第28話 「ボウリング」と書いて「才能」と読む②
よし、今なら行けそうか。
「すいません、金剛さん。ボウリングのコツ教えていただけないでしょうか。」
すいません、音無さん。やっぱり無理です。
さっき言われた通りに投げようとしたら、手首がギューンってなって、身体が地面にカーンってなったので多分僕には向いてない投げ方なのだろう。
もしかしたら、これは音無さんの教え方云々と言うよりも、僕が単純に才能がないということもあるので、そう言う意味でも金剛さんに聞きに来たのだ。
「…私に? …その、初めてだからあまりみんなほど上手くないとは思うけど。」
「……それに、説明するのも得意じゃないし。」
「そんなことないですよ。さっきのゲームだって2位だったじゃないですか。」
「それに、もし試験の内容がボウリングに関することだったらチームのためにも一番下手な僕に教えておくのは悪くないと思いますよ。」
「人との会話の練習にもなりますし。」
「……そうだね。頑張ってみる。」
小さくガッツポーズをする彼女からかすかなやる気が感じられる。ろれも、彼女なりに仲間のことや自分のことを考えて、頑張ろうとしているのだろう。
「…でも、どうしようか? ボウリングは初めてだったから、特に何も考えずに全力でやってただけだったから...」
「そうですね…でしたら、見本を見せていただきながら教えてもらうことって可能ですか? 言葉だけで理解できなかったことはフォームとかを見ながら補えますし。」
「……うん。それならできるかも、」
少しの間を置いてから、了承の言葉をもらい、自分のレーンへと移動する彼女の姿を見る。
「…私は細かいところまで考えられないから、何かやる時には出来るだけシンプルにしているの。」
「…今回の場合だと、真っ直ぐに投げて、一番前のピンに当てるって言う2つだけを意識した。」
そう言うと彼女はボールを持った腕を大きく振り上げ、
「…だから、指先から肩までを真っ直ぐにして、ボールと肩、レーン内にあるラインが一直線になるようにして」
ボォン
「…力一杯に投げれば、ストライクが取れる。」
いやいやいや!! 今の音、ボウリングで出る音じゃないですって、!! 何でボールの風切り音で大砲から発射される時みたいな爆発音が聞こえるんですか!!
「…あと、強いて言えばモニターに写っている球速を上げることかな。」
「…前に授業で習ったんだけどね。力って言うのは質量と速さに比例するらしいの。」
「…だから、重いボールを持って、速いスピードで投げれば簡単に倒れるようになる。」
「……どう、できそう?」
…うん、無理。絶対、無理。
あれは正直、パワーがあるから、ピンを飛ばせて、ストライクが取れるものだから、普通の人が真似してもあんなに上手くはできないと思う。
「そ、そうですね。説明自体はすごくうまかったのですが、…僕にはちょっと真似できないかな、なんて。」
「…でも、まぁ、とりあえずやってみますね。」
そうだ。何にしても、とりあえずやってみなければ。そうして初めて分かふことだってあるはずだし。
ならまずは、金剛さんが持っているのと同じ球で投げてみるか。
ゴン!!
重ッ! 何だこれ?
勢いよく持ち上げようとしたボールは床から少し上がったところで、重力に逆らいきれずに戻っていた。
いや、重すぎでしょ!
さっきは油断しててボールを落としたものだと思ったが、今持っても両手を使わないときついくらいには普通に重い。
しかも、それを片腕で振ろうとするのは不可能だ。腕がちぎれるぞ!
「…どこか難しいところとか合った?」
「難しいと言うか、不可能と言うか……やっぱり僕には少し合わなそうです......」
「……そうか、残念。」
少し残念がりながらも、レーンへと戻り、練習を再開した。
…お〜また、ストライク。あのボールを綺麗に振り上げられるのは体の使い方か。筋力によるものか。......本当にどうなっているんだ?
「ふぅ〜体力全回復。」
「あ、おかえり、優。」
「…うん、ただいま!」
…………
「お、優やっと戻ってきた。なら、さっきのリベンジさせてくんない? 次は負けないから。」
「うん、いいよ。一位の座はまだ渡さないけどね。」
「…私も次は負けない。」
お〜みんな、すごくやる気みたいだな。……なら、ここはとりあえずゲームに集中しよう。負けてるばっかも嫌だしな。
「よし、なら私から行くよ。」
いつの間にか表示された画面の中にはスコアボードに『次の投者 音無 杏奈』とでかでか書かれている。
そして、どこか張り切った様子の彼女は待ちきれんとばかりに大きく腕を振り上げ、勢いよく投げた。
カコーン!!
戦いの火蓋が斬られたかのように響いた甲高い音と共に、画面には幸先の良さを表すポップな絵が表示された。
〜〜〜
ふぅ〜こんなもんか。
疲れた身体をソファに沈み込ませながら、ぼんやりと表示されているスコアボードを見る。
結局、最初の1ゲームを含め、合計で10ゲーム近くまでやった。
練習も含めればもっと投げているのだから、それを考えると妥当な疲労感なのかもしれない。
そして、肝心の結果は……圧倒的な最下位だった。
うん。完敗だったね。有無を言わさぬ完敗だった。
何やかんややっていくうちに少しずつではあるが、コツを掴んでいき、平均で8ピンは倒せるようにはなってきた。
だが、それでも勝てなかった。みんなストライクやスペアをポンポンと出すから、点数が離されることしかなかった。
一方で、残りの3人の戦いは僅差で、ゲームをするたびに順位は変わり、今もそれぞれの間には数点の差しかない。
それに、彼女たちの顔には疲れの色など一切見えず、むしろ早く次のゲームがやりたくてワクワクしているようにさえ見える。
…………
「どうしたの? 疲れてそうな顔してるね、連君。」
「…このくらいやれば、当然のように疲れますよ。」
「…ハハ、だらしないな、連は。」
そう言って、僕の横にちょこんと座る優に普段以上のナニかを感じてしまう。ナニかは言わないけど、ナニとは。
…………
「それにしても、連ってば全然ダメダメだな。」
「いや。これでも上手く放っているんですよ、少しは。」
「ハイハイ。分かった分かった。」
「…全然、信用してないじゃないですか。」
「それなら、次のゲームでしっかりと出来るって姿みしてく見してくれよ。」
「え〜、まだやるんですか。」
「いいから、早く。」
そう言って、僕の手を掴み、立ち上がらせようとする優。
その姿を見て改めて思う。
…………やっぱり。
「……すいません!」
「うん!?…何?」
想像以上に響いた僕の声に優だけでなく、音無さんや金剛さんまでもが振り返る。
「あなたって、優ですか?」
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