第12話 「二階堂優輝」と書いて「男の娘?」と読む④
今は外に出て、この店の裏口へと来ていた。
ここなら、大声を上げても人は来なさそうだし、目撃者を黙らせるには最適な場所なんだろう......これって本当にまずくね!!
「……あの~、それで用って言うのは何ですか?」
「お前、いつ俺の正体に気づきやがった!!」
「いつって言われましても、語り始めたあたりからですかね。」
「それって一番恥ずかしいところじゃねぇか!! この格好じゃ俺だってわからないだろう!?」
「僕も初めて見たときはアキが現実にも現れたのかと錯覚しましたし、実際、今近くで見ていても対比できるような対象がなければほとんど分からないですよ。」
「それに、対比できる対象があっても、間違い探しをするくらいにはわからないと思いますけど。」
「お、おぉ~、そうか。何だか、そこまで言われると照れ臭いな。まぁ、そこはサンキュー......って、違うそうじゃない!! なんで俺だってわかったかを聞いてんだよ。」
う~ん。正直、優だと分かったのは感覚だからとしか言いようがない。けれども、彼がこの言葉で納得するとも思えないし、僕自身も何かを見たことで優だと分かった気がする。
「え、え~と、感覚というのが一番なんですけど、強いて言うなら、声と仕草の感じが似ているなっていうのと......」
「……そうだ!! あとは目ですね!!」
「目?」
「……何というか、優のコスプレを見たときに体のどこを見てもアキだなと思わせるようなオーラがあったんですよ。」
「でも、目を見たときだけは違ったんです。」
「アキの目ではないどこかで見た気がする目だなと思って、それで考えてみたら優の目だなって気がしたんですよね。」
「でも、本当に感覚なんで、どこがどう違うみたいなことは分からないんで申し訳ないんですけど」
「……」
下を俯き、沈黙の時間が訪れる。しかし、それも束の間で、
「……そうか。」
「そうか、アハハ、ハハハ!! 感覚か。まさか、俺のコスプレが感覚でばれるとはな。」
「そうか、結構、自信はあったんだがな......しかも、お前にか。それも目でばれるとは。」
僕の答えを聞き、優は何か考えるような仕草を取ったと思ったら、大笑いをし始めた。
僕そんな面白いこと言ったかな? 後半はなんかぼそぼそ言っていてわかんなかったし。
「あ~、笑った、笑った。あまりにも、お前が突拍子もないこと言うから笑っちまったよ。」
「そんな突拍子もなかったですかね!? 思ったことを言っただけなのですが。」
「そうか。あと、これはあくまで俺からのお願いになるんだが、このことをクラスの奴らには内緒にしといてくれないか?」
「元々人に言いふらすつもりは粗ませんでしたし、そんなことぐらいならいいですよ。」
「おう、それはサンキューな。あとついでに、このしゃべり方の事も秘密にしといてくれ。」
「わかりましたよ。」
やはり僕の予想は当たっていた。いや、ある意味はずれていたともいえる。
「これから改めてよろしくな、連」
「こちらこそよろしく、優」
優が出した小さな右手を握りしめる。きっかけは最低で、途中も最悪の連続だった。それでも、今この瞬間のためだったと思うと今日一日が最高に変わる。
何だか優とは長く仲良くやっていけそうだな。
こうして、今日の夜ご飯はお赤飯でも炊こうと決意した僕の一日は少し浮かれた気分になりながら終わっていった。
◇◇◇
「優はあいつが追っているから、結果は明日聞くとして、これからどうするかな?」
今日はゲームセンターに戻ってもやりたいことも特にないし、家に帰りたい気分でもないしな。
とりあえず、そこら辺でも歩いてみるか。
そう決めるとすぐに優やあいつが行った方向とは逆に進んでいった。
「はぁ~、暇だな。今さらだれか誘うのも面倒だし、マジで何もやることがないな。」
そんな愚痴をこぼしながら歩いていると、いつの間にか私は古びた楽器屋の前に来ていた。
周りの店が新しいこともありここだけが一層異彩を放っていた。
「.........もう、こんなところに来る気なんてなかったんだけどな......」
昔を思い出しそうになり、止まっていた足を強引に動かし、私にまとわりついた何かを振り払うように足早にその場を離れた。
どうせ、私にはもう関係のない......無理なことだったんだ。
自分に言い聞かせるように言った言葉。その言葉は最近になって何度も聞いた言葉であり、大嫌いだった言葉。
最近になって、特にあいつと関わってから、こうなるまでのことを考えてしまうようになった。別に、あいつが悪いわけじゃないからしょうがないのだが......
「あっ」
急に角から出てきた人物に気づかず、ぶつかりそうになったのを避けようとして、尻もちをついてしまった。
「痛ぁ~、あんた気を付けなさいよ。」
「……ぶつかる気はなかったんけど、」
「……悪かったね。」
「まぁ、いいや。次からはちゃんと気を付けなさいよ。」
無機質でのんびりとした話し方に少し苛立ちながらも、気にしたそぶりを見せずすぐにその場を離れようとした。
「……君に聞きたいことがあるから、少しだけ待ってくれないかい。」
しかし、踏み出した一歩は意外にもその男に止められてしまった。
「聞きたいことって何? ちょうど時間あるし、少しだけならいいよ」
「……ありがとう。」
「…実は今人を探しているんだ。」
男は服の中から一枚の写真を取り出し、私に見せた。
そこには色白の肌に金色の髪、日本人寄りの顔つきをした普通にイケメンの男が写っていた。
「……名前は伊集院零也。」
「……多分、君の学校にいると思うんだけど知らないかい?」
「…う~ん、こいつは見たこと無いね。もし、見ていたら簡単に忘れられなさそうな顔だしね。」
私の話を聞いて、一瞬何かを考えるようなそぶりをしたが、すぐさまこっちを向いた。
「……じゃ、もし、この人を見かけたら。」
「…‥これに電話してくれないかな?」
「……見つけられたら、その分の御礼もする。」
さっきの写真を取ったところから同じようにメモ帳を取り、その中の一枚に電話番号を書き、私に渡してきた。
「ちなみに、何でこいつを探してるの?」
私の言葉に考え込むも先ほどとは違い、思考の海にでも潜り込んでしまったかのような長い沈黙を経て口を開く。
「…………彼と話がしたい。」
「…それだけ?」
「………………うん。」
「……」
「……」
「あ~わかったよ。もし見つかったら連絡したあげる。」
「……協力してくれてありがとうね。それじゃ。」
「それじゃって、早いな。」
彼が立ち去る後ろ姿を眺めていると、急に何かを思い出したかのように振り向いた。
「……君は何か音楽をやっているのかい?」
「…………別に、やってないけど。」
「…あ~、そうなの。」
「…才能あるからやった方が良いんじゃない?」
「……」
今日会ったばかりの赤の他人なのにこいつは急に何を言ってるんだ。
というか、こいつ、人の思うところをよくもまぁ..................
「……忠告ありがとう。考えておくよ。」
「……うん。」
そして、彼は来た道を戻り消えていってしまった。結局、こいつのことは全然わかんなかったな..................
「……あれ? そいえばあいつどっかで見た気がするな?」
◇◇◇
裏道をとぼとぼと1人歩いていく。
はぁ、こんなところまで来たのに無駄足みたいだったな。
……でも、彼女は彼と関わっている気がしたから、少ししたら彼の事は見つかるかな。
しばらくして裏道を抜けると、1台の黒塗りの車が止まっていた。
「……用も終わったし早く帰るか、才栄学園に」
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