第19話 「出会い」と書いて......
あの日から数日。やっと現実を直視できるようになった。
ここ最近はアニメ見て、カレー食べて、漫画読んで、カレー食べて、ゲームやって、カレーを食べていた記憶しかない。
それほどまでに僕の中で衝撃のあった出来事だったのだろう。
そんなこともあって、最近では何か食べたいなと思って目を閉じると無意識にカレーを作り始めてしまうようになった。
あとは、レイナさんから『最近、連君からカレー臭がするようになったね。』って言われるようになったくらいだろうか。
連は心に128のダメージを受けた。そして、大人の苦しみを知り、一歩大人へと成長できた。
そんな短くも密度の濃い数日間を経て、忘れかけていたあの件だが、今日の朝になってとうとう音無さんから話があった。
◆◆◆
「よっ、おはよう。」
「………」
「…ねぇ、聞いている。」
「…って、うわっ、何ですか!!」
「……だから、おはようって。」
「あっ、おはようございます。」
「…あんた、大丈夫?」
「すいません。学校で話しかけられるなんてこと最近なかったので、油断してました。」
「油断って.......あいさつに油断も何もないでしょ。」
あ~うん。何も言えない。
「まぁ、いいや。それで、試験の話なんだけどさ。」
「……試験ですか。」
「そうそう、この前あんまり詳しく話せなかったからさ。」
やっぱり、やるんだよな。
通常の一般試験でも、入るのが難しい才栄学園だが、編入試験になるとさらに厳しくなる。編入試験の場合は学校側が欲しい生徒をイメージしたテーマで行われるらしい。
そのため、欲しい生徒がいなかった年には受験者が10万人弱集まっても合格者が0人ということもあったらしい。
それに当たり前だが、お金もかかる。受験のための時間も必要。今回だけで言えば、チーム戦だから人数もいないとダメ、それも受かるぐらいの才能を持った人たちが。
そのほかにも色々と理由はあるが、こういうこともあって試験に乗り気ではないのだ。
「……まだ、乗り気じゃないの?」
「いや、まぁ。……そうですね.......」
「何であんたはそんなにしたくないわけ?」
「…お金とかの問題もありますけど、やっぱり受かる自信がないところですかね。」
「僕なんかよりももっといい人がいるんじゃないかって考えちゃって......」
「あ~あ、面倒くさい。あんたは私がチームに入れるって決めたんだから、文句言わないでよ。」
「自信なんかなくてもいい。あんたにはそれを帳消しできるくらいのものがあるんだからさ。」
「えっ?! それって......」
「……言わない。」
「何でですか!!」
そう言う彼女はにっこりと笑っていた。
その表情は以前の彼女から何かが変わったのだとわかるものがあり、その助けに少しでもなれたのだと思うと、胸が熱くなる。
……そうか。やっぱり......僕は......
「それとお金に関しては気にしないでいいよ。私が出すし。」
「……えっ、本当ですか!!」
「別にいいよ。私が誘ったんだし。これで心置きなくできるでしょ。」
いや、そこまでして何で僕を誘いたいんだ!?
……でも、そうだな。ここまでされて、できませんなんて言うのはやっぱり違うか。
「わかりました。頑張りましょうか。」
「お〜やっと、乗り気になったか。それじゃ、まずは仲間探しからだね。」
「仲間探しですか?」
そういえば、今回は4人のチームで行う試験だと言っていたな。
「探すのはいいですけど、当ての方はあるんですか?」
「それがさ、全くと言っていいほどないんだよね。」
「へー意外ですね。一緒にやってくれる人くらい探せばいそうな気がしますけど.......」
「そりゃ、探せばやってくれる人くらい簡単に見つかると思うけどさ。私は勝ちたいの。」
「才栄学園に行くためにやるんだから。」
それもそうか。この試験での合格が目標なのだから、少しでも受かる可能性を上げられるようにメンバーを決めるのは当然だ。
「言いたいことは分かりましたけど、試験の内容がわからないと何もできませんよ。」
「あれ、あんた知らないの?」
「何かですか?」
「試験内容は当日のその場で発表されるの。だから、事前にほとんど分かることはないんだよね。」
「えっ!! それじゃ、どちらにしても決められないじゃないですか。」
「だから、ほとんどのことがわからないだけでわからないことがないわけじゃないの。」
「ほら。」
渡された1枚のチラシのようなものを見る。
「今回の要項には『男女2人ずつ44人チーム』、『汚れても良く、運動ができる格好』、『参加チームに制限なし』って書かれていたの。」
「なるほど、そうなると、体を動かすような試験にはなりそうですね。」
「それと、チーム数に制限がないなら、チーム一斉に行われる競技になると思うんだよね。」
「どういうことですか?」
「以前の試験の中には運動系なら陸上競技の10種目の成績で合否を決めるみたいなのがあったんだけどね。」
「もし、そんな感じの試験だと時間がとにかくかかるし、今回みたいな人数無制限の試験だと厳しいと思うの。」
「あるとしても、フルマラソン走って上位何人かが合格みたいな試験になる感じかな。」
「なるほど、そう考えてみると、少なくとも傾向は分かりそうですね。」
「まぁ、そういうことだから。あんたはとりあえず、運動ができそうな知り合いを探しといてね。」
運動ができる知り合いか.......うん、いないな。というか、同年代の知り合いですら、ほとんどいないのにどうすればいいんだ!?
いや、違うな。そんな事は音無さんもわかっているはずだ。
それでも僕に頼むって事は猫の手ならぬ、ボッチの人脈をも借りたいのだろう。
ならば、それに従うまでだ。
「分かりました。でも、期待は絶対しないでください。」
「わかったよ。じゃ、そういうことだから、よろしくね。」
彼女は満足したような笑みを浮かべ、前の方にいるクラスメイトの元へと向かって行った。
◆◆◆
そして、今に至るわけだが........
やはりと言うべきか、僕に課せられたミッションはインポシッブルだったようだ。
1日中考えこんでいたが、メンバー候補も解決法も浮かばず、悶々とした時を過ごした。
友達もいない。人と話すのも苦手。そんな僕には無理難題だったのだ。
「はぁ〜とうするかな......「そんなところでどうしたのかい。」」
「えっ!?」
この声はまさか!!
高校に入学してから最も聞いてきた声。それでいて、最も僕のことを救ってくれた声。
だからこそ、この声を聞いて安心をする一方、緊張もしてしまう。
心臓の鼓動は急激に高まり、首を伝う汗、震える身体、握りしめる拳が強くなる。
親しいと思っている人でさえも、こうして緊張してしまうのだから、話すこと自体元々得意ではないのだろう。
…やっぱり家での人形と話す練習時間をもう少し増やすか。
そんな思考も時間にして、おおよそ0.1秒。
僕みたいな人間にとってこういった場面での頭の回転は普段以上に早くなる。
そうなってしまうのも、相手が優や音無さんの様なタイプとは少し違うからだろうか。
「君は...」
振り向き、その姿を見て安心する。そんなオーラが彼にはある。
しかし、今まで話そうと思って考えていた内容が一瞬にして消えてしまった。
これも僕みたいな人間にとってよくあることの1つなのだろう。
「困っているようなら、力を貸そう。」
「…森田君。」
「………デュフ。」
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