002 泉の発見 ・ 愛犬アカが来た

二日目

 冷たい。顔に水滴が当たる。良かった。今日も濃霧が巻いた。


 里芋の葉っぱの露を飲んで里芋を掘り出して食べる。昨日里芋を埋めた場所からは芽が出ていたので新たに掘った。


 今日は昨日の続きだ。巨樹の密林を振り返り振り返りしながら進む。


 昨日の数倍進んだろうか。少し開けた場所に出た。


 地面が湿っぽい。棒で30センチ位掘って見るとじわじわと水が滲み出て来た。棒で周りを突き崩し手で土を掻き出し直径50センチ、深さ30センチ位の穴を作った。穴の底から水が滲み出てくる。底の部分を棒で突くとポコポコと水が湧き出して来た。やがて穴の縁を超え溢れ出す。泉と言っていいだろう。


 しばらく待つと水が澄んで来たので手を洗い飲んでみる。冷たく美味しかった。腹いっぱい飲んで里芋畑に帰る。里芋を掘って食べて寝る


三日目

 朝起きると今日も濃霧だ。


 昨日の泉がどうなっているか分からないので里芋の朝露を飲む。里芋を齧り、棒を持って出発する。


 泉への道は大体覚えた。最初は全く同じ様に見えた木も表情がわかる様になってきた。何回か観察ながらゆっくり歩けば何と無く一本一本の木の違い、木の配置の違いが分かる。


 泉が見える所まで来た。木々の間から泉を観察する。何も居ない。近くに足跡もない。


 泉は直径1メートルくらいになっていて底は砂地になっていた。元々泉だったが何かの拍子に埋まってしまったのかも知れない。今は清冽な水が湧き出ている。


 泉から溢れた水はチョロチョロとした流れになって木の間を流れていた。取り敢えず顔を洗って手足を洗い水を飲む。美味しい。数日泉がこのままであればもう枯れないだろうと思う。


 鳥も動物も来ないのはどうしてなのだろう。そういえば今まで虫の音も聞こえてこなかった。生き物は居ないのか。安全といえば安全だが狩りも出来ないということだ。


 何か食べ物を探さなくては芋だけだ。栄養が偏るだろうと思うが今のところ快調だ。もしかしたらこの里芋は完全食、便利植物か。


 棒もやたら丈夫だ。折れもせず傷もつかない。木が傷つかない訳だよな。棒に名前を付けてやろう。伸び縮みすれば如意棒だが、今のところ伸び縮みする様子はない。勇者の棒、導きの棒、便利棒、相棒。ややカーブしているから勇者の刀。まあしかし勇者でもないので相棒か。とりあえず相棒にしておこう。成長したら名前が変わる魚もいることだし、成長したら名前を変えてもいい。


 今日はこれまでにして塒の里、里芋畑まで帰る。里芋を掘って食べて寝る。今日は食べ残しはそのままだ。明日朝食べよう。


四日目

 顔をぺろぺろと舐められている。アカだろう。柴犬の愛犬だ。おっと目が覚める。本当にアカがいた。二か月くらいの子犬になったアカだ。く~~ん、く~~んと鳴いている。アカは茶色っぽい赤だったが今は真っ赤だ。


 「アカか?」

 「く~~ん、く~~ん」

 「来てくれたの?また一緒に暮らそうね」

 「ワン。ワン」

 くるりと巻いたシッポがパタパタ。

 抱っこして撫でてやる。顔をぺろぺろしてくる。可愛いやつだ。


 「水を飲むか」

 抱き上げて里芋の葉にたまった水に近づける。ぺちゃぺちゃと一生懸命飲み取る。最後にペロッと顔をなめられた。もういいということだろう。


 「食べ物はこれしか無いんだよ。一緒に食べよう」

 里芋を相棒でたたき細かくしてアカに与える。自分も食べる。アカも齧りだした。シッポが揺れる。可愛いねえ。さて今日も探索だ。


 「行くよ」と声をかけ泉までゆっくり走る。泉までは慣れた道だ。アカは一生懸命ついてくる。

 「ほら着いた」


 泉が大きくなっていた。直径5mくらい。深さは膝まである。もう少しすると池になるかもしれない。


 アカは早速水を飲む。次にざぶんと泉にダイブした。そうか水浴びをしてもいいな。どうせ何も来ない。


 服を脱いで泉に入る。浅いけど泉だからこんなもんだろう。手で体を洗う。汚れが浮いてすぐに流れていく。結構な噴出量だな。


 アカと遊ぶ。水をかけてやろう。お、潜った。お前犬だろう。潜るんか。足元まで潜ってきて底を蹴って浮上して飛びついてきた。ハッハッと息をしてペロペロ攻撃だ。舌が冷たい。


 アカを投げてやると頭から水の中に飛び込んだ。水中を泳いで来て先ほどと同じ様に水底を蹴りジャンプしてくる。お前ほんとに犬かと聞いてもぺろぺろ。


 相棒を投げてやるとなんと相棒は水に沈む。お前は木だったろう。そういえば水に沈む木もあった。そういう木かもしれない。


 アカは相棒の沈んだあたりまで犬カキをして泳いで行って、ジャンプする様に水面から跳ね上がり頭から水に突っ込んで行った。相棒を咥えて水中を泳いできて勢いをつけてジャンプ。相棒を渡してくれる。ううむ器用だ。もはや犬とは思えぬが可愛い。


 しばらく遊んで帰ることにする。

 「アカ帰るよ」と声をかけると、先にズンズンと進んでいく。尻尾をフリフリ、つられて腰がフリフリ揺れるのが可愛い。道はわかっている様だ。一度来たところから迷わず帰ることが出来るなら明日からは新しい所へ行ける。本当に迷わず里芋畑に着いた。アカは賢い。


 相変わらず食事は里芋だ。悪いねアカ。一緒に食べよう。アカはわんと返事をして里芋を齧る。ついでに相棒も齧る。もちろん傷はつかない。丈夫だな相棒。ほんとに木なのかな。自信がなくなってきた。化けて出るわけでなし、いいか。


 横になるとアカが隣で丸くなる。もそもそ動いて腕と体の間に頭を突っ込んで、頭を脇の下から肩へ乗せる。撫でて撫でてと言っている。もちろんよしよしと撫でる。モフるというらしい。存分にモフる。やがて眠くなったらしく目を閉じ軽く寝息をたてた。よしよしと撫でて自分も眠る。

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