第29話 「ボウリング」と書いて「才能」と読む③
「あなたって、優ですか?」
「うん? どう言うこと?」
「あんた、何言ってんの?」
「……大丈夫?」
見事に三者三様の言い方で心配をされた。
まぁ、そうなるなとは思ったが、全員が全員憐れむような目で見てくるのには辛いものがある。
「いや、違うんですよ! 違くないですけど、違うんです!!」
言い訳じみたそんな叫びに疑いの目が強くなる。
「え〜、今日の僕ってどこか変だった?」
それでも、優はどこか心配そうに尋ねてきた。
「どこかとか、何が変と言うのは……僕には分からないですけど...」
「いや、全然気にしないでください!! 僕の間違いかもしれないので。」
「え〜でも、何か違和感があったから聞いたんじゃないの?」
……まぁ、それはそうなのだが.......
「…その、…ちょっとボウリングの投げ方が違ったからです...かね。」
「そうだったかな?」」
「その〜少しだけ、投げる時がカコーンって感じだったのが、ガコーンって感じでしたし。」
「あ〜言われてみればそうだったかもね。」
えっ!? 今ので音無さん分かったのは凄すぎないか。
「…へ〜、そうなんだ。投げ方が違ってたのか。」
「全然気づかなかったな、私」
……うん?
「うん、そうだね。佐藤連君の大正解だよ。」
……と言うことは......
「私は二階堂優樹ではなく、その姉の
やっぱりか!! 良かった本当に良かった。急にやばいこと言ういかれたやつにならなくて。
「お姉さんと言うことは先輩さんですか?」
「ううん、違うよ、優樹とは双子だから、君たちと同い年だよ。」
なるほど。言われてもきっかないくらいに似ているなとは思ったが、双子だったとは。でも、男女でこんなに似ているのも珍しいな。
「そう言えば、優は?」
「あ〜、それじゃ今日は優っていない感じですか?」
「ううん。優もいるよ。途中で変わっただけだからね。」
「バレちゃったことだし、今から呼ぼうか。」
どこからかスマホを取り出すと、、慣れた手つきで誰かに電話を掛けた。
「もしもし、優。今からこっち来れる。」
「うん。そう、バレた。」
「じゃ、とりあえず私の勝ちってことで……えっ、負けなの?」
「まぁ、いいや。とりあえず来てね。よろしく。」
「うん、これでオーケー。多分もうちょいでくるよ。」
中々に一方的な電話だったが良かったのだろうか?
「いや〜まさかバレちゃうなんてね〜。結構隠せてたと思ったんだけど。」
「普通こんなの分からないって。言われてから少し声が違うかもって思うくらいだし。」
「……うん。私も身体の使い方が最初と違うような気がしたことくらいしか分からなかった。」
みんなも気づくきっかけのようなものは見つけていたみたいだが……それに手も注視しているところがみんな独特だな。
「うんうん。やっぱりそうだよね。分からないはずなんだよね。でも、......」
「…君はすごいね。馬鹿みたいで突拍子がないことでも本気で言っちゃうんだしね。」
………うん? もしかして、今貶された?
「君はすごいね。馬鹿みたいで突拍子がないことでも本気で言っちゃうんだしね。」
「いや、2回言わなくても、聞こえてますよ。」
「何だ、聞こえてないのかと思った。」
「聞こえてはいたんですけど.......理解が追いつかなくて。」
何であの場で貶されたのかは分からないが...いや、もしかして褒めていたのか!? だとしたら、まぁ............しょうがないか。
「それにしても何で入れ替わりなんてことやっていたわけ?」
「あぁ〜、それはね...優が来てからのお楽しみということで!」
気になってしまってどうしても聞き出したいのか何度も音無さんが尋ねていたが、二階堂さんも優を待つの一点張りで両者譲ることなく、時間が過ぎていった。結局、音無さんが根負けしたのか、話題を変えて他の気になっていたことを聞いた。
「じゃ〜えっと、二階堂さんだっけ。二階堂さんは優と性別は違うわけだけど、めっちゃ似てるじゃん。」
「それって二人が寄せてるの? それとも素でそれなの?」
「う〜ん、多少はメイクしたけど、ほとんどは素でこれかな。」
「元々、生まれた頃から瓜二つだったし、成長してってもあんまり変わらなかったしね。」
へぇ〜そうなのか。確か、遺伝子的に一緒な一卵性双生児だと同じ顔になったりすることがあるが、遺伝子的に一緒なのだから性別も一緒になるのが道理である。
ということは、......優は女ってこか?…………………………違うか。
多分だが、二卵性双生児で半分の遺伝子だけ一緒で性別とかの遺伝子が異なったのだろう。人間とは不思議だ。
「それにしても優たち遅いな。」
「電話に出てすぐ来れる方がおかしいですって。」
「そういうものかな? 普段の優ならすぐにくるんだけどな。」
それは優を雑に扱い過ぎじゃないか! いや、そうじゃなくってそれよりも.....
