第36話 「ビーチバレー」と書いて......③
「では、もう一回だ。」
声をあげてから、ボールを高く投げ、助走に入る。
次こそは取る!!
重心を低くし、どこにきても対応できるようにかかとを少し上げる。
「トォ!!……ふん!」
やっぱり早い! でも、これなら...左腕を大きく伸ばし、前に倒れ込むようにして駆け出す。でも...
「くっ...」
突き出した腕はボールに届くことなく、虚空を切るだけだった。
…今のでも遅いのか。
自分でも早く動いたつもりだったが、それでもまだ足りないらしい。なら、次は...
パンッ!!
弾け飛ぶような打撃音。
だが、その音が聞こえるよりも早く動き出していた。コート半分を捨て、自分のエリアに来たボールだけ取ることに専念した。
そして、ボールは自分の手の届く範囲。
これならいける!!
「いけッ!!」
しかし、ボールは二階堂さんの方に飛ばすどころか、コート内を大きく外れて明後日の方向に飛ばしてしまった。
「ハァ...ハァ...」
「ドンマイだよ。次、頑張ろ!」
情けないが、二階堂さんの言葉で少し安堵してしまっている。だが、それもしょうがないと思ってまうほどに相手が強すぎる。
実は、バレーボールの才とか持ってたりしないよな?
でも、そうでなければ、それだけ身体能力やセンスに差があるということなのだろう。
……なんて、こんなにも......
「来るよ、連君!!」
思考の沼から急いで抜け出す。
そうだ。今は目の前のことに集中しよう。考えるのはその後でいい。
バンッ!!
…今度は取れる!!
ボールは自分の目の前をちょうど通る軌道。これまでに受けたボールはたかが数回だ。それでも、ある程度の傾向は分かる。
ドンッ!!
本当にバレーボールを打ち上げたのか分からないような音だったが、それでも上げられた。
「二階堂さん!! お願いします。」
「は~い、頑張るよ!!」
ボールは期待していたところまでは届かなかったが、彼女にとっては許容県内位であったらしく、軽いステップを取りながら、トスを上げる。
……本当にうまいな。
声からそう漏れてしまうほどにすごく繊細なボールタッチだった。初心者から見ても、そう思えるのだから、彼女の作戦は間違ってなかったのだろう。
これならいける。
過去に見ていた有名であろうバレー選手のように勢いを付けた助走から足にバネでもつけているかのように飛ぶ。この瞬間だけは、砂浜であることを忘れさせてくれるほど、高くジャンプできたと思う。だが、それでも...
パン!!
「No、No。だめデ~ス。ここから先は通しまセ~ン!!」
僕よりも一回りも大きいブロックによって阻まれてしまった。
これでも、ダメなのか!
~~~
「…ダメか。なかなか上手く決まらないな。」
雄二君がサーブミスをしたようでこっちの番がやっと回ってきた。
「連君、頼んだよ!」
任された、と言えるほどの自信はなく、ただ軽く首を縦に振る。
先ほどまでは打ち返すだけでよかったが、今回はそれよりも難易度が上がったサーブだ。なら、ここは堅実にいくか。
ボールをあげて、打つ。可もなく不可もない普通のサーブだ。これならコートには入る。でも...
「と〜りゃぁ!!」
やっぱり簡単に上げられてしまう。そして、
「パワフルハイパースーパートルネードミラクルハピネススパイクね。」
「うっ...」
簡単に返されてしまった。
ここまで力の差があると、ある意味笑えてくる。
「…大丈夫? やっぱり私もレシーブに入ろうか?」
「……いえ、大丈夫です。引き続き、この作戦のままいきましょう。」
…ダメだ。また諦めるな。たかが25点中の3点取られだけだ。まだまだこれから。
自分へと言い聞かせるように言った言葉は折れかかった心をギリギリのところで繋ぎとめる。
「Oh、次は私デス!!」
声高らかに笑い走り出す彼女。しかし。走る方向はコートとは逆向きであり、10mほど離れたところでこちらへと振り返る。
「じゃ〜いくネ!」
ボールは太陽の光で見えなくなるほどの高さまで打ち上げられ、視線の端では全力で走り出す彼女の姿が見える。そして
飛び上がり、ボールが来...「グハッ!!」
一瞬、何が起こったか分からなかった。ボールはちょうど目の前を通る軌道であり、それほど難しくなく返せると思った。
それでも、ボールを返すことはできず、それどころか、ボールのパワーを打ち消せないまま後ろへと1回転して砂浜へと顔面着地した。
…………スピードも、テクニックも、パワーも勝てないでどうすればいいんだ。
「大丈夫デスか~?}
「大丈夫か、連?」
僕の飛びっぷりに心配したのか雄二君たちが駆け寄ってきた。派手には飛んでいたが、地面は砂浜だったこともあり、実際はそれほど痛みなどなく、身体を打ったことでけがをしたことはなさそうだった。
……だが一つだけ言わせていただけるのであれば、先ほどの重いボールを打ち返そうとした腕がいまだにじんじんしていることくらいだろうか。
「いや、大丈夫ですよ見た目ほどの痛みもありませんし。」
「…そうですか。それはよかったデス。」
「そうだな。やっぱり遊びでけがをするというのは良くないからな。」
…………えっ、今遊びって言ったのか?
