。成長したのか。少し体も大きく見える。尻尾はフリフリだが腰は安定してふらつかない。尻尾の振り方を見ると嬉しいんだろう。散歩というところか。相棒を右肩に担いでアカの後を追っていく。迷わず泉についた。こっちを見ている。一番!ていう顔をしている。
よしよし、水を飲もう。
「水を飲んだら今日は遠くに行くよ。真っ直ぐ行くよ」
アカはワンと言って駆け出す。
「待て待て顔を洗って水を飲むまで待ってね」
アカは立ち止まって早く早くと言っている。急いで顔を洗って水を飲む。よし行こう。
一時間ほどゆっくり駆ける。少し先でアカがワンワンと呼んでいる。なんだろう。危険ではない様だ。
追いついてみると低木、と言っても高さは10メートル位はある。巨樹に比べたら低木ね。巨樹に囲まれまばらに木が生えている。疎林というやつか。広さは球場くらいだ。あれ、球場ってなんだ。まあいいか。そういう広さだ。
おっと良く見ると実がなっている。丸い実だ。なんだろう。リンゴの様な違う様な。大きさはリンゴの数倍だろう。でも手が届かない。よし、ここはアカに任せよう。アカを抱っこしてアカにあの実をとってねと言って投げ上げる。一番低い所の実を叩き落とした。
「アカ、これ食べられると思う?」と聞いてみる。
答えは「ワン」だ。尻尾も揺れている。齧ってみる。固い皮だが齧れなくはない。シャリっとした食感だ。少し甘い。リンゴの様だ。これはリンゴと名付けよう。
「アカ、これはリンゴだよ、ほら食べて見て」と齧りかけのリンゴを渡す。アカはパクパクゴックンだ。尻尾が揺れて大変ご機嫌だ。
アカが数歩助走してジャンプした。前足でリンゴを二つ落とす。すごいジャンプ力だ。リンゴがなっている所まで3メートルくらいはあったけど余裕みたいだ。ひょっとしたら10メートルは軽いかもしれない。アカが落としたリンゴを咥えてくる。褒めて褒めて攻撃だ。もちろんいい子いい子だ。首の周りをなで、頭を撫でお腹を撫でてやる。
あっちになっているのは桃の様だ。歩って見よう。ミカンもある。栗、柿、さくらんぼ、ぶどう、イチジクもある。なんだか懐かしいラインナップだ。
お昼にしよう。腰にぶら下げた里芋を地面に置いて相棒で二つになれといいながら叩いてみる。粉々にならずにスパッと半分に切れた。リンゴも半分に切る。アカ食べようと声をかけて、アカと食べる。リンゴ一個は里芋の代わりに腰にぶら下げた。これは今日の夕食。
ここは果樹園と名付けよう。アカは食べ終わった様だ。食欲旺盛、よしよし。しかし水を入れるものがないな。あまり泉から遠くには行けない。今日は戻ろう。
「アカ、泉まで戻るよ」
ワンとアカが答え駆け出す。早くなった。心なしか朝より大きくなった。ええー本当かと思うがなんとなく少し大きい様だ。置いていかれては困るので急いで駆け出す。もちろん相棒を肩に担いでね。
泉にたどり着く。アカは水を飲んでいる。もちろん自分も水を飲む。飲み終わったらアカはザブンと水に飛び込む。水を飲み終わるまで待っててくれた様だ。服を脱いで泉に入る。少し深くなったか。アカと遊ぶ。相棒を投げる。あれ広さも広がった様だ。もう少しで池だね。
明日は泉から流れ出る水を辿ってみるか。十分遊んだから「アカ、里芋畑に戻るよ」と声を掛けて池から上がる。服も洗濯する必要があるなと思いながら服を着る。ゆったりしたシャツとズボンの様なものだ。幅広の帯を締める。靴は革みたい。
忘れずにリンゴを帯に結えつける。アカはブルブルっと頭から胴体、腰、尻尾と体を震わせて水を飛ばす。楽しかったのか尻尾はブンブン。
「よし、行こう」と声を掛けて先に駆け出す。ここからは道は覚えているからね。すぐアカに追い抜かれる。「こら待て」と言って追いかける。時々振り返り待ってはくれるが追いつきそうになると駆け出す。追っ掛けっこだと思っているんだろう。すぐ里芋畑に着いた。
アカがいるから今日は最初に目が覚めた里芋畑の真ん中の空き地で食事をするか。
アカが里芋を掘り出す。掘り出してくれた芋を左手に持ち右手で相棒を芋に添え皮剥きと唱え芋を動かすと、あら不思議、皮が剥ける。里芋の葉を取って来て、皿の代わりに地面に敷き、皮を剥いた芋を相棒でいくつかに切り分けアカと一緒に食べる。文化程度が上がった。
空が赤い。今日はここで寝てみるか。アカに「何かあったら教えてね」と頼んで横になる。アカは昨日と同じ。脇の下から肩に顎を乗せてぺろぺろしてくる。わかったわかったと撫でてやる。日はすっかり落ちて星が出てきた。アカの体温を感じながら眠りに落ちた。
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