第22話 「みんな」と書いて「チーム」と読む①
とある休日
現在、僕たちは某有名ファミレス店の一角にいた。と言うか、僕と金剛さんのアルバイト先であるファミリーレストランの一角にいる。
普段の休日なら昼間ともなれば、騒がしさに包まれる店内と忙しなく動き回る従業員が印象的である。
しかし、今、この瞬間とこの空間だけで言えば、そうではない。
「………」
「………」
「………」
音無さんは無言のまま机を指で叩き、
金剛さんは無言のまま次々と来る料理を食べ続け、
僕は無言のまま何もしないでいる。と言うよりも周りの圧に何もできないでいた。
時間が1秒また1秒と過ぎていくたびに、ここの空間だけが1度ずつ下がっていく錯覚さえ感じてしまうほどの圧。
そんな最悪の雰囲気に包まれ、僕こと佐藤蓮はただ一つ思う。
なぜ、こうなってしまったのだろうか......
◆◆◆
遡ること、数日前。金剛さんを誘った日のことだった。
その日の夜、音無さんに金剛さんのことを伝えようと、連絡をしていた、
「もしもし…って、あんたか。」
「すいません、夜遅くに電話なんて。今、時間大丈夫ですか?」
「うん、別にいいけど。何があった?」
「はい。この前言っていたメンバー探しの件で1人見つかりましたよ。」
「うわっマジで!! それってどんなやつ?」
「えっと、剣道部の方なんですけど、全国大会で準優勝したことがあって、今は白藤ヶ峰女学院にいるらしいんですよ。」
「えっ!? めっちゃすごいじゃん!! ってか、なんであんたの知り合いにそんなすごい奴がいんの?」
「いや、たまたまバイト先にいたんですよ。ハハハ......」
何だか急にすごいディスを受けた気がするが、……まぁ、悪くない。
あっ、でもあれだから。僕がドMだからとかじゃないからね!!
ただ、最初の頃の音無さんを知っている分、今は冗談を言える仲になった気がして悪くないと思ってるだけなんだからね!!
……うん。どちらにしても気持ち悪いような気がするからやめよう。
それに、これが本当に冗談なのかどうかは分からないのだから、やはりコミュニケーションは難しい。
「とりあえず、メンバーの件はわかった。じゃ、その彼女とは今週、顔合わせって感じ?」
「まぁ、そういう感じですね。」
金剛さんを誘った時、最初はバッサリと断られてしまったのだが、事情をしっかり説明すると、顔赤くしながらも、了承をしてくれた。あと、少し怒られた。
なぜ顔を真っ赤にしたのかはわからないけど、音無さんにわざわざ言うことでもないだろう。
「…残りは男子か。」
考え込むようにして漏れ出た言葉。
その言葉こそが今の僕たちが持つ最大の課題となっていた。
実際、今日でメンバー探しを始めて、二週間も経っていた。
僕の方は予想通りと言うか、あまり役には立たなかった。そして、音無さんの方も気になっていた何人かに声をかけたものの、断られたり、お眼鏡にかなう人物ではなかったりなどで見つけられていないらしい。
正直、金剛さんを見つけたことも奇跡に近く、今だに出場するというスタートラインにすら立てていなかった。
そして、残された期限も数日というなかなかに厳しい状況であった。
…師匠の力さえ借りられれば、メンバーの件も、編入試験に合格することについても一瞬にして問題ではなくなるのだが......
「…とりあえず。もう一人の方は私に任して。」
「えっ!?」
「あんたばっかにやらして、誘った私が何もしないなんでやばいしね。」
「…分かりました、それなら、お願いします。」
こんな時だからこそ、彼女も彼女なりの覚悟を示そうとしてくれているのだろう。
なら、僕はそれにただ応えるだけだ。
「じゃ、その子とは今度の休日に会う感じでいい? それまでにこっちも頑張ってメンバー見つけとくからさ。」
「分かりました。そちらはお願いしますね。」
「まあ、やれるだけのことはやってみるよ。それじゃぁね......」
「ま、待ってください。」
「……ん? どうした。」
「い、いや、あの~。……もし、人探しで困ったことがありましたら、言ってくださいね。」
「……あんたはあんたの仕事をしたんだから、そんな細かいこと気にしなくていいの。」
「……まぁ、でも、サンキューな。何かあったら頼るわ。」
「OK、わかった......」、
◆◆。
そして、現在。その約束の日となった。
しかし、その当日になって少し変なことになっている。
会った瞬間は普段と変わらない……いや、普段よりも少しテンションが高くて、今日の事を楽しみにしている様子の彼女だったと思う。だが、店内に入ってスマホを見た後から急に様子が変わった。さらに、時間が経つたびにイライラが溜まっていっている様子で、今では無言、無表情となって圧までも感じる。
正直、もう少しで集まってから3時間が経とうとしているから、そろそろ話しの1つや2つくらい初めてもいいものだが、一向に話す気配がない。
そんな中、金剛さんは雰囲気に呑まれることなく、食事を勧めている。
もうすでに、僕が1日に食べる分くらいは終わったのだろうか。やはりすごいな。
まぁ、普段からそれだけの量を食べられれば、相対的に身体が持つエネルギーの量も多くなるだろうから、試験本番では活躍してくれるだろうと改めて彼女を勧めて安心する。
それに、ある意味このような場所で動じずに食事を続けられる肝の座り具合は目を見張るものがある。……ただ1つだけ言わせていただけるのであれば、この場においてはその能力を発揮してほしくはなかった。
「……あの「ん。」」
そして、何かを言おうとしたら音無さんに言葉を切られてしまう。
高校に入学してからある意味で様々な困難や苦悩を体験してきた。
だからこそ言える、今の状況はその中でもトップレベルに最悪な状況だ。
…………
…でも、そんな最悪の状況だからこそ、考えてしまう。
小さいころにテレビで観ていた英雄や勇者、ヒーローと呼ばれる存在を。
こういう場にこそ颯爽と表れ、助けてくれる人をその英雄や勇者、ヒーローと呼ぶのだろう。
「あっ......」
そして、今もここで1人、誕生しようとしていた。
「大丈夫だった?」
彼女......いや、彼のことはそう呼ぶに相応しい。
「ごめんね、凄い待たせちゃって。」
「待たせすぎ!!」
いや、優樹を待ってたのかよ!!
うん、待てよ? 何で優のことを待っていたんだ。もしかして......
「これでやっと始められる。」
「こいつが最後のメンバーってわけ。」
「どうも!! 二階堂優樹です。よろしくね。」
そこに現れたのは英雄や勇者、ヒーローなどではなくこの最悪の空気を生み出した邪悪の権化だった。
そして、才栄学園に挑むための最後のメンバーだった。
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