第24話 「カラオケ」と書いて「トリプルブッキング」と読む①

「Let’s Go Let’s Go ワンマンチーム。」

「はぁな〜ふっぶうき〜」

「目指せアイドルNo.1 yeah」


 ――すごい。

 ただ、その一言に尽きる。


 テレビ画面には98点、93点、95点と彼女たちの歌の評価に対する得点が表示される。

 素人目で見ても、彼女たちの歌声が普通のそれとはかけ離れているのがわかる。


 そして、今のこの状況もすごい。

 一見すると、僕らは4人で仲良くカラオケに来ているようにも見える。

 しかし、実際は......


「ふぅ、…今回結構いい感じだったんしゃない?」

「……こんな感じなら大丈夫かな?」

「イェーイ、乗ってるか?」


 別々の部屋に彼女たちがおり、各々が好きな曲を歌っている。そして、僕は......


「あれ、あいつまたどっか行った?」

「……佐藤君、飲み物好きなんだな。」

「…って、連のやつ、またトイレか?…体調、悪いんかな?」


「……次は、どの部屋に行けばいいんだ!?」


 それぞれの部屋に入れ替わり立ち替わりしているという摩訶不思議な状況である。


…一体、何でこうなったしまったんだ!?


◆◆◆


「…やっぱり、私。君たちとチームを組めない。」


 衝撃の発言をしたのは音無さんたちと別れてからしばらくして始めた最初の会話の時だった。


「……まっ、待ってください!! 急にどうしたんですか?」 

「何が気になることあったなら、言っていただければ、改善しますし」。

「…いや、そうじゃないの。」

「……うん?」


「…その、.....'私って......」


 ゴクッ


 彼女の次の言葉に息を吞む。

 顔合わせ前までは特別嫌という様子ではなかった。

 なら、何が原因なのだろう?

 チームメンバーのことか。

 チームの雰囲気のことか。

 それとも方針のことか。


 何なのか断言はできないが、正直言うと、さっきの優の自己紹介のことが彼女に結構効いていたのかもしれないと思っている。


「.....ュ、......ょで....」

「…………うん?」

「…………コミュ障なんです。」


 えっ!?

 …何だか今、聞き覚えのある言葉が。


「え、え〜と………そうか!。そうですよね。」

「…僕みたいな話せないやつがいるのは 嫌ですよね。」


「……違う、嫌いとかじゃなくて私が話せないだけ。」


 …やっぱりそうなのか。


 …金剛さんのことは自分から誘った手前、不満がないかと内心すごく心配していた。

 しかじ、返ってきた言葉は想像より斜め上のもので、いまだに理解が追いつかないでいる。


「……私の家って剣道一家で『語り合うなら口より刀で』って言う家訓があるのね。」

「…今までそれを信じて生きてきたから、他の人よりも剣道は上手くなったんだけど...」

「いまだに人との会話の仕方がわからないの。」


 彼女からの告白ではっきりと分かった。・・・彼女はあちら側ではなく、本当に


 ――こちら側の人間なのだと言うことに。


「……だから、バイトを始めて、佐藤君みたいに話せる相手もできて、最近は結構自信もついてきたと思ったんだけど......」

「音無さんたちと会ってやっぱりまだダメなんだなって思ったの。」


「いや、そんなことは......」


「大丈夫。…気にしないでいい」。

「今日だって自分から話そうと思っても話せなかったし、自己紹介の時だって何を話せばいいかわからずに空回りしちゃったし。」

「…自分のことだから、自分が一番分かってるよ。」


「………昔も似たようにチームを組んだことがあったけど、まともなコミュニケーションが取れなかったし、自分の意見も言えずに......結局チームはバラバラになって結果も残せなかった。」


 淡々と語る彼女は普段のようであったものの、どこか後悔を滲ませた表情だった。

 そんな表情をさせてまで無理強いする権利など僕にはないと思う。だからこそ、


「それ、僕に手伝わせてくれませんか?」


「えっ......」


 彼女の深意を聞き、心の底から悩みを理解してしまったからこそ、聞くだけ聞いて何もしないでいるということができなかった。



「…いや、大丈夫。これは私のことだから...」

「それでも、手伝わせてください。」


「………僕に良い案がありますから。」


◆◆◆


 そこで考えた案がカラオケ点に行くということだった。


 何をやるにしても、特訓をして、挑戦をして、壁にあたれば自分に足りないものを見つけ、また特訓をする。成功すれば自信になる。


 その繰り返しで人は成長する。


 似たような悩みを持つ僕からすると、彼女が持つ悩みの根本的な所は人と関わることが少なかったという所だと思う。


 人と関わる機会が少なければ、単純に話す機会も減り、自分がなぜ話せないのかも知ることができない。

 だから、特訓の仕方もわからず、成長もできない。


 なら、やることは一つ。


 4人で遊ぶ本番に向けて練習をして、自信を付けるだけだ。


 彼女にもその旨を伝えたら、喜んで了承してくれて、当日を待つだけだったのだ。


 そう。ここまでは良かったのだ。良かったのだが......


「イェーイ!! ノッてるか!!」

「い、いぇーい......」


 閉ざされた空間に1人の男と1人の男?の声が響く第一の。


 そう。1人目のイレギュラーである優がいる個室に今は来ている。

 とは言っても、今回のことに関して優が悪いなんてことはない。


 ……だって、誘ったのは僕からだったもん。

 だが、誤解しないで欲しい!!


 僕がいきなり女子と1対1で遊べるだろうか? 答えは否だ。

 だからこそ、僕にも練習をしてから、本番に挑むというサイクルが必要なのだ。


 それで、ほとんど女子である優に頼み込んだんだ。

 ……まぁ、少し。予定の日をミスって金剛さんと遊ぶ日にしちゃったけど、それ以外は完璧だったんだ!!


 一応、間違いには少し前から気づいてはいたのだが、

 学校で話しかけてくる度、楽しそうにその話をする姿を見て、約束を無下にすることはできなかった。


 ………うん、しょうがない。ここは、逆に考えて、練習と本番が同時にできることを喜ぼう。


 そう思い、ウキウキしながら約束より1時間早く着いたら、偶然暇を持て余した音無さんに会い、連行されてトリプルブッキングになったというわけだ。

 

 うん。普通に音無さんの時は逆らえなかった。無理だね。あの迫力に勝てることはないだろう。


 そして、今に至るというわけだが......マジでどうしよう。

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