第21話 「金剛沙耶」と書いて「逸材」と読む
「お疲れ様でした。」
バイトが終わり、長い一日を今日もやり切った。
最近ではバックヤードの椅子にもたれかかるこの瞬間が最高の時間の1つにもなっている。
「…お疲れ様。」
「お疲れ様です、金剛さん。」
それと最近では、バイト終わりに金剛さんと話すようになった。以前のことを考えればすごい成長だと思う。だが......
「それにしても今日はお客さんが多かったですね。」
「・・・そうだね。」
「やっぱり、新商品が出た影響なんですかね? 結構、美味しそうでしたし。」
「・・・そうだね。美味しそうだった。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
…………会話が続かないッ!!
正直、話題の振り方が下手なのは自負している。
だとしても、この前の会話が嘘のように続かない。というか、この前以外全く話せてない気がする。
「…今日はハンバーグステーキご飯大盛りとドリアと大盛りパスタとピザくらいにするか......」
彼女は彼女で今から食べるまかないのメニューの方に興味が移ってる様子だった。
それにしても今、小声で聞こえてきたのが間違いでなければ、すごい食べる気がするのだが。
「…食べてくなら、これ、おすすめだよ。」
「…そうですね。お腹も空いてましたし、それにしますかね。」
しかし、こうやって話しかけてくれる時もあるから、話したくたいというわけではないはず。いや、そう思いたい。
「……」
「……」
「……」
「……」
~~~
料理が来るまでの長い沈黙を乗り越え、ついにきた食事の時間。
やっと、沈黙の時間から開放されるかと思ったが、実際にはこの空間に食器と金属の音だけが響き渡るだけだった。
しかし、今はそんな時間も悪くないと思ってしまう。
それほどまでに....,.
飯が美味ッい!!
そう。料理の美味しさに心を奪われていたのだ。
「………」
一方で彼女の方はと言うと、僕の反応に満足したのか、口元を少し緩めながら、黙々と食べるという離れ技をしていた。
それも綺麗に無音で食べている。
うん。やっぱり凄いとしか言いようがない。
ここは窓もないから完全に個室のような空間になっていて外に比べて音というものは響きやすい構造となっていると思う。
その中でも彼女は、僕と違い、食器と金属の音だけでなく、咀嚼音までしない。というか、口に食べ物を入れた瞬間にどこかへ消えているようにも見える。
けど、何よりもすごく驚いたのは
……いっぱい食べるな。」
「………ッ!?」
「大丈夫ですか!?」
急にどうしたんだ、金剛さん!? なぜだか、急に咳き込み出したけど大丈夫かな?
「…え、えっと…あっ、あの......」
「…はっ、はい…あ、え〜と......」
「………の
「………」
いや、何かしゃっべってくださいよ!!
常日頃から会話をしていて話術上級レベルの人ならまだしも、僕みたいなのが沈黙から読み取れることなんて無いに等しく。もしそんなことができていたら、友達作りで困るはずなんてないのだ。
だからこそ、僕はこんな沈黙でさえ打ち破る方法を思いつけないのも当然で.....って、僕は誰に言い訳しているんだ!?
「…やっ……た…す……か…」
「うん?」
「……やっぱり、この量は食べ過ぎですか?」
もしかして、さっきの声に出てたのか!?
本当だ。文章の最後に鉤かっこついていた気がする......いや、文章ってなんだ!? さっきから文章とか鍵かっことか何言ってるんだ!?
「あ、あの…そ、その…大丈夫ですよ。学生なんてみんな成長期ですから、そんなに......それだけ食べるのだって普通ですよ。」
「…でも、さっき、「いっぱい食べるな。」って言ってたよ。
「いや、それは言葉の綾と言いますか…そうですよ! 僕だってバイトで疲れていなければ、そのくらい普通に食べますよ。」
そうだ! 僕だってハンバーグステーキのライス大盛りとドリアと大盛りパスタとピザくらい体が疲れてなくて、さらに一日二食抜いて、10時間くらい運動して気持ち悪くなければ普通に食べられるさ.........多分。
「…でも、私、この後もデザートにケーキとパフェとクレープとピザ頼むけど......」
「…それでも、食べ過ぎじゃないかな?」
いや、まだ食べるのかい!!
というか、ビザも好き過ぎでしょ!!
「………いや、でも、ほら!! 見た目には現れていませんし、金剛さんにはちょうどいい摂取量なんだと思いますよ。」
「…それって私の大食いは否定してないよね? 」
「い、いえそんなことは!!」
「…まぁ、運動のし過ぎで食べ過ぎるのはあると思うけど...」
「そ、そうですよ!!運動していたら勝手にお腹は空きますし、それが結構エネルギーを使う運動だったってだけの話ですよ!!」
「…でも、私、剣道部に所属しているだけで、そんなすごい運動とかしてるわけじゃないから.....」
「いいや、凄いですよ!! 運動部じゃないで.で………ん!?」
今、運動部って言ったよな、それも、剣道部だって。それで、確か彼女の学校は......
「……そう言えばなんですけど、金剛さんの学校って剣道部強くなかったでしたっけ?」
「…うん、そうだね。全国大会にも出てるから。」
「………ということは、金剛さん自身も結構強い感じなんですかね?」
「………いや、そんなことない。普通くらい。」
「…ちなみに記録は?
「…………………全国大会準優勝したくらい。」
き、来た~!!
やっぱりそうだ〜!!!!!
彼女が通ってる高校は運ふぉうぶが強いことで有名だったが、彼女自身が運動部に所属していたなんてな。それも、全国大会に出場したこともあるそうだから、運動神経の方も問題ないだろう。
まさか、ここで音無さんが求める人物を見つけられるとはな。
しかし、彼女くらいの才能の持ち主ならば、他にも欲しがるチームなんて山ほどいるだろう。ならば、ここは早めに......
「すいません、金剛さん!!」
「…ん?」
今はただ僕ができる最大限の誠意を持って、熱意と想いを言葉に込めて。
「今の話を聞いてやっと気づきました。」
「……」
こういう時は下手にだらだらと長く話すのではなく、最小限の言葉でしっかりと伝わるようにするのがいいと、どこかの本で読んだ気がした。
とりあえず、今度の休日に音無さんと顔合わせをして、その時に今後、僕らがしようとしていることについて話をするのが良いだろう。
「僕と......
ならば、今は週末に予定が明けられるかどうかをしっかりとした言葉遣いで簡潔に聞くのが良いだろう。
…僕と付き合ってください!!」
「…………………ん!?」
急に噴き出したけど大丈夫か!?
でも、これで了承をもらえたら、音無さんにいい報告ができるし……とりあえず良かった!
◇◇◇
ぼんやりと夜空を見つめながらあいつの声を聞く。
「…OK、わかった。じゃあ、女子の方は見つかった感じね。」
「…そうですね。なぜか怒られてしまいましたけど......」
「そっちは知らんけど......まぁ、了解。じゃ、また今度。」
「はい、それでは。」
「……」
一人、暗くなったスマホの画面の中に映る自分の姿を見つめる。
編入試験をやろうと決めたところまでは良かった。でも、始めたのが遅かったから、いい仲間を探そうにもうまくいかない。
マジでこれからそうしようかな?
「……あと、1人か。」
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