第23話 「みんな」と書いて「チーム」と読む②
「本当にごめんね、待たせちゃって。」
「いや、本当に待たせすぎだから!!」
周りの雰囲気を気にした様子もなく、笑い続ける彼じ......彼は二階堂優樹。僕の数少ない友人だ。そして、今回の最悪な空気を生み出した張本人でもある。
「じゃ、これから第一回編入試験作戦会議を始め......」
「いっ、いや、ちょっと待ってください!!」
「うん? どうした? また、話し合い遅らせる気?」
やっぱりさっきの件でのイライラがまだ残ってるらしく、語気がいつも以上に強い。というか、怖い。
「まぁまあ、二人ともそんな怒らないで。」
「「いや、優のせいだよ!」」
「あはは、ごめんね。」
悪びれた様子もない姿を見て、怒るのを諦めたのか音無さんは話を戻した。
「…とりあえず、これでメンバーは決定だから、それぞれ自己紹介でもしてこうか。」
えっ!! いきなり自己紹介!? 僕みたいな人間にそれはつらいぞ!
「まずは言い出しっぺの私からね。名前は音無杏里。好き......得意なことは音楽関係で、結構ガチでやっていくからよろしく。」
おぉ~すごい。やっぱり音無さんだからか自己紹介慣れしているな...いや、自己紹介慣れってなんだ!?
「はいはい!! 次は僕ね。5月26日生まれの双子座で、名前は二階堂優樹って言います!!血液型はA型で、体重はヒ・ミ・ツ。あと、運動は得意な方で体力テストでA以外取ったことがありません!! それと、こう見えて男の子です!! よろしくお願いします!!」
こっちもやっぱりすごいな。
改めて、優が僕とは違う人種なのだと思ってしまう。そして、何よりも......
この状況で次をやりたくない!!
僕らみたいな人間にとって自己紹介とは苦行であり、前の人達の話し方をベースにして行う事である。
だ からこそ、今重要となるのは席順的に次話す金剛さんが元のテンプレートに戻してくれる事だ!!
「………」
「………」
「………」
「………」
無言でこっちを見ないで!!
いや、正直この流れでやるのはほとんどの人が嫌だと思う。でも、それは僕も同じで、性格を考慮すれば、普通の人以上にそれを強く感じている。
……でも、待てよ。この場で僕以外が初対面の金剛 さんに話をさせるのは中々に酷なことじゃないか。…そうなると、しょうがない。ここは男として僕がやるべきか。
覚悟を決め、深呼吸をしながら前を見据える。無言の圧を身体に感じ、固い口を開こうとした瞬間、隣から僕と同じく覚悟を決めたような彼女の声が響いた。
「はい!! 次は私です。3月8日生まれの魚座で、名前は金剛紗夜と言います!!血液型はAB型の、体重はヒ・ミ・ツです。あと、運動は得意な方で体力テストで10以外取ったことがありませんし、剣道なら普通の人よりも自信があります。!! それと、こう見えて女の子です。よろしくお願いします。」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「はい、3月8日生まれの魚座で……」
「大丈夫! もう聞こえてるから。」
「…………よろしくお願いいたします。」
…いや、そっちでいくのかい!!
などと、ツッコミをしたくなったが、ここは彼女の勇気を賞賛するほかない。
残りの2人も彼女の姿を意外そうな目で見ている。それは僕も同じでバイトをしている時のようなクールで淡々としゃべるような話し方よりもこっちが素なのだろうか?
…とりあえず今は、普通の人にはできないようなことをやり遂げた彼女のためにもそっとしておいておこう。先ほどから横で少し顔を伏せながらプルプルと震えている彼女のためにも。そして、そんな人に対して話す言葉を持ってないコミュ力0の僕のためにも。
「…じゃ、次あんたね。」
「はい。」
とうとう、僕の番が来てしまったか。
金剛さんの頑張りにより作られたテンプレ。
ここまで来たならやるしかない。
覚悟を決めろ、佐藤蓮!!
「…名前は佐藤蓮と申します。特技はどんなことでも人並みにはできるとこです。よろしくお願いします。」
「……」
「…あっ、うん。」
「…うん、よかったよ。」
いや、そんな期待外れだったな〜みたいな表情をしないで!!
あと、金剛さんには本当にごめんだけど、怒りと哀れみとその他いろんな感情を詰め込んでこっちを見ないで!! 本当にごめんなさいですけど!!