「今、優たちって言いませんでした!?」
「うん。言ったけど......」
「それって優以外にもいるってことですか!?」
「うん、そうだよ。何か問題でもあった?」
いや、大アリでしょ!! 何で他の人がいるの!? というか、誰!?
「えっ、マジ? それって誰?」
「う〜んとね。あ! ちょうど来たから見てみてよ。こっちこっち。」
彼女が指差す先には優らしき人物を先頭にして、その跡を男性が2人と女性が1人歩いている。
「一体、どないしたん、美樹ちゃん。急に着いてきてだけ言うて歩き出すから、うち全然分からんのやけど。」
「そうだよ、美樹さん。こちらも目的を知らないと、どうすればいいか分からないし。今回このメンバーを集めたのも何か考えあってのことだろう。勇翔だって理解できないで固まってしまったよ。」
「………いや、すまない。前に美樹さんが2人いるように見えてしまって。」
「そないアホなことないに決まっ...いや、ホンマや!! 美樹ちゃん。2人おるで!!」
「…これは驚いた。美樹さんが2人いるのか。……なるほど。何となくだが、やりたいことがわかった気がするな。」
近づいてみると、さらに驚きだが、男たちの方は2人とも裕に180cmを超えるという巨体である。一方、女性の方はその年代の平均なのだろうが、2人に挟まれているからか、過去にどこかでみた宇宙人を連れて歩く写真のように見える。それに...
「…それで。この状況について話してくれるかい、美樹さん。…と言っても、俺らが知ってる美樹さんはそっちの美樹さんなのだろうけど。」
「あ〜すごいね! 雄二君も分かったんだ。おめでとう。」
「…ふふっ。まさか、俺が女性と男性を見間違えるなんてな。」
彼らの中にも入れ替わりについて気づいた人がいるのか。
「はい!! ということで今回の勝負は………………………………私の勝ち!!」
「いや、違うよね!! そういう勝負じゃなかったじゃん。」
「しかも、それなら僕らのグループの勝ちだし、それ以前に勝負じゃなかったよね!?」
「はいはい。分かった分かった。そんなに負け惜しみしてても結果は変わらないよ。
「だから、違うって......!!」
お〜すごいな!
言い合いをしている2人の姿を側から見ても、思考を止めたら、どちらがどちらか分からなくなってしまう。
それほどまでに似ているのであるから、優だけでなく、美樹さんにもコスプレに近い才能があるのだろうか。
「まずは、本題へ入る前に謝罪をさせていただきますね。今回は僕らの賭けに巻き込んでしまい、ごめんなさい。」
「うん!! よく謝れた。えらいぞ、弟。!」
「やめてよ、おね・・・って、違う! 話の途中だから、邪魔しないで!」
謝罪の時間だったのだろうが、そんなことはどうでも良くなってしまうほどに雰囲気が和んでしまう。
「…それで、本題なんですけど、今回僕たちはあることで賭けをしてたんですね。」
「……で、その賭けのために入れ替わりが起こってたというわけなんです。」
なるほど。
要するに、優が美樹さんに頼み事をしようとしたら、『勝負に勝ったらいいだろう』と言われ、今回のことが行われたわけだ。
そして、優が得意であるコスプレで美樹さんに扮してあちらのメンバーにバレず、こちらの誰かが美樹さんの正体に気づければ、優の勝ちという勝負だったらしい。
…でも、それだと1つ分からないことがある。
「…なら一体、何を賭けの対象にしたんだい?」
……
向こうにいる男の1人が僕も気になっていた疑問を尋ねる。
「うん。今回の賭けの対象とは.....」
「…私たちと遊ぶこと、でした。」
……うん?
「…ちなみに、私が勝っていれば、優に一週間、掃除、洗濯、家事に片付け、何でもやってくれる予定でした。う〜ん、残念!」
「何でもって!? そこまでは言ってなかったでしょ!」
「あはは、ごめんごめん。」
「…まぁ、そういうことだから、一緒に遊ぼうか。」
「「「「「「えっ?」」」」」」
知らない人同士でもこんなに意識が揃うことってあるんだな...
「…そうか。美樹さんが言うならしょうがない。そちらも問題がなければ、一緒に遊ぶというのもありなのではないか?」
「……そうね。優にも考えはあるんだろうし、勝ってもらえたものなら、もらっとくべきだしね。」
「そうやね。もらっとけるもんはもらっとくべきや。」
ほかのみんなも首を縦に振り、了承のサインを出している。
「うん!! みんな良いみたいだし、遊ぼうか。」
「じゃ、改めて……」
「才栄学園1年ピアニストの才の二階堂美樹です。」
…………
「えっ!? 才栄学園って......」
「あれ? 言ってなかったけ?」
「私たちって才栄学園の生徒だよ。」
「「えっ!!」」
…………
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