「そうデスネ。本気の試合でもないのにケガするのはNoデスヨ~。」
「でも、やっぱり、スポーツはいいデスネ!」
「フフッ、そうだな。ビーチバレーとは初めてやったが、存外悪くないものだな。」
「Yes!! やっぱりいろんなスポーツにChallengeしてみるものデス!!」
…………初めて、か。
こんなに点数の差が開いていて、相手は初めてこのスポーツをやったと言うのか。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………っは。
「あはは!!」
自分でもなぜかは分からなかったが、口からたまらなく、笑い声が出てしまった。
そうか。そうなのか..........いや、そうだったのだ。当たり前のことだったのになぜ忘れていたのだろう。
彼らは天才だ。それもスポーツの天才なのだ。そして、横にいる彼女だってそうだ。スポーツの天才ではないが、間違いなく彼女も天才である。
――それに比べて僕はどうなのだろう?
バレーボールくらいなら以前もやったことがあった。でも、別に得意だったわけでも、才能があったわけでもないし、運動神経だってそこそこだ。ましてや、才能と呼べるような能力を身に付けるほどの練習をしていたわけもない。
そんな僕がどうして彼らみたいな天才に勝てると思ったのだろう。
彼らがスポーツの才能を持っていたとしても、違うスポーツなら勝てると思ったのだろうか。
自分の得意分野以外なら僕みたいな普通の高校生だと思っていたのだろうか。はたまた......
「…そうですね。遊びましょうか。楽しく...」
……… そうだ。そうなんだ。彼らが言ってた通り、これは遊びなのだ。本気でやるようなものではなく、ただの遊びなのだから楽しくやればいいのだ。
だから、別に本気でやらなくてもいいのだ。そっちの方が楽で、そして楽しくて良いではないか......
「そうだな。こういうのは、やっぱり楽しまないとな。」
「Yes !! 盛り上がってきたネ!!」
楽しそうに自分のコートへと戻る2人の姿を見る。
彼らには悪気などなく、純真に楽しんでいるだけなのだろう。でも...
「いや、だめだ。楽しく遊ばないとな.....」
「……」
……これが終わったら、やっぱり伝えよう伝えるべきなんだ、音無さんに。そして...
〜〜〜
「終了!! 勝者雄二・ミラチーム!!」
結局試合は25対21で負けてしまった。点数だけで言えば、大分善戦したようにも見える。だが、実際は相手側がサーブを外したり、レシーブでボールを吹っ飛ばしてしまったりと相手側のミスがほとんどであり、自分たちの実力で取った点数などなかった。
「惜しかったね。点数だけだったらいい感じなんだけどね。」
「そうですね...でも、楽しかったですし、よかったですよ。」
「そう...ならいいけど。」
そうさ、実際楽しかったし、よかったじゃないか。楽で、楽しくて、それでよかったじゃないか。何も気にすることなんかないじゃないか。いったい何をそんなに本気で......
「お〜楽しそうなことしてるね。僕もちょっと交ぜてほしいなぁ。」
「……私もやってみたいかな。)
「いいじゃん。ちょうど今日の練習考えてたところだし、今日はビーチバレーってことで...いい練習相手もいるしね。」
後ろから聞こえる3人の声。
ここ最近よく聞いていた声。
楽しそうに笑う声。
静かに、でも力強く言う声。
そして、どこか怒ったような声。
そんな聞き馴染んだ声に何かを期待してしまう僕がいた。
「それじゃ、第二ラウンドと行きますか。」
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