1人からは無言の圧を向けられ、残りの2人からは苦笑いが送られた。
僕にとっては最悪の形でこれから長い付き合いとなるチームの結成がされた。
そして、この日の自己紹介がこれまでの人生史上最悪の自己紹介の記憶としての句の心の中で深く刻まれた。
~~~
「じゃ、自己紹介も終わったことだし、これからどうしようか?」
「どうしようかってどういうことですか!?」
「いやさ〜、結局分かってるのって体を動かす可能性が高いってだけで何をすれば良いのかも分かってないじゃん。」
「そうだね。練習をしようにも何もわからないんじゃ、意味がないよね。……とりあえず、カラオケでも行く?」
「いや!! 分からなかったとしても方針は決めるべきです。」
「…そう? まぁいいか。」
いや〜危なかった。ちゃっかり優がカラオケとか言い出すからびっくりしたな。
これでカラオケ行くことになっていたら、本当にやばかったぞ、僕が。
カラオケには今まで行ったことは無いが、アニソンしか歌えず、歌も大して上手くないという最悪で一番起こりそうな状況が想像でき、鳥肌が立ってしまう。
「まぁ、それもそうね。何もやらないってのはないし。方針みたくこれを鍛えるっていうのは決めとくか。」
「なら、やっぱりガンガン行こうぜ、じゃない。」
「…いや、それよりも命を大切にの方が。」
「方針ってそういうことじゃないですよね。もっと具体的なものでお願いしますよ。例えば、走力とか、体力とか。」
「じゃ、MP。」
「だから、そういうことじゃないんですよ!!」
やばい、全然話が進まない。本当にこんな状態でチームになれるのか?
「はい、はい。静かに。」
騒がしかった空間も彼女の一声で静寂を取り戻す。
「結局今から、練習してもやれることなんて限られてるじゃん。」
「なら、基礎固めなんかよりも、一芸特化でやった方がいいと思うんだよね。」
一芸特化か。......つまり、長所を伸ばせってことか。
「あ〜、それはいいかもね。僕たちってさ、他に比べてスタートが遅いからさ、普通通りにやってもいい結果出せなさそうだしね。」
「…それに。うちには剣道がすごい人だっているんだから、その個性を活かしたいよね。」
「………うん、頑張る。」
「じゃ、決まりだね。私たちのチームはそれぞれの長所を活かして勝つってことで。」
「……」
あぁ、そうか。
賛成や了解などとみんなが賛同の意を示す中、僕一人だけが何も反応できずにいた。
話が理解できなかったわけでも、自分の意見を言うのが苦手というわけでもない。ましてや、音無さんの意見に対して反対の気持ちを持っているわけでもない。
ただ、1つの疑問を持ってしまったのだ。
――僕が持つ一番強いものとは何なのだろうか?
これまでの人生で幾度となく問われたこの問い。
しかし、いまだにこの問いの答えを出すことはできていない。
自分には何ができて、何ができないのか?
自分は何が好きで、何が嫌いなのか?
自分は何が得意で、何が苦手なのか?
自分にはあって、他の人にはないものは何なのか?
自分を知ろうとして考えれば考えるほど、自分のことがわからなくなっていく。それはもう本当に......
「ねぇ、聞いてんの?」
「…えっ? …あっ、はい......」
思考の沼に陥り掛けたが、意識の外側から掛けられた声によって現実へと戻された。
……とりあえず今はみんなの話を聞くことにしよう。
けれども、ほとんどの話を聞いていなかった僕は微妙な反応しかできず、その後の会話も耳に入ってこなかった。
◇◇◇
「じゃ、今日はお開きってことで。また、来週ね〜。」」
「………じゃ、また。」
「しっかり2人ともまっすぐ帰るんだよ〜。油断していると僕みたいに迷子になっちゃうよ〜。」
「………ここ僕たちのバイト先ですから、心配しなくても大丈夫ですよ。お二人も気をつけて。」
…というか、遅れてきた理由って迷子かよ!!
誰も何も言わないから、触れちゃいけないことかと思ってしまった。
結局、最後の最後まで話に集中することができなかった。
…覚えていることとい言えば、再来週辺りに進捗報告と団結力を高めることを目的にどこかへ遊びに行こうということになったくらいだ。
…あと、その時に音無さんがカラオケに行きたいと言っていたくらいが.......
うん、やばい。普通にやばいね。
あの時の自分に戻れるのならば、必死に止めていたのに。本当に何であの時にしっかりと話を聞いて、意見を出さなかったのだろうか。
一応、(手作り)高校で友達を作る1000の方法で予習はしているが、曲のセンスなんかは人によって変わるし、相対的に自分の歌が上手いのかも分からない。
…長所のことに、カラオケのこと、考えれば考えるほどに生じる問題。
一体、これからどうすればいいのだろうか?
「…ねぇ、佐藤君。」
「はい!? ど、どうかしましたか?」
急な金剛さんからの呼びかけに上擦った声を出してしまった。
それにしても、金剛さんから話しかけてくるなんて珍しいな。一体何があったのだろ...
「……やっぱり、私。君たちとチームを組めない。」
「…………………えっ?」
やばい。新たに問題が一つ増えたかもしれない。